第6話 わたくし、異世界転移?したそうです
「……やりすぎてしまいました。申し訳ございません、ドラゴンさん」
月夜は熱がこもって煙が立ちこめる拳に、ふっと息を吹きかけた。
「えええええっ、強ぇえええええ!!!」
少年はその景色に
「い、今のどうやってやったんだよ! お姉さんの
月夜に向かって走り、ぐいぐいと迫って質問攻めをする少年だが。
「はい? 今、なんと申し上げましたか?」
当の本人はただただ力を込めて殴っただけ。その他のことは全くもって考慮していない。というか知らない単語を
「あっ、そうだ。あの、お姉さん――」
少年が何かを言いかけた
「うわっ! 地震!?」
「お姉さん、どうしよう!」
「あそこから脱出しましょう。
月夜が指をさした先は、吹き飛んだ紅竜からできた光あふれる地上への道だった。 少年を背負った月夜。しゃがんで勢いをつけてから、その並外れた脚力で高く跳躍する。
「うわわ、うわぁーっ!」
少年は、ふわりとした感覚を味わって力が抜けてしまうのであった。
◇◇◇
地上の景色は、見渡す限りの原っぱだった。
「こ、怖かった……」
少年は未だに立てず、月夜の膝の上に寝転がっていた。……両者、どうやらこの状況に何とも思っていないようだ。
「大丈夫ですか?」
「ち、ちょっと待って……」
そうして数分後。
「うん、ありがとう。もう立てるよ」
ようやく立ち上がった少年。さっき言いそびれた問いを、投げかける。
「お姉さん、名前は?」
「あ」
そうだった、と。手のひらをポンと叩いてから。メイドらしく、
「申し遅れました。
「俺はシアルツァ・ナイト! よろしくね」
シアルツァは
「ていうかリイン邸ってどこにあるの? 聞いたことないなぁ」
「……?」
月夜はその発言に違和感を覚えながらも、返答する。
「意外と有名ですが……そうですか」
「あ、じゃあさ、地名を聞けば分かるかも! 教えてみてよ!」
「日本の、東京です」
さすがに知っているだろう。そう
「うーん、知らないなぁ」
「はぇ?」
月夜は思わずおかしな声を出してしまった。恥ずかしそうにしている。それを横目にシアルツァは腕を組んで、考え込んでいた。
「もう一個だけ質問してもいいかな?」
「是非、お願いします」
月夜も自身が一体なぜ、見知らぬ土地に突然放り込まれたのかを知りたいのだ。だからこそ、むしろ質問を望んでいる。
「天ヶ瀬さんさ、どこからどうやってここに来たの?」
これまでの経緯を辿り、まとめた月夜。
「リイン邸の地下二階にある、奇妙な形をした壺に触れて光を浴びました。そして気づいたら……洞窟に」
その答えに対して、シアルツァの中にあった
「えっと、今から言う事はふざけてる訳じゃないよ。でも、もしかしてさ……」
シアルツァは、自分でもそんなまさかと思うような、一つの結論を出した。だが、
「天ヶ瀬さん、異世界から来た……とか?」
「………………私、異世界に来た、って事ですか?」
月夜は目を見開き、同じ言葉を
ついぞ気づいてしまった天然クールなメイド、天ヶ瀬月夜。
さぁ、彼女が異世界でその力を奮った無双と、成長の物語が今、始まるのだ――!
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