第5話 文化祭、貴公子と姫は歩く

11月の秋、奏多や命が属する高校では文化祭が開かれていた。

その祭りにて、クラスの出し物の出番が終わった奏多は一年生辺りの出し物に来ていた。

その理由は目の保養とか、楽しむためのものではない。ある意味言えばそうかもしれないが、一人でするために来た訳ではない。


今現在の奏多にとって、友人よりも大切で、心底大事にしたいと、一緒にいたいと思っている人物を見に来たのだ。

"迎えに来た"、ではなく"見に来た"なのは、我欲が混ざっているが、貴公子なので許可された。

美しいは罪である。


「ご注文はいかが、です、か…」

「やっほ。来ちゃった。注文はねー、ストロベリーのジュースに牛乳とはちみつとシロップ入れてくれるかな。あとは命が萌え萌えきゅんをしてくれたら俺は超満足」

「す、する訳ないでしょ!」

「あーらら、残念」




倉橋命は怒っている。何故だと思う、そう問いただしてみれば、奏多はこう答えた。


『健康に悪そうなジュースのこと?』、と。


それに関しては怒っていない。

アレは命も好きなので、怒る筋が無いのである。


「私、言ったよね。メイド姿なんて見られたら恥ずかしいから、来ないでって。来たら何でも一つお願い聞いてもらうって」

「うん、だから行った。これって引換券でしょ?」


奏多はその言葉と共に、静かに笑う。

悪戯が成功した子供のように、無邪気に。

その愛らしい奏多の姿に少しニヤけつつ、命は仮初の罵倒を口にする。


「まあ、焼きそばでも何でも奢るので勘弁してくださいな」

「それで終わらせようとしないで。終わったらコスプレを着させてもらうから」

「はいはい、分かりましたよ」


その罰ゲームと言える内容すらも甘く受け止めている奏多に少し見惚れながらも、各クラスの店へと向かっていく。

そういうところが、命は好きになった。それだけではない。数え切れないほどのソレが、命にとっては虹の塊。


そうして見惚れているウチに焼きそばとクッキーを買ってくる好きなのである。


「相性最悪」

「いやー、近くにあったから」

「責めてない。貴公子だから勝手に選ばれてたんだなって感心していただけ」

「褒めている風で刺してくるのやめにしない?」




「美味しかった」

「流石元料理人の神崎先生が学年主任の一年生。最高の料理を届けまくっている」


家庭科の授業で迷惑を出しまくっていた過去を思い出しつつ、心の中で静かに感謝を送る。

食材の扱い方だけではなく、食材の保存まで手を回してくれたおかげで、奏多は命と共に文化祭の食べ物を楽しませてくれた。


そのお礼も込めて、今度レシピ交換をさせてもらおう。


「そういえばなんだけど、二年生は店とかどうなってるの?一年生は主に飲食店だったけど」

「二年生、二年生かあ…まあ、ふざけまくってるのは確かだね」

「ふざけまくってる?例えばどんなの?」

「例えば、かー。例えばだったらねえ」




二年一組、クラス目標は金儲け隊。


祭りのようにコルクガンと商品を用意し、撃ち落としたら景品とする店である。

通常と比べると難易度が高いので、本気になっている大人たちに好評な店だ。


主な客(幅白財閥)




二年二組、クラス目標は何でも良いからギャンブルしようぜ。


激渋ルーレットを使用した賭博である。

それに普通の大人は寄りつかないが、金持ちなどは砂糖の蟻が如く寄っていく。


主な客(幅白財閥、幅白財閥の子会社)


「全部幅白財閥なんだけど。この高校、通りでお金あんまり取らないのに施設が潤っていると思ったら……幅白財閥とズブズブじゃん」

「そうだよ、ズブズブだよ。だからあの親バカ過保護野郎が……父さんが許可したんだし」


呆れと舌打ちをしながら告げる奏多に、命は少量の引きを晒しながら頭を撫でる。

頑張って背を伸ばし、少し荒げの奏多を落ち着かせる。

その姿に、命に対して色々ゾッコンな奏多が通り過ぎれる訳もなく。

顔を赤くさせ、撃沈直前まで近づいていた。


そして、命による奏多への攻撃タイムは終了していない。

撃沈直前まで至ったのは、頭を撫でられる事実のみ。故に、出会ってから約八ヶ月によって磨かれた頭を撫でるテクニックを持ってすれば、撃沈するまで奏多を堕とす事が可能なのである。


「うーん、こういう甘え対決の時、少し弱すぎだね。私的には、もうちょっと張り合いが欲しいんだけど。毎回毎回私が勝って、少しつまんないよ。夏祭りの時みたいに私を照れさせる気で。感情こめて、一生懸命の気持ちで」

「無茶、言わないで」

「ごめん、言う。私、昔と比べて随分と子供に近づいちゃったから。好きな人には普通にそういうこと言うよ」


振り回してきたから、今度は命が振り回す方に移った。

たったそれだけの事実。だが、その事実が、命を自分が変えた。その思いが、奏多自身の心臓を信じられないくらいに上げさせる。


その心と共に、貴公子は抱く。一方的にやられているつまらない現実に、何か反抗したい、と。

生半可な言葉だったら返り討ちになる。

ならば、返り討ちにできない行動と火力で行く。


「なっ…!?」

「照れさせてって言ったじゃん。だから、俺はクソガキらしくしようかなって」

「さっすが王子様」

「貴公子だよ。まあ、命のにならなっても良いけど」




おまけ

周りの反応


「あの子達、アレで付き合ってねえんですぜ。嘘みてえでしょ?」

「えぇぇえ!?」

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