014 4月下旬 アルヴァマー序曲 スネアドラム選手権大会(2)
…………そのまま「ラシ♭ドレミファソ……」と4小節目のスケールから、桐谷先輩がクラを吹き出した……!!
次の小節から、チューバ、ホルンも……!!!
……六人と陽くんは、少し口を開け、嬉しそうに驚いている。
私の反対の肩を未来が叩くので振り向く。ニッコニコの表情をしている。
二人で頷き、私たちも楽器を取りに行く。うん!
入口にいたみんなも同じ気持ちを感じていたみたいで、すぐ横の練習室に向かう。
第二会議室に戻ると、間奏部の主題8小節が終わり、転調したメロディーを桐谷先輩と柵木先輩が吹き、チューバが優しく深みのある音を吹いていた。
ホルンのオブリガードが入り、私たちも演奏に加わる。後ろからトランペットのメロディーも一緒に入ってきている。
次々と入ってくるメンバーを見て、陽くんはこちらに向きを変え、嬉しそうに指揮を振り始めた。
間奏部も一番の盛り上がり。
気がつけば、部屋の奥に一列のスネア、部屋の手前半分には立ったまま(チューバだけ椅子に座ってる)の半円の合奏隊形ができ始め、陽くんを中心にまるで円のような形になっていて……。
しかも他のパートの先輩がシンバルを持ち出してきて、有志で鳴らしている。
ああ、優しい音楽とともに、なんて愛のある空間なんだろう。
深みのある響きで………………。
ああ、そうか。これはハーモニー練習で感じた心地良さ…………。
間奏部が終わりに近づく。陽くんが小さく口頭で、「八分音符の
私たちに笑顔を向けた後、再び六人に体を向ける。
左手を悠くんに小さく伸ばし、悠くんが頷いている。
チューバとバリサクの、つなぎのソリに入り……
陽くんがイヤモニの付いている耳に手のひらを当て、タクトを素早く小さく振り上げる。
六人が再び、ピシャリと揃ったスネアを、徐々にクレッシェンドしながら叩いていく。
スネアのストロークの高さがさっきと違う。
パートマスターが悠くんに替わり、音が変化している!
陽くんの後方から、管楽器のみんなも合わせる。人数が多くなったからか、ファンファーレの音がもの凄く広がる!
前奏と同じメロディーが跳ねるように入る。
その後、伴奏パートが奥行きのある八分音符で引き立てて…………主題に入る!
六人のスネアが、後半部の盛り上がりに相応わしい明るい音になった。
悠くんの嬉しそうにスネアを叩く姿が、他の五人に
それが伝わるように陽くんは指揮をし、管楽器のみんなもそれに応える!
スネアが一瞬止まり、タララッタララ〜というメロディーに入る。
陽くんが後ろを見ると、目を開いて嬉しそうに口角を上げた。
私も後ろを見ると…………なんとフルメンバーが集まって、合奏隊形で吹いていた。
クライマックスのサビに間も無く入る。
陽くんは、「いくぞ」という口の形を見せると…………タブレットをタップして、スピーカから流れるタブレットの伴奏を……止めた!
ここからは
クライマックスの主題が「ミーファーミーレーミーファーソーミ…」と流れ、木管はオブリガードの素早いパッセージで応える。
高い音も含まれるパッセージだけど、キーッという音にならず、一つにまとまっている。
陽くんは指揮棒を親指で挟み、両の手のひらを自由に広げてみんなを包み込む。主題でも、オブリガードでも、ミックストーンが生まれ始めている……。
スネアの六人は悠くんの生き生きとしたフレージングにストロークを一致させている。
生きている音、そう、まるで管楽器のように……。
ラスト、クレッシェンドの後に、「タッタカタッター、タッタッタ」と伴奏を私も吹き、金管の長いフレーズに入る。
スネアの「ザン! ザン!」というリズムに八分音符のフレーズが応え、再びフォルテピアノからのクレッシェンド、ラストフレーズ、ロングトーントリル!
「タカタカタン、ザンッ」!!
一瞬の静寂の後……
「「「「「ワーーーーーッ!!」」」」」
と、陽くんを真ん中に、集まったメンバー全員が歓声を上げながら楽器を上げて喜び合う。
「すごい!」「すごい響いた!」とたくさんの人が声を上げている。
悠くんが叫ぶ!
「データは!!!??」
陽くんがタブレットを確認し、持ち上げてみんなに見せる!!
「タイミング成功率98.9%、弱拍表現率95.2%!!!」
「「「「キャーーーーーーーーッ!!!!!」」」」
「「「ヨッシャーーーーーーーーッッッ!!!!!」」」
大歓声が上がる。
スネアのみんなが感激で抱き合っている。
他のみんなも、嬉しそうに跳び上がって大きな拍手を送っている。
陽くんは一人、感慨深そうにして、タクトをタブレットの横に置き、拍手をする。
スネアのみんなは引き続き、両手でハイタッチをしたり、ガッチリ握手をしたりしている。
神谷さんは嗚咽しながら涙を流していて、矢部先輩が「大丈夫?」と声をかけている。
「わだ、わだ、わだし、矢北の吹部に入っで、本当に、よがっだ・・・!!」
全員が拍手をし、「良かったよ!」「頑張ったね!」などと声が上がる。もらい泣きしている人も何人もいる。
向こうにアンドー先生がうずくまって号泣している。
良かった…………本当に良かった……!!
みんなが喜び合っている中、陽くんはスマホを取り出すと、一言二言、誰かに話してから通話を切り、ざわざわしている中で手を上げて話し始めた。
「みなさん、最高! 最高でした! 本当に最高です! 見事、目標も達成です! パーカッションのみなさん、最高です! 管楽器のみなさんも、最高です! アイスですが、」
「あっ、そうだ、アイス! 忘れてた!」
悠くんが声を上げる。そうだった。アイス!
「パーカッションのみなさんにお渡しするアイスを、ちょうど今、入口に持って来ていただきました!」
え? え? とみんながざわざわしだすと、第二会議室の入口からゴロゴロという台車の音が聞こえてきた。
スーツ姿のおじいちゃんの男性……あれ、確か、陽くんと来られた、瀬馬さん? が、大きな白い袋を載せた台車を押して、入って来られた。……台車?
「石上が所属している事務所の瀬馬と申します。今日は大変大きな達成をされたとのこと、御目出度うございます。
そう仰りながら袋を開けると、ドライアイスの煙とともに、五段くらいの箱が見えてきた。
「吹奏楽部の皆様全員分の、32アイスでございます。」
……「「「「「「「キャーーーーーーーーッ!!!!」」」」」」」
みんな、未来も、私も、楽器を放り投げてしまうくらいの勢いで、跳び上がってしまった。
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