第32話:超新星。

「お父さん、どうなってるんですか、ドールはなにをしようって・・・」


ドールは眩しいくらい光って、どんどん大きくなっていく。


「ドールは超新星化を起こそうとしてるんですよ・・・おそらく」

「このまま質量が増すと大規模な爆発をひき起こします」


「もし爆発するとこの星は跡形もなく消え去りブラックホールになってしまう

でしょう」

「ドールにはそういう能力もあるんです」

「私たちの星では女性だけが持つ危険な能力なので禁止されてるんです」


ドールの質量が増し光が部屋じゅうに広がって家が地震みたいに揺れ始めた。


「おいおい大丈夫か・・・家が壊れるぞ誰かなんとかしてくれ」


ヨコチは床にしゃがみこんだ。


「ドール、やめろ・・・落ち着け」


(地球がなくなるって?・・・これって核兵器どころの騒ぎじゃないぞ)


「ドールやめなさい・・・私が悪かった」

「無理強いした私が悪かった」

「お願いだからやめなさい、みなさんを、まきぞえにするつもりか」

「とにかく落ち着きなさい冷静になりなさい」


「私は一人で帰るから、いいなずけには、おまえのことは諦めてもらおう」

「お前はそのほうがいいんだろう?」


「頼む、ドール、俺の言うことを聞いて」

「俺のこと愛してくれてるんだよね・・・俺が消えちゃってもいいの?」

「俺も、地球と一緒に消すつもり・・・」


「俺だけじゃない・・・この地球に生きてる人たちみんな消えていなくなるんだよ」

「お願いだから・・・元にもどって・・・ドール」


「君を愛してるんだ・・・俺だけが消えてなくなるならそれでもいい」

「でも君を失いたくない・・・お願いだから元にもどって」


しばらくすると光が少しだけ小さくなった。


「私からも頼む・・・元に戻ってくれ・・・もう私と星に帰れとはいわん」

「だから元に戻りなさい」


それを聞いてドールの光はさらに小さくなっていった。

パチンコの玉くらいの大きさになって そして太陽君の理想の女の子に戻った。


「ふ〜、一時はどうなるかと思ったよ」


ヨコチが冷や汗を拭きながらそう言った。


「どうも、すいません、親子の問題であやうく星ひとつ消してしまうところでした」


「ドールの決心が固いようですから私は帰ります、みなさんご迷惑でなければ、

娘のことをお頼みしてよろしいでしょうか?」


「ご迷惑なんて・・・ドールちゃんが故郷に帰らなくていいことになって太陽が、

息子が一番喜んでると思います」

「それにドールちゃんのことはうちの太陽がしっかり面倒みると思いますから・・・

そうでしょ太陽」


「はい・・・何があっても・・・」


そうは言ったものの今の光景を見て実は不安だらけの日向さんだった。


「立派なご子息をお持ちですな」

「息子さんを連れて帰りたいくらいですよ」

「まあ、お宅なら娘をお預けしても安心でしょう」

「では、失礼、お邪魔しました」


「ドール、おまえの決心は固いようだな・・・」

「私は帰るが、みなさんにご迷惑をおかけしないように・・・じゃあな」


「パパ、さよなら、もう来なくていいからね」


「そんなこと言わんでくれ、絶縁したわけじゃないんだから」

「たまには顔を見にくるよ」


娘からそう言われて寂しそうなパパは、太陽君と日向さんに深々とお辞儀をして

帰って行った。

パパって言うか、ドールの有機体パパが誰かに変身した姿なんだろうけど・・・。


「あ〜よかった、一時はどうなるかと・・・」


さっきもヨコチは​同じことを言った。


「ごめんね、太陽君、ああでもしないとパパが諦めてくれないと思って・・・」


「もしかしてあれって、わざとなの?」


「ぜ〜んぶなくなっちゃうと太陽君とセックスできなくなるもん」


「もう、びっくりだよ地球全部消しちゃうのかと思った」


「あ、太陽、学校は?」


日向さんが言った。


「俺、お腹が急に痛くなってきた」


タイミングが良すぎるヨコチだった。


ドールは自分の星に帰らなくてよくなったことで、また太陽君と暮らせることを

喜んだ。

今日起こった地球がなくなるかもしれないって恐怖の出来事を、目の当たりに

しながら、その後、誰もそのことを口にしなかった。


見なかったことに、なかったことにしようってことなのか・・・。

触らぬ神に祟りなしってことなのかな。


要するにドールを怒らせなければいいんだって太陽君もヨコチも日向さんも

3人とも同じことを思っていた。

太陽君もヨコチも、あんなことが起こったあとで授業なんか受ける気にはならな

くて結局、ふたりとも学校を休んでしまった。

ドールは太陽君と一緒にいられるからって喜んだけど・・・。


ヨコチは逃げるように、さっさと自分の家に帰って行った。

ドールが超新星化したらどこにいても同じ結果なんだけどね。


一時は一触即発なことになったが太陽君の頑張りでとりあえず日の本家に、

平和が戻ってきたようだ。


つづく。

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