第16話:まるで人気ラーメン店みたいな日の本家。

ドールがゲームの中のキャラ、パム・ランドルだってことが、たちまち校内中に

知れ渡っていた。

ヨコチが言いふれて回ったこととドール直に見た生徒が学校中にふれて回った

から、ドールを見てない人にまで知れ渡ることになった。


厳密に言うとドールはパム・ランドルじゃなく太陽君の理想の彼女な訳で

ヨコチが勝手にパムだと言いふらしてるだけだった。


太陽君は下校時、誰かついてきてないか注意しながらドールを連れて

家に帰った。

連れてというか・・・ドールは空を飛んで太陽君をほったらかしたまま

彼の頭の上を余裕で追い抜いて行った。

だから太陽君はジャイアントでドールの後を必死で追った。

そんなにしゃかりきにならなくても帰るところは一緒なのに・・・。


「そんなに早く行くなって・・・」

「なにが、迷い子になっちゃうだよ・・・とっとと自分勝手に帰ってるじゃ

ないかよ」

「構ってちゃんなんだかマイペースなんだかよく分かんない子だな」


自転車置き場に来たヨコチは自分のママチャリが消えているのを見て

パニクっていた。

ママチャリが盗まれたと思ったヨコチは家に電話をしていた。


この日は、ヨコチのママチャリが消えたこと以外は何事もないかのように

その日は過ぎ去った。

ママチャリがなくなったせいでヨコチは結局、その日太陽君ちへ来なかった。


家に帰ると太陽君はドールに釘を刺した。


「よほどのことがない限り学校へは来ない」


よう言い聞かせた。


そして次の日・・・土曜日の朝、日の本家は平和に朝を迎えた。

台風の前の静けさとはよく言うが午前中は静かなものだった・・・でも

その日の午後のこと日ノ本家の前にまるで人気ラーメン店みたいに長い

行列ができていた。


全校生徒の男どもが大多数をしめていたが中には一般人や女の子もいたり

して太陽君が目的なのかドールが目的なのか分からなかったが、そういうのも

含め何百人も日ノ本家の前に並んだ。


なんでこんなに人がいるんだって太陽君はいぶかしく思ったが、その犯人は

かくいうヨコチだった。


ヨコチがSNSにドールの画像といっしょに、あることないこと載せたから

それが一夜にして一気に拡散してしまったのだ。


「ねえ、太陽君、外に人いっぱい来てるよ」


ってドールは他人事みたいに言った。


行列は、その1日で終わるのかと思ったら、それが一日どころか何週間も続いた。

普段の日は夕方から、そして休みは土・日は朝から・・・。


しまいには「たこ焼き屋」だの「焼きそば」だの「金魚すくい」だのキッチンカー

までも日の本家の前に並んでいた。

まるで、コミケのイベント会場みたいに賑やかだった。


何も知らない日向さんは何事が起きたのかとびっくりするばかり。


「太陽、ちゃんと説明しなさい」


そこで、太陽君は学校で起きた出来事をかいつまんで朝陽さんと日向さんに

説明した。

警察の事情聴取じゃあるまいし太陽くんはそれだけで疲れてしまって、勘弁

してくれって気持ちだった。

しかし、なにより今この目の前にある危機をなんとか平和に収めたかった。


そんなことに驚いてる暇もなく日向さんは大変だった。

連日連夜やってくる人たちの対応、整理整頓でてんてこ舞いだったからだ。


すでに日の本家にやって来ていた騒ぎを起こした張本人ヨコチは整理券を

作って配ったりした。


朝陽さんは私は知らないよって具合に我、関せずと無視していた。

日向さんの顔から笑顔が消えたのをみて、太陽君はこれはいかんと思って、


「母ちゃん、もういいから、いちいち来たやつ挨拶なんかしなくていいから」

「なんにもしなくていいから、父ちゃんとソファにでも座ってろよ」


とは言ったものの太陽君もこの賑わいに閉口していた。


来た連中にドールのことを説明しないと帰らないやつもいたし写真とサイン

なんか求められるから、ドールもは愛想を振りまいて自分をアピールして

目先が変わってまんざらイヤじゃなかったみたいだ。


その横でヨコチが自分の都合のいい時だけ、さも自分ちの出来事みたいに

ドールを自慢していた。


太陽君はコピー用のDVDを大量に買ってきてドールのグラビア動画を作って

みんなに売ってやろうかって思った。


つづく。


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