第11話:横地 幹雄(ヨコチン)。

太陽君は通学路の途中で、いつも待ち伏せしている友人のヨコチ君と

いっしょに通学していた。

ヨコチ君はT時路の手前の右の角の石垣の向こうで隠れていて太陽君が

来るとバカのひとつ覚えみたいに「わ〜」って飛び出してきた。


ほんとにバカだから、以前、太陽君を驚かせようと飛び出したら太陽君じゃ

なくて知らないお姉さんだったことがあって変質者に間違われた。


学習能力がないのもヨコチ君の特技だった。


「お前さ、中学の時から進歩してないよな、ちょっとは学習しろよ」


「変わらないことがいいこともあるんだよ」


ヨコチ君の本名は横地 幹雄よこち みきおシャレにも持っていけない、

なんの変哲もない普通の名前だった。

ヨコチ君は、ひょろ〜っとしていて普段からメガネをかけている。


勉強のしすぎで目が悪くなったのならまだしも 親の遺伝もあったんだろう

けど、完璧にゲームのしすぎだった。

加えてヨコチ君は完璧なオタクだった。


ヨコチ君の自宅から秋葉原あきばはらまで50キロの距離をママチャリで

往復するくらいのツワモノだった。

まるで、弱虫ペダルの小野田坂道くんみたいだった。


オタクのイメージといえば、チェックのシャツに紙袋だが、ヨコチ君も普段、

学生服を着ていない時はよくチェックのシャツを着て紙袋をさげていた。

あと誰も何もしないのによく、ずっコケた。

口癖は「ようするに」と「・・・的な」だった。


太陽君はおざなりの挨拶をした。


「おはよう」


よこち君も適当に挨拶した。


「おはようっす」


ヨコチ君は普通のママチャリに乗っていた。

ヨコチ君のお兄さんのおさがりだそうで高校に入学する時、新車を期待したが

結局、自転車は買ってもらえなかった。


「例のゲームやってる?」


「おう、やってるやってる〜」


そう聞かれると誰もがジミー大西さんのギャグを真似る。

ヨコチ君も、ベタな男だから、ご多分に洩れずだ。

例のゲームとは・・アイドル育成シュミレーションゲーム。


太陽君のクロスバイクと違ってヨコチ君のママチャリは変速機がついてないから、

坂道が来ると太陽君に置いて行かれた。

太陽君のジャイアントは16段変速だからヨコチ君がいくら健脚でも勝てるはずが

なかった。


だから、ヨコチ君はいつも校門までの坂道を、ゼーゼーいいながら上がって来る。

そんなわけで、いつも太陽君が先に学校に着いた。


「俺もいい自転車買ってほしいわ・・・」


と、言っては見るけど、それは言うだけでいつも終わった。


さて・・・太陽君の自転車のあとをつけてきたドールは太陽君がさっき

ジャイアントを止めた「自転車置き場」に降りた。


セーラー服だと自分が黙って学校に来たことが太陽君にすぐバレると思って、

ドールは着てる衣装を変えようと、つまり変装しようって思ったんだな。


選んだ衣装は太陽君の頭の中で他の女の子が着てたアイドルっぽい衣装。


衣装はジャイアントの横に置いてあったママチャリを使った。

ドールは金属であろうがプラスチックであろうが、なんでも分子分解して

好きな物質に好きな形に変えられる能力を持っていたからね。


でもそんなことしなくても今着てるセーラー服をアイドルふうな衣装に

変えたらいいだけのことなのにドールは、そこまで頭が回らなかったのだ。


ママチャリを衣装に変えたドールは大陽君がいる教室を探した。

ドールに勝手にいじられたママチャリはヨコチ君のママチャリに他ならない。


つづく。



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