第4話 食べるものと食べる者②

 NANAは今日のテーマを見つけていた。


 それは志村さんが話をし始めた時から決まったような、それ以前から決まっていたような気がしていた。少しずつ志村さんの全身から緊張が無くなり、ほどよく緩んできていた。徐々に話は奥の方へと進んでいく。


「食べたんですよ」


「えっ?」


 一段階シフトして、二人の話はより集中していく。


「志村さんは、その方から出ていたものを食べたんです」


「えっ、私が、友人の……」


「食べて、具合が悪くなったんです。飲み込めなかったということでしょう」


「食べる……ようするに、私が受け入れられなかったと?」


「そうですね。何かが合わなくて、飲み込むことが出来なくて、あるいは飲み込みたくなくて、食べられない、食べたくないっていう感じでしょうか……」


「あぁ、もう聞きたくないなぁ、こういう話はもういいよっていうのはありました。それは感じていました」


「私たちって、見るものも聞くものも食べてるっていうことなのですよね。それらの影響を受けるっていうことが起きているんです」


「それは、通常の食事だけじゃ無いんですね。あぁ、むしろその時に頼んだもの、料理は食べ始めは美味しかったんです。でもすぐに料理の味どころでは無くなってしまって。だからこそ、急になんかの病気かと思っちゃって……怖くなったんです」


「見るもの、時には聞くものも、自分が取り入れるっていうこととして考えて見た場合には、それはある意味、自分が食べるっていうことなんですよね。私たちは実にたくさんのものを食べているのかもしれません」


「ええ、本当にそうですね」


「環境もそうです、例えばその場の雰囲気っていうか、空気感というか、そういうものにも敏感な人もいます。その空気感だけでそこには居たくないなって判断したりですね。合う合わない、取り込みたくないとか、影響を受けたくないっていう場合があります。私たちって空気を吸って生きていますから。吸うっていうのは、何を吸い込むかっていうことですから、実は一大事なんです。吸い込んでしまうっていうことは、それらの影響を受ける、受け入れるっていうことにも繋がります」


「おーっ。そうなんですね。二十四時間、私たちは呼吸は休み無くですよね」


「固形物、料理や飲み物も食べ物ですが、環境にある雰囲気や空気感も微細な状態の食べ物なんですね。それこそお皿に乗って出ては来ませんが。その場に怒ってる人が居たりすると影響を受けて一緒に怒り出す人が居たりですね。その場に居続けているうちに具合が悪くなってしまうこともあります」


「まぁ、あははっ。じゃぁ、私たちの周りは食べ物だらけかもしれませんね。これは出来るだけ選ばないと大変な気がします」


「受け付けない感じがしたら、その場を離れるっていうのがシンプルですね。それを志村さんは行動したわけです。選んだんですよ」


「知らずに、たまらずに、ですよ、それは。いやぁNANAさん、私に出来てる、出来ていたよって、そんなこと言わないでください。増長してしまいます」


「えぇ。そうですね。いえ、大丈夫ですそれで。増長してください」


「やだ……私はいい気になってしまいますから」


 志村さんは、そう言うと目の前に用意されていたお茶を一口飲んだ。有機栽培の緑茶だった。ほんのりとした甘みが口の中に広がっていく。

 志村さんは深呼吸をして肩の力を抜いた。


「それにしても、その食事っていうの、面白いですね。私たちは毎日食べているご飯以外のものも食べているんですね?」


「例えば、通常食べているご飯も実はただのご飯じゃ無いですよね」


「え?」


「それも人の手が掛かっています。何かの感情がある人間が作っているものをいただくわけですから、もしかして凄いことが実際は起きているということでしょうか?」


「あっ。そ、そうですよ、そうなると、それは大変!」


「そう、ですね」


「私も料理をして家族に出していますから。イライラしながら、腹を立てながら料理して出すこともたくさんあるんです。それは、いかんですね。だめですね、って思いましたぁ。いやぁ、やばい。うちの子供、すぐお腹壊すんです。やだぁ、ヤバいです。NANAさん。どーしよー。毎日のことですよ」


「ふふっ。志村さん、気が付くって凄いことですよね。本当に。おめでとうございます」


「え? あっ、ありがとうございます……ってイヤだ。変な気分ですよ。何とかしなきゃいけないことが、あっちにもこっちにもいっぱいです」


「私たちがいかに多くのものを食べているのか、食べてしまってここまで来たのか、そういうことを考えてみるのもいいですね。それらによって私たちはここに生きていて、今日という日を生きていて。そしてまた食べている。食べていく。わりと簡単に選ぶことが出来るものもあれば、それがなかなかに難しいものもあるでしょう。変えていこうとしたものに時間をかけていくものもあるでしょうし、掛かってしまうものもあるでしょう」


「きっと、そうですね」


「消化力を改善したりアップしていくという方法もあるでしょうね」


「身体、ですか?」


「身体もそうですが、私たちの捉え方や考え方、意味の持たせ方というような部分でもあります。それをバージョンアップしていくことで変わるもの変えられるものもあるでしょう」


「そっかぁ……」


「例えば食べて消化するっていうのは、占星術では蟹座の象徴です。取り入れたものによって、食べたものの種類によって感情は刻々と変わっていくものだと学びました。受け付けないものは吐き出すわけです。その代わり食べて飲み込んだものの影響は受けるわけです。私たちって無自覚に毎日そうしているんですね、そういうことが多くの場合は知らず起きてるなんて不思議なことですね」


「食べる……かぁ。深いですねぇ。知らないことばかりです」


 「そんな『食べる』お話を本日、いくつかしていきましょう」


「食べる、話ですか」


「はい。私たちが食べているもの、というお話です」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る