第17話 太陽を食べたがる8つの物語の大人達③
②無自覚な依存からの葛藤と自立
糸子さんには、奇妙なクセがあった。
「仲良くなった人の連れ合いである男性」という限られた状態の存在にネライを向けて執着してしまうということを繰り返していたが、そういう自分の繰り返される言動から自分自身の行動にようやく気が付いたという経験をしていた。そういう問題意識を持って糸子さんはNANAの元を尋ねてきていた。
夫婦であったり、あるいはパートナーがいるという人に近寄っていって、仲良くなることからそれは始まる。
女性の方と知り合いになって、お茶や食事をしながら徐々に親しくなっていくというそれは、相手側からすると自然に見えるのだろう。何の違和感も問題も無く親しくなっていくことになるのだ。相手からすると、糸子さんが何かの初心者であるとか、何かの部分が頼りなさげに見えて、それで面倒を見てもらうというようなことから始まることも少なくないのだと話していた。
例えばそれは、習い事に行った先での出会いだったり、派遣で行った先の職場だったり、イベント参加の際の運営や主催者側の人たちとの出会いが最初のきっかけになることが多かった。
糸子さんは、着るものも話し方も派手な方では無い。どちらかというとナチュラルな服装で、かつ感情表現は抑え気味である。流行のものは服も小物も持たない。化粧もごく薄く。かといって落ち着きすぎているわけでは無く、実年齢よりも若く見られることが多いようだった。真面目でしっかりしているように見えて案外うっかりタイプ、というような印象が強かった。
出会った人たちはやがて、仕事の出来る側の立場からあれこれと糸子さんの世話を焼いてくれたりし始めるが、その頃から糸子さんの中に沈んでいた某かの「
一般的に多い話としては、そういうカップルに近付いていって、男性の方を取ろうという魂胆なのでは無いか、問題を起こしたりして二人の関係を壊す、横取りするということになると思われる。それは世の中に確かによくある話かもしれないが、糸子さんの「
実は糸子さんの
「どうして、あんなやつと、くっついているんだろう。別れればいいのに」
糸子さんが、いつも口にしてしまう言葉だった。
仲良くなった女性の日常のことがわかってくると、付き合っている人がいたりパートナーが居るということもわかってくる。仲良くなった女性の、そのお相手の人を何だかんだと文句を付けて存在を否定してしまう、そんな感情が段々と自分の中に生まれてくるのだという。
さすがに本人たちを前にして口にすることはなかなか無いそうだが、男性の方を否定している自分には常に自覚があるのだと言う。そしてこの話をやけに嬉しそうにNANAに話をしている糸子さんなのだった。
恋愛対象として女性が好きなのだという場合ももちろんあると思うが、これも糸子さんには当てはまらなかった。本人もそうなのかもしれないと考えてみた時期もあったそうだ。女性のことが好きで、そんな行動を取っている自分がいるのかもしれないと、その仮定を肯定的に捉えて観察をしばらく続けたけれども、どうも違うらしいということになった。やはり
「男なんて、絶滅したらいいんだ。そう思ってます」
あってはならないもの、不要なものを、迷惑なものを持って生きてる、とまで言っている糸子さんは、男性という存在を責め立てる時には別人のように熱が入り饒舌になっていく。女性を侮辱することが許せないのだという。女性が酷い目にあっている話とかニュース、体験記などを追い求めては読んでしまうということも日常で多いのだそうだ。そして男性に、社会に、腹を立てていると言う。
NANAを目の前にして、彼女は正直に話しているのだと、それを珍しいことだと説明してくれていた。
その発言だけを聞いていると、今度は男性への恨みがあるのかと言うことにもなりやすい。しかし、糸子さんの
「この世から居なくなればいいんですよ。あの人たち」
確かに男性を憎んでいるのかとも思える発言である。迷いも無いような言いっぷりなのだ。何か過去にそう思わざるを得ないような体験が糸子さんにはあるのだろうかと考えさせられるが、しかしNANAは、ここで答えを急がない。さらにインタビューは続いていく。
話を聴きながら観察を続けていくと、ひとつの傾向が浮かび上がってきていることに気が付く。それは、糸子さんが私生活で仲良くなった女性を対象として「怒らせようとする」かのような言動が少しずつ増えていくのだ。
始まりはその女性へのちょっとした不満から始まる。それまで似たような場面であってもそうは思っていなかったはずなのに、ある時から対象の女性に対して「どうして、○○をしてくれないの?」という感情が募ってくるようになるのだ。それは維持され続け、徐々に膨らんでいく方向に進んでいく。
糸子さんは自分が常に正しい位置にいるので、そこは決して譲ろうとはしない。相手側の方が常に間違ったことを自分に対してしていて、それに気が付いて反省しろ、謝ってから自分のことを察して動き始めろ、賛同しろ、という立ち位置であるということに気が付くことになっていった。
これもタイミングであり、チャンスである。
糸子さんの「
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