貴公子は一人の姫に恋をした

鋼音 鉄@高校生

第1話 貴公子と呼ばれる男

ある高校にて、一人の男が在校生として属していた。名前は幅白奏多。容姿が格好ついている点から貴公子と呼ばれる男である。


当初はその名前に恥ずかしがっていたものの、今はもう慣れてしまった。

どうしようもないと感じた時の人間の適応は凄まじいものである。


「うわー。めっちゃ食べるじゃん。奏多の金から出してるから良いけど、後が大変なんじゃねえの?女性陣で学校のアイドル的存在じゃんか。なんか違うで離れる心配はあるだろ」


奏多の親友、赤星白蓮が言っているのはカレーを十皿も食べている事。

貴公子は少量しか食べず、いつも腹八分目を保っている。そんなイメージを崩すかもしれない。

そう言っている。


だが、心配は無用だ。白蓮は知らないだろうが、奏多のファンクラブメンバーは並大抵な精神はしていないのだ。

金を貸してと言われれば貸す。頼んでもいないのに定期的に貢ぎ物を持ってくる。

そのファンクラブ連中なのだから、ギャップで離れることはない。むしろ萌えるのが幅白奏多のファンクラブである。


「簡易ホストじゃん。お前に狂わされた女が可哀想になってくるぞ」


酷い言いようである。誰が好き好んで大多数の女性を狂わせるのだ。

後に痛い目を見るなんて想像に難くないというのに。


とは言え、負は確かにある。

印象が良いように、本来の自分を誤魔化した。

どの方向にも良い顔をして、醜い自分なんて存在しないように演じた。


だからと言って誰が想像すると言うのか。こんなある意味迷惑パラダイスのような状態を。


「俺さ、思う事があるんだ。高校デビュー失敗したかも」

「高校二年生になってからその発言は、ちと遅くねえか。それに、お前をよく知る人物なら誰もが知っている事実だろ」


この親友は相変わらずグサグサと物事を言う。

他人が気にしている事実でも躊躇いなく言えるのは裏表がないという長所として言えるのだろうが、それでも不安になる程ズバズバいう。

割とグザッ来たのは事実だ。


未来に狂わせた女性の誰かから刺されるような未来を想像した時ぐらいクザッと来た。

自分でも分かっているのだ。後悔する、取り直そうとするには遅いと。

しかし、しょうがないではないか。貴公子の言葉に照れていたらココまで時が進んでいたのだから。


「そういえば……陸上の友達が言ってたが、陸上部に期待のエースが入ったらしいぜ。速いのももちろんとして、合同練習では麗しき見た目から姫と呼ばれてるんだって。一部の者からは新しい姫の降臨だとか地を駆ける姫とか呼ばれてるみたいだな」

「この学校、綺麗だったり可愛かったりの女性を姫姫呼びすぎでは?」

「貴公子とかいう呼び名があるくらいだ。もう今更だろ?」


そこで何故奏多を出してくるのだろうか。

確かにこの学校で一番有名で一番人気なのは奏多に間違いはないだろう。

だが、もっと他の例があっただろう。今年の生徒会長や演劇部部長。嘘ばっか書く学校新聞部の副部長などなど……。


最初の時と比べると羞恥心は下がったものの、その呼び名が好きになれる程に自分が好きではない。

というか、いつでも羞恥は差異あれど感じているので、辞めて欲しいところではある。


「それはそうだが」

「だったら良いじゃん。気にしない方向でいこーぜ。呼び名を意識外に追い詰めれば何とかなるって」

「超絶身勝手な発言だな」

「まあまあ。それは水に流してもろて。話を戻すと陸上の姫に関して。放課後、見に行かね?」


この親友の知的好奇心には困ったものだ。

すぐに突っ走る性格を知ってて友達になったとは言え、何度振り回されてきた事か。

しかし、見るだけならタダとも言うし。行ってみて良いだろう。

けど、会ってはならない。姫や貴公子、そう呼ばれている者にはファンが存在している。


奏多には女性のファンが多く、姫と呼ばれる者には男性ファンが多い。

ぶっちゃけて言ってしまえば、「どうしてファンに気遣う必要があるんだ」「なぜアイドルのような真似事を」…そんな言葉が出てくる。

仕方ない事だ。この学校でそう呼ばれた際、どうしようもできない。


「めんどくさ」

「だろうな。俺もその立場にはなりたくない」




6の授業が終わり、放課後となった頃。

陸上部は活動し始め、走っている。貴公子として文武両道を高めている奏多であるが、走りを主にしている者には敵う気がしない。

走るのによく熱意を注げるな、と尊敬の念を抱いていれば、一人速い者が目に入った。


陸上女子の中では何段階も高みにいるその人。髪は陸上のためだろうか、短髪にしている。


「ほら、あの子だ。倉橋くらはしみこと。全国の中学大会で2位に輝いた実力者だ」

「倉橋…命」


どうしてか。奏多の瞳には魅力的に映って仕方ないのだ。

いかなる女子もそう認識してはいけないと除外していた筈なのに。

興味が惹かれる。知りたいと感じてしまう。


「そんじゃ帰るか」

「待って。会いたい」

「はぁ!?貴公子として会っちゃいけないんじゃ無かったのか!」

「で、でも…」

「…ああ、そういう事か。そんなに会いたいなら会えば?俺はなんの責任も持たん。巻き込まれたくないから帰るな」

「成功を願っといてくれ」

「叶わないから無駄だろ」




おまけ

・後の会話

「興味が出た」

「帰れ」

「LIN◯交換しよ」

「は?部活終わりまでいたら交換してやる」


「キモ。なんでいんの」

「交換してくれるって言ったから」

「はぁ……しょうがない。良いよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る