第11話 わたくしの、同僚です

 黒鉄の、大豪邸。普通は白であるはずが、黒一色。しかし生垣は整っており、そこがより気味の悪さを助長じょちょうさせている。


「こ、怖い……! ねぇ、もう帰らない? お……とか出そうだあ」 

「幽霊さんは怖くありませんよ」 

「言わないでください、天ヶ瀬さん!」 


 物怖じせず、月夜が呼び鈴を鳴らした。リン……と、森の中に音が反響。


「招待を受けました、天ヶ瀬月夜です」 


 月夜が丁寧に話すと……扉が、ひとりでに開く。


「ひっ……! や、やっぱりお化けが……って! ま、待ってよー!」 


 びくびくと怖がっているシアルツァは月夜に引っ張られるようにして、中へ入ったのだった。


 内装は、外見に反して豪華絢爛という言葉に尽きる。頭上には大きなシャンデリア。壁や床、柱は純白の大理石が基調。


 月夜とシアルツァの二人はレッドカーペットを踏みしめて……。先日の執事ヴァーサ、そしてその後方に並ぶを目前に固まっていた。


「ようこそいらっしゃいました、天ヶ瀬月夜様」 


 ヴァーサは、ほんの少しの笑みを湛えてうやうやしく、礼。


「早速ですが、まずは貴女様がこれから所属する組織、戦線防衛機構ラインオブヴァルキリーの同僚をご紹介いたします」 


 広間の片隅へはける老人。三人のメイドたちが淑やかに前へ出る。


 その立ち振る舞いは、まさに月夜が三人分いるように見えた。それぞれの隊員の付き人だろうか。……しかし。


 三者三様が、奇抜な自己紹介を始めたのだった。


「テメーが新人ですか。なんで同じカッコですか。アタシたちにケンカ売ってるですか。あ、サン・グロリアッテ。足引っ張んなよ、ガキ」 


 サン・グロリアッテ。赤髪の短髪は、煌々こうこうと炎のごとく揺らめいて。少女らしい幼い面立おもだちと体形だ。そんな少女は突如として体勢を前かがみにして睨みをきかせている。まさに不遜。


「レイニムローシュですわ。レイニムと呼んでくださいまし。うーん、レイニム。いつ聞いても良いあだ名。全世界が嫉妬するでしょうね、レイニム」 


 レイニムローシュ。清流のように流れる青髪を見せつけるようにして手櫛でいている。更に切れ長な眉目びもくと整った目鼻立ち。加えてスラリとした身体プロポーション。見下すような視線は、高飛車という言葉が似あうだろう。


「……あっ、ボクかぁー。ボクはね、くもりん。そのままくもりんって呼んでねー。えへへー。お姉ちゃん、よろしくねー」 


 くもりん。その名乗りの通りふわっとした緑髪だ。童顔にしては不釣り合いな豊かな胸をしており、少女なのか大人なのかを不明瞭にさせている。そのへんも、ふわり。また、メイド服をぐでぐでにして着ており、目線も虚空を向いている。このへんも、ふわり。


「天ヶ瀬月夜です。よろしくお願いいたします」 


 合わせて月夜も、スカートの両端をつまみながら一礼。


「っと、シアルツァ・ナイトです。よろしくお願いします」 


 当然に、シアルツァもペコリ。


 だが少年は、内心こう思っていた。


――え、まさか彼女たちが戦線防衛機構の隊員メンバー


 その、まさかである。


 屋敷も、人も、イメージとは全く違う。人は見た目で決めるものではないなと、シアルツァは心に刻んだのだった。

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