天童編5 イモ天へGO!
昼食を終えた俺達は天童駅12:28発の山形行き普通列車に乗車し、3分ほどで1つ隣の天童南という駅で降りる。
瑠奈の話していたイモ天ことイオンモール天童は、駅を出てすぐ目の前に大きくそびえたっていた。
「ここで何するのさ?」
「100均入ってる筈だから、そこで推し活グッズの材料調達して作るよ」
「えっ、今から作るの!?間に合うのか?」
マップを確認したところ、試合があるスタジアムまではイモ天から歩いて15分ほどだ。でも、これからグッズを作るとなると14時のキックオフまで余裕がない。
「まさかモンテディオの試合に連れてってくれると思わなくて、家からグッズ何も持ってこなかったもん。スタジアムで買うより安上がりだし、手作りのほうが相手にも心が籠ると思わない?」
「まぁ、そうかもしれないけど・・・・・・」
観戦するなら声を出したりせず、黙って見てるだけで十分だと思ってた。でも、俺が選手の立場だったら、応援の対象がチームだけでなく自分一個人に向けられていたら嬉しいし、その分勝つために力が入るだろう。
「ってことで、時間ないから颯人君も手伝うのよろしくね!」
「マジで!?俺、不器用だから綺麗に作れねーかもよ?」
「別にいいよ。一緒に作ってもらえたら、私は嬉しいな」
瑠奈のためなら仕方ない。ここは一肌脱ぐとするか。
100均で一通り必要なものを買い揃えた俺たちは、イモ天一階にあるスタバに入った。山形に来てまで全国チェーンのお店に入るのは勿体ない気分だけど、フードコートは席がない上にファミリー客で騒がしくて、作業するには落ち着かなさそうだった。
それぞれ注文した飲み物を受け取ると、4人掛けテーブルに買ったものを広げる。
「じゃあ、早速始めようか」
「俺は何すればいい?」
「私は団扇に貼るから、颯人君は淵に沿って切り取ってくれる?」
「わかった」
瑠奈に言われるがまま、買ってきたキラキラ模様のデコを切って渡していく。似たような作業は中学時代にグループ活動で何度かしてきたけど、瑠奈と二人きりでやる機会は何気に初めてだ。
初めての共同作業によそよそしくなりつつも、ズレてしまわないように集中して切り取っていく。瑠奈も配置を考えながらメッセージシールとともに貼り進めていくが、心なしか活き活きしているようにも見えた。
「瑠奈の家にはさ、こういう推し活のグッズたくさんあるのか?」
黙々と作業するのに耐えかねて、俺は問いかける。瑠奈は作業していた手を止め、一瞬目を合わせて答えた。
「部屋を埋め尽くす程はないけど、それなりにあるかな」
「そうなんだ。推し活のグッズってよくわからんけど、どういうの持っているんだ?」
「こういう団扇もだけど、缶バッチやアクスタも作ってあるよ。ほかにも現地で買ったユニフォームやポスター、タオルなんかも持ってて、試合のときはいつも付けてきてたんだ」
「えっ、凄ぇな!!そんなに好きだったら、普段も何かしらつけててもいいのに」
彼女の持ち歩くバッグにはディズニーやサンリオのキーホルダーがぶら下がっており、モンテディオどころかサッカー好きという雰囲気すら感じさせない。きっと、周りと上手く合わせながら、自分の素直な気持ちを押し殺して過ごしてきたのだろう。
「モンテディオ以外のチームのことは正直あまり知らないし、今住んでるところのサッカー好きな人とはベクトルが違うから、話が合わないと思って・・・・・・あ、でも財布に入れて持ち歩いているのならあるよ」
そう言って、瑠奈は財布のポケットから一枚のカードを取り出す。
そこには一人の小学生の女の子と、今より若い小鳥谷選手が写っていた。どうやらチェキをクリアカードにしたようで、年月が経っても画像は色褪せることなく鮮明に写っていた。
「これ、小さい頃の瑠奈?昔からめっちゃ可愛いかったんだな」
「や、やだなぁ・・・・・・そう言われるの恥ずかしいんだけど」
瑠奈は動揺してか、顔を赤くして目線を下に逸らす。その仕草もまた可愛いらしかった。
「この時から既に推し活してたのか?」
作業を再開した彼女はゆっくり頷き、手を進めながら話を続けた。
「それ、ファン感謝祭で昔撮ってもらったものなの。私、小さい頃は引っ込み思案で、なかなかクラスメイトとうまく関われなかったんだ。夢中になれることもなかった小2の夏に、親が仕事先で観戦チケットを貰って連れてってもらったの。当時はサッカーなんて全く興味なかったんだけど、勝利に向かって一生懸命プレーする姿に魅了されて、すぐにハマったんだ。たっくんに直接会ったのは写真の時が初めてだったけど、彼の座右の銘が心に響いて、ずっと応援し続けるきっかけになったんだ」
「座右の銘って?」
「その裏に書いてあるよ」
彼女に言われてチェキ、もといクリアカードを裏返すと、小鳥谷選手の直筆サインとともに、短いメッセージが書いてあった。
『望みが叶う日まで、ずっと成長し続ける』
「このままの私じゃダメだ。たっくんみたいに多くの人の心を動かして、役に立てる人間にならなきゃ。そういう意思が私の中で固まって行動できたの。親の転勤で山形を離れることになったときは凄く悲しかったけど、たっくんもチームが長く低迷していた間、キャプテンとして前を向き続けていた。だから私もこの言葉を胸に刻んで、遠く離れた場所でも頑張ってきたんだ」
単に容姿や成績で判断しているのではなく、小鳥谷拓海という人間性に惹かれたのかと思うと、瑠奈が推すのも納得がいった。中学時代から知る彼女のカリスマ性も、彼が原動力だったのだろう。
俺には小鳥谷選手の達する域に到底及ばない。悔しいけど、嫉妬心は不思議とこみ上げてこなかった。
「よし、できた!」
パンパン、と手をはらい、瑠奈は完成した団扇を掲げる。
黒地を背景に黄色とピンクの文字で、表は『たっくん』、裏は『応援してるよ!』と書かれてた。
痛い人達だと周りに思われそうで恥ずかしくなるが、瑠奈はそんなことを気にせず、完成した団扇を見上げて満足げに頷く。
「いいね!たっくん見てくれるといいな」
手先を使うのは得意ではないけど、喜んでもらえてよかった。その様子に俺も嬉しくなり、労いの言葉をかける。
「気持ち込めて作ったもんな。きっと想いが届くさ」
「そうだよね。手伝ってくれてありがとう。じゃあ、行こっか」
団扇を仕上げた達成感も束の間、フラペチーノを飲み干してゴミを片付け、俺たちはイモ天を後にする。
どんなプレーが見れるのだろう。今から楽しみだ。
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