第1章 天ヶ瀬月夜の新生活

第7話 わたくし、凄いやつみたいです

 草原のど真ん中にある城壁に囲まれたまち、クルーア。レンガ造りの中世的な建物が立ち並んでおり、今日も人々の活気に満ちている。


 月夜とシアルツァの二人は街の中心街をゆっくりと歩く。会話をしているが、まだ状況整理の真っ最中だ。


「とりあえず、能力値ステータス職業ジョブに関しては理解しました。ここの冒険者ギルド……という所で本当に色々分かるのですか?」 


 紅竜ワイバーン住処すみかからこの街に来るまで、月夜はシアルツァからこの世界について詳しく聞いていた。


 まず「能力値ステータス」。それは力、知力、敏捷性、防御力、魔法防御力、そして運の六つに分かれている。


 そしてそれらを大きく左右されるする「職業ジョブ」。例えばソーサラーならば知力が伸びやすく魔法向け、という特徴的がある。他にも多種多様な職業ジョブが存在する。それは全て、特定の条件を満たすとなれるものだ。

 

「うん……多分。天ヶ瀬さんは他の世界の住人だけど、の生活のためにもギルドには絶対行かなきゃ」 

「これから?」 

「そう。この世界の住人はみんな、依頼クエストを受けてお金を稼いでいるんだ」 


 シアルツァは得意げに人差し指を立てて、話し出す。


依頼クエストには位階ランクがあってね。初級、中級、上級……その上があるらしいけど俺は見たことないかな。まぁその順番で難しいんだ」 

「……ふむ」 


 月夜は口元に手をそえて、少し考えこんだ。


「もしかしてギルドで依頼クエストを受ける……とかでございましょうか?」 

「そう! いやぁー、頭も良いんだね。天ヶ瀬さん」 

「ありがとうございます」 


 歩きながら一礼した、月夜。


「へへ。あ! 見えて来たよ!」 


 シアルツァが声を上げながら指さした先は、街の中央広場。そこには巨大なドーム状の建築物が建てられている。さらに人がこれでもかというほどに溢れかえっているではないか。


「あれが、冒険者ギルド」 


 月夜は、異世界の大きな特徴の一つであろうその建物を見上げながら。少し、高揚していた。




◇◇◇




 冒険者ギルドの中は石造りを基調きちょうとしている。カンテラが照らすオレンジ色をした薄明かりの下には。丸テーブルと椅子に集まって会議をする集団パーティー、飲食物を注文して飲んだくれる者などがおり、様々な過ごし方だ。依頼クエストを受けられるカウンターには長蛇の列が出来上がっている。


 月夜とシアルツァは比較的空いている新米冒険者専用の列に並んでいた。


「あと少しですね」 

「なんか俺、ドキドキしてきちゃったよ」 


 シアルツァはさっきからソワソワしていた。紅竜を一撃で仕留める能力値――。それを今から確かめるというのだから、少年の心は当然に熱を帯びるというものだ。


 そして月夜たちの順番が回ってきた。


「あら、可愛らしい見た目のお客様ですね。いらっしゃいませ。今回はどのようなご用件でしょうか」 


 刺激的な格好に豊満ほうまん身体ボディが隠し切れないブロンドヘアの女性。受付嬢であろう彼女がひじをつきながらこちらを見ている。


 目のやり場に困ったシアルツァは、少しもじもじしながら用件を話した。


「あ、あの。俺の隣にいる方の能力値ステータス職業ジョブを調査してほしいのですが」 

「……」 


 受付嬢はその顔に艶笑えんしょうたたえたまま。ズイッ、と少年シアルツァの顔に身を乗り出していった。思わず頬を紅潮こうちょうさせながらうつむいてしまう、シアルツァ。


「……うう。意地悪しないでください」 


 その反応を見て、いたずらっぽく微苦笑びくしょうする受付嬢。元の体勢に戻って職務をまっとうする。


「分かったわ、坊や。さ、手を出してみてカワイ子ちゃん」 

「はい」 


 左手をさしだした月夜。そこに受付嬢がスタンプのような何かを捺印なついんした。


「あ、すぐに消えるやつだから安心してちょうだいね」 


 受付嬢は軽く瞬きウインク


 月夜の左手から、空中に誰かが字を書いているかのようにして、紋様もんようが浮かび上がってくる。


 「……」 


 それを見た月夜は心の中で「文明、ですね」とつぶやいたのだった。


「どれどれ、どんな感じかしら……って、あら?」 

「ええっ!?」 


 シアルツァ、受付嬢の双方が身体が跳ねて驚く。


 この世界で、誰も見たことがないような数値がそこには示されていたからだ――。


 力「限界値」 知力「6480」 敏捷性「限界値」 防御力「限界値」 魔法防御力「限界値」 運「603」 職業ジョブ「メイド」 


「ほ、ほとんど限界値カンスト……! ヤバすぎる……! 後なんで職業ジョブが最初からあるの!? しかもメイドなんてあったっけ!?」 


 シアルツァの上擦うわずった声を聞きつけて、周辺の冒険者たちもわらわらと集まってくる。


「おいおい嬢ちゃん、マジかよ!?」 

「すげぇな! これなら依頼クエストなんて全部楽勝じゃねぇのか! かーっ!羨ましいぜ!」 


 ――ウォォォォォ!!!


 たぐいまれなる才能を目の前にして、異様いような熱気に包まれていくギルド内。それをよそに。


「はて」 


 当の本人メイドさんは首をかしげており、いまいちその凄さをよくわかっていないようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る