第8話 わたくし、ここからここまで全部です
興奮冷めやらぬ、冒険者ギルド。月夜とシアルツァは身の上の話を根掘り葉掘り聞かれた後。なんとか抜け出して、大人数十人分はあろうかという大きさをした掲示板の前で立ち話をしていた。
「いやー、大変だったね。適当なこと言ってごまかしたけど大丈夫かなぁ」
「さぁ」
月夜は小首を傾げる仕草。実感がないのは、空気感にたじたじだった月夜に代わってシアルツァが全て質問を受けつけたからだ。既に尾ひれがついて噂が広まっているが……。
「ま、まぁ大丈夫だよね。さぁ、
気を取り直して、シアルツァが掲示板を指さす。
「私、これなら……」
「え? どれを受けるの?」
月夜は掲示板の左端へ歩いてゆく。指を突き付けて。
「天ヶ瀬さん、目がいいね! そこら辺になにか気になるのあった?」
「いえ……」
そのままゆっくりと、歩を進める月夜。視線を上下させながら。
「……天ヶ瀬さん?」
シアルツァは不思議そうな目で、黒髪のメイドを見つめる。彼女が右端まで辿り着いた時。そのぷるりとした瑞々しい唇から衝撃的な一言が放たれる。
「これなら、百日もあれば全て一人でこなせます」
「………………」
「はぇ? なんて?」
一日だけで何度目だろうか。シアルツァは
「簡単そうなのを片っ端から受けますね」
呆気に取られた少年を置き去りにし、次々と掲示板の依頼書を引っぺがす月夜。
「ま、待って! 一旦戻して!」
だが、それだけはいけない。少年はすかさず待ったをかけた。
「どうかしましたか?」
月夜が長い髪をふわりとなびかせながら、振り返る。
「ええと……一回に受けられる
この上限により冒険者一人が
「そうなんですか。ではとりあえず戻しますね」
月夜はちょっぴりしゅんとしながら書面をぺたぺた貼り直したのだった。
「では、行ってきます」
そうして手元に十枚だけ残して受付へと駆けた――が。
「あ、あの……」
ここで、シアルツァがおずおずと手を挙げた。何かを言いたそうにしている。
「? どうかしましたか」
月夜が足を止めてシアルツァの方を向く。
「あの、一緒についていってもいいですか……?」
「……なぜ?」
「えっ、と……」
いざ聞き返されると、シアルツァが月夜についていく合理的な理由などもうどこにもなかった。あとはしごできな最強のメイドが全て解決するだろう。だが。
――天ヶ瀬さんの、カッコイイ姿を見ていたいから。……なんて言えるわけないよ。恥ずかしい。
「ほら、あれだよ!
「……」
――下心がバレたか……!? うう、断られたらどうしよう! もっと上手いこと言えよ、自分!
そんな彼の葛藤を知ってか知らずか。月夜はふっとにこやかに微笑んで。
「構いませんよ」
快く承諾した。その返答に、少年は満面の笑みを浮かべて。
「あ、ありがとうございます!」
二人は並んで受付へ。その足取りは、先程よりも
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