島の伝承『口無しのカリヨン』
その娘はカリヨンといいました。
口がきけないカリヨンは、人里から遠い荒れ野にひとりで暮らしていました。しかしカリヨンは、なぜか歌うことだけはできました。
あるとき、カリヨンのねぐらのそばを旅の道化師が通りかかりました。道化師はカリヨンの歌を耳にして飛びあがり、何度も素晴らしいと言って彼女を称えました。そして、どうして自分だけがこのふたつとない歌声を聴けるだろう、もっとたくさんの人に聴かせてあげるべきだと訴え、彼女を街に連れ出しました。
道化師の言ったとおり、カリヨンはたちまち街で一番人気の歌姫となりました。彼女の歌を聴くために、連なる島々からたくさんの人々が押し寄せました。その誰もが彼女を称え、舞台の客席で感極まって泣き出す者もいたほどでした。
しかし、ほどなく悪い噂も立ちました。旅の道化師は、行く先々で人をだましてお金を稼ぐ悪人でした。カリヨンのために用意した舞台でも、訪れたお客の中からだませそうな人を見つくろっては詐欺をはたらいていました。
しばらくして、とうとう道化師はお縄になりました。彼は死刑にされ、カリヨンも仲間だと疑われて国を追われました。昔のねぐらよりもっと貧しい岩だらけの島にカリヨンは身を寄せ、声が
この世のものとは思えないほど美しいその最後の歌は、道化師の魂を慰める歌だったといいます。人をだましてばかりいた道化師も、カリヨンの歌を称えるときだけは、嘘をつきませんでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます