第9話ムアグレーディア


 王都を覆うほどの巨大な浮遊生物クェイル。


 そのクェイルを従える兄のロビー。


 勤勉で努力家の兄の研究の成果を目の当たりにして、ユーフォニアは喜びで胸がいっぱいになった。


「おめでとうございます、お兄様。ついにクェイルと意思疎通ができたのですね?」


「ああ。そのためには、こいつに食われる必要があったがな」


「食べられて…しまったのですか?」


「そうさ。こいつの腹の中で選別が行われるのさ、エサとなる者と主となる者が」


 ユーフォニアは目を見開いた。


 クェイル教の教義に、神が死を望むなら、笑ってイエスと答えよーーというのがある。黙ってクェイルに食べられろ、という意味だが、まさかそれを兄が実践するなんて、思いもよらなかった。


「クェイル教の教義は狂気に満ちてはいるが、一方真実も含まれていたのさ」


「お兄様は主になられたのですね」


「まあな。紹介しよう、ムアグレーディア。妹のユーフォニアだ」


 ムアグレーディアと呼ばれたクェイルの背中から、光のマナが噴水のように吹き上がった。


 どうやら歓迎の挨拶のようだ。 


「うふふ。よろしくね、ムアグレーディア」


「さて、ここに来た目的を果たすとするか。ムアグレーディア、王都の人間どもを食らい尽くせ!」


 ムアグレーディアは大きな口を開けて王都の人間たち次々に飲み込んでいった。

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