第10話 わたくし、勧誘されます

 夜更け。街頭が照らすクルーアの街は実にきらびやか。月夜とシアルツァは一通り屋台を回り、満腹状態だ。二人は帰路を歩く。


「いやー、俺もうお腹いっぱいだよ! 月夜さんは?」 

「まぁまぁ、ですね」 


 二人は同じ量の食事をしたはずだが、月夜はというとスラッとした体形を保っていた。


「ま、まぁまぁか……因みにあとどのくらい食べられるの?」 

「そうですね……。十倍くらいでしょうか」 

「じゅっ……!? そ、そっかー! 凄いね!」 


 それだけ食べたら、どんな体型になってしまうのか。想像にかたくないが一旦思考の外に放り出すシアルツァ。


「じゃあ、一番面白かったのはどれ? あ、射的とか金魚すくいとか」 

「それならば……」 


 月夜がその解答をしようとした矢先。立ち止まり、左手でシアルツァの進行をさえぎった。


「? どうしたの天ヶ瀬さん」 

「あの男、わたくし達を待っています。知り合いですか?」 

「い、いや違うけれど」 


 街頭の下。しわがれた老人が猫背気味にしてこちらを見ていた。不気味という印象にほかならない。

 

「天ヶ瀬月夜様、でございますね?」 


 見た目相応の枯れた声で月夜のフルネームを口にした。


「……どちら様ですか?」 

「あぁ、申し遅れました。私の名はヴァーサ。『戦線防衛機構ラインオブヴァルキリー』専属の執事でございます」 

「えっ! 凄いです! さすがに俺も知ってます! 姿形すがたかたちは誰も知らない、でも確かに存在する最強の依頼遂行部隊、ですよね?」 

左様さようでございます」 


 「戦線防衛機構ラインオブヴァルキリー」。依頼クエストの最高難易度である竜級のみを受注し確実に完了させる部隊。三人のみで構成されているらしいが……。その詳細は不明。


「近年、依頼の難易度が格段に上昇しておりまして、我々としても窮地に立たされている状況」 

「あの、戦線防衛機構ですら……!?」 

「そこで、です」 


 ヴァーサの咳払い。そして重々しい口を開き、衝撃的な一言。


「この街、クルーアで前人未到の功績を打ち立てた天ヶ瀬様には、戦線防衛機構に加入していただきたく招待状を手渡しに参りました」 

『………………』 


 わずかに沈黙が流れた。その後。


「ええええぇーーーっ!!!」 


 少年シアルツァが割れんばかりの声を張り上げる。そのまま呆然ぼうぜんと立ち尽くした。


「では、こちらを」 


 ヴァーサは二人の前へ。そして震える手で月夜に招待状を手渡す。


「では、三日後にお待ちしております」 


 老人はにこやかな表情をして、うやうやしく一礼。裏路地へと歩き、陰に溶け込むようにして消えた。


 月夜はとりあえず、手紙を開封。そこには流麗な字で時、場所、内容が書かれている。一通り目を通して。


「よく分かりませんが、行ってみましょう」 


 再び、歩き出した。……シアルツァはというと。


「……はっ。ま、待ってよ天ヶ瀬さーん!」 


 置いてかれている事にようやく気がつく。懸命に走り、後を追ったのだった。


 ……そして三日後。二人は森の奥深く。入り組んだ特殊な道のりを経て、目的地に辿り着いた。その先には――。

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