第2話 会話に苦しむ貴公子と姫様

『さて、白蓮くん。報告と相談があります。どっちから聞きたい?』

『お前……LIN◯で朗報の時だけ変なテンションになるよな。てか、報告から聞かなきゃ流れが理解できないだろ』

『どっち?』

『聞いてないなこりゃ。そんで?報告ってのは?』

『なんと陸上の姫様にLIN◯交換してもらえました』

『へー。寝て良い?』


昼のチャラチャラしたような白蓮とは違う白蓮。塩対応、それが親しい者との対面でようやく見せる真の白蓮である。


そんな訳で特に珍しい姿というものでも無い。ただ猫が落ちただけだ。

こんな面倒くさそうなオーラが文面から出ているのに、毎回話してくれるのは優しさだろう。


相変わらずの塩に少し微笑みながらも、相談をしていたかった事を打つ。

話そうと命に言ったら柔軟するから明日と言われた事を。


『ぴえん』

『ぴえん言うな貴公子。てか、明日に約束してくれてるんだから脈は無いと言い切れないだろ』

『脈?なにそれ。……まあとにかく、約束はしてくれたんだよね。じゃあ明日の昼休憩とかに遊びに行こう』

『そういう意味の言葉じゃないと思うんだが。それに、ファンはどうすんだよ』

『先手は打ってある。ファンクラブ会長に連絡して手を出さないように伝えてるの。もし手を出したら幅白財閥の権力を用いて潰すとも(暗黒笑み』

『お前の場合、真実か嘘か分からないから辞めて欲しい』


奏多はその言葉を見た途端、つい頬を膨らませてしまった。

自身を完全には理解されていないとは思っていたが、その程度は理解されていると思っていた。


その考えは傲慢と言えるものだったのかもしれない。まだまだ互いの理解度が足りない事にため息を吐きながら、奏多は文字を打つ。


『真実の方だよ』と。


それから数分の間、LIN◯にメールが来る事はなかった。

そして、その数分が超えた後も、『あー』『そっか』『うん、そうなんだ』というメールが来ては取り消しを繰り返す。


何かまずい言葉を言ってしまったのかもしれない。そうして過去の会話に焦点を当てるが、それらしい言葉は出てこない。


幅白奏多、末期である。


『まあ、対策してるなら良いんじゃないか。素の自分を晒せば良いんじゃないのか。他人とは対応が違うのを見せれば良い』

『え、あのクソガキムーブを?ぶっちゃけ貴公子として程遠い姿を見せてもって感じなんだけど』

『カップルになればいずれかは見せるだろ。そもそも、他と同じ顔を見せても女は自分が上にいると感じない。他とは違う、特別扱いをすれば自分は違うんだって理解できる』


白蓮の言っている話は奏多の学校での立場、そして奏多を理解しているからの言葉。

この幅白奏多という男はそういうのに疎い。

プレゼントは分かっても、女心は分からない。

それが奏多だ。


他に貴公子の面を出して、好きな人(奏多は興味ある人と言っているが)にも同じ対応をする。

それなら振り向くものも振り向かない。


何故それで貴公子を名乗れているのだと思うところはあるが、勝手に振り向いてきたのが影響しているかもしれない。


その言葉を聞いた奏多は現実で強く頷き、明日への姫の対応を強く決める。


『でも、やり過ぎはダメだぞ。暴走は離れられてしまうかもだからな』

『おい?おーい。返事をしろ』

『ダメだこりゃ』




貴公子がLIN◯で迷っている間、姫も同じくして迷っていたのだ。

中学から部活一筋、男子に興味はなかったし、命に興味ある男子もいなかった。

もしかしたら居たかもしれないが、表立って強い人気はなかった。


高校に入ってからは姫と持て囃されたものの、飛んでから視線は酷く脆く、酷く朧げであった。

他より魅力的な者が現れたらすぐに変わる。そんな不安定さがそこにあった。

しかし、部活中に飛んできた男は違う。

瞳が熱心で、必死で。命が部活に対して抱いている思いのような、そんな真っ直ぐさがあった。


だから、命も最終的には折れてしまった。


『という事で、忍。どうして私なんかに会いに来たのか、分かる?』

『という事じゃ何一つ分かんないんだよ。多分今日の部活中に発生した貴公子事件?』

『そうそう』

『だと思った。私だから分かるけど、他じゃ分かんないよ?主語つけなよ』


理由が分からない。

だから親友の赤星忍に相談しているのだ。

しかし、返ってきたのは半ばお説教のような言葉。グサグサと刺さるものを感じながらも、命は次の言葉を待つ。


『ちょっと待って』とメールが来てからの十分は新しいのがくる事はなかった。

柔軟が終わり、暇になって熊のぬいぐるみを使って遊んでいれば、その時は突如として襲来した。


桃色のスマホカバーを被ったスマホから通知が鳴る。何故かドキドキしている自身の心臓に驚きつつ、スマホを取る。

どんな思いか分かると感じたその心。

それは次の瞬間に裏切られる事になってしまう。


『分かんないって』

『え、なに。分からないけど言ってきたの』

『いや、そういう事じゃないんだよ。自分が持っている感情に驚いてるの。多分自分で恋心を抱いたこと無いんじゃないかな。イケメンだし性格良いしだから。恋愛的に好きってのは全然あると思うんだよ』

『あれ?命?おーい。返事してよー』

『兄さんが奏多さん来るって言ってたし……明日相当まずい事になるかも』

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