第46話



 ――『ドントラークファミリー』を壊滅させた後のこと。


 俺は再び車椅子に乗ったお嬢様、ブラエに見送られていた。



「せっかく力が戻ったのに、車椅子それまだ必要なのか?」


「ええ、流石に足が萎えてますからね。しばらくはリハビリが必要です。それに……」



 ちらり、と。ブラエは頬を染めながら後ろを見た。そこには微笑を浮かべるメイドのアウラが。



「彼女が世話してくれますから。それがなんだか嬉しくて」


「はいっ! 私もお嬢様のお世話が大好きですだぁ~!」



 あーはいはいはい、ごちそうさまですバカップルがよ。



「んじゃお邪魔虫はクールに去るぜ。お幸せにな~」


「あっ、ちょっとお待ちなさい、ジェイド……さん。アナタ、報酬の話はしませんの?」


「はぁ?」



 何言ってんだ百合ガキめ。



「お前、俺のことを雇わなかっただろ? じゃあ報酬なんざ受け取る義理ねーよ」


「えっ、ええぇ!? 待ってくださいっ、アナタ、この『開拓都市コンスタンティーノ』を救ってくれた英雄なんですよ!? それなのに……」



 別にいいっつの。


 今回はちと邪龍パワー使いすぎたからな。


 チートパワー利用して貨幣手元に集めまくったら、待っているのはマトモに生きてる連中の破滅だ。


 だから決めてんだよ。『そこそこ程度の力』で手にした金しか貰わないようにしてるってな。


 それに、



「マフィアが壊滅したとはいえ、街の経済は停滞したままだろ? それにメイドさんへの給料もあんま払えてないそうじゃねーか」


「それは……」


「だったらそっちからなんとかしな。甲斐性見せろよ、領民とメイド嫁に」


「嫁って!?」



 いやいや嫁だろ。もうそこについては議論する気ねーよ。



「つーわけで、じゃあなブラエお嬢様。アウラさんと仲良くなー」



 言うだけ言って、『邪龍ダッシュ』でさっさと失せることにした。


 そろそろ晩御飯の時間だからなー。今日はルアとシロクサのアホにメシ誘われてるから、ちょっち急ぎますかなっと。



『――』



 と、その時だ。

 全開にしたまんまだった『邪龍イヤー』が、不意に去りゆく街から声を拾い、



『まったく。素性の分からない人でしたけど、でも』


『なんだかんだでお人よしな方でしただねぇ~』



 とバカップルの語らいを聞いてしまったのだった。


 別に気まぐれだっつーのっと。




 ◆ ◇ ◆




「「ねーねーお兄さん聞いてるぅ~!?」」



 お嬢様ズと別れてから数日後。俺は天才冒険者姉妹、ニーシャとクーシャに絡まれていた。


 ニヤニヤ笑う生意気なほうがニーシャで、クスクス笑う慇懃無礼なほうがクーシャだ。



「「お兄さん~!?」」



 あーはいはい。



「もちろん聞いてるよ。甘えてアイリスの乳吸ってたら母乳出たんだろ? よかったな」


「「まだ出てないよッッッ!」」



 いや、まだってなんだよ……。

 俺適当に言っただけなんだが、お前ら頻繁に吸ってるのかよ。



「そーじゃなくて、森を開拓してたらおっきな湖が見つかったんだよ!」


「そうです。現在は周囲の魔物を掃討してますが、いずれ浅瀬まで乗り込むことになるかと」



 ほうほう。ついに見つかったか。


 ――現在、冒険者たちは『聖都』を中心として蜘蛛の巣状に外に広がり、魔物を駆逐しながらヒトの住める土地を増やしている最中だ。


 ここ『開拓都市トリステイン』も同じくだな。


 外側にある魔の森をじっくりと切り拓いているところだった。それで湖を見つけたと。



(ま、俺は知ってたんだけどな~。邪龍だから飛べるし、てか現代知識あるし)



 我らが『ブリタニア聖王国』は、現代でいうブリテン島に位置する国だ。


 そんで発見された湖ってのは、まぁ『ウィンダミア湖畔』のことだな。避暑地として有名な場所だって書いてあったよ。wikiに。



「水場が見つかったのは大きいよね。今後、さらに外側に開拓都市を作る時に水は絶対必須になるもん」


「でもとにかく大きすぎる湖なんですよねぇ。どれほどの水棲魔物がいるかわかりません。いずれは三級以下の下級冒険者にも声をかけ、人海戦術で掃討することになるかと」



 なるほどな。そりゃ稼ぎにもなるし楽しみだ。



「わかったよ天才姉妹。そんときは二級上位冒険者のお前らに従うよ。どうかご命令を、お嬢様ってな」


「「お兄さんがなんでも言うこと聞いてくれる~ッッッ!?」」



 いやそこまでは言ってねーよ。



「「ぐへへへへへへ……!」」


「お前ら一体なにさせるつもりなんだ……?」



 うだつの上がらない俺のこと嫌いっぽいし、火の輪くぐりとかか?


 『邪龍皮膚』でノーダメージだけど心は痛いからやめてくれ~。



「「絶対に挿入はいらせるッ!」」


(ひえっ、やっぱり火の輪に突っ込む気だ……!)



 などと銀髪姉妹に追い詰められていた時だ。


 不意に、とてとてっとコチラに駆け寄る足音が聞こえてきた。



「あん?」



 そちらを見ると、これまた可愛すぎる薄桃髪の少女が。



「う、うぅ、あの方はどこに……? 匂いによるとここらへんだけど……」



 震えながら周囲を見渡す彼女。鼻をスンスンさせる仕草は、なんだか人間じゃないみたいだ。よく見りゃ瞳孔グルグルしてるし。



(彼女は一体……)



 歳は十代前半くらいだろうか。

 ニーシャクーシャとタメかちょい上程度に見るが、何よりの違いは……、



「「ぎゃああああああああああなんですかあの乳ッッッ!? お兄さん見ちゃダメェ~~~!?」」


「おわっ」



 姉妹に飛びつかれて目を塞がれる。


 だが俺の『邪龍アイ』の前には無駄だ。人間の肉一枚くらいなら透過できるほどの視力を持つのだ。



「ん? あぁっ! や、やっと見つけたぁぁ……!」



 ……涙目で安堵の表情を浮かべる少女に、周囲のトリステイン連中は釘付けになっていた。



(なんだあの乳……!?)



 もう爆乳も極まれりって具合である。背は低いのに、巨乳女騎士のアイリスの倍は質量がありそうだ。なにあれ。


 しかも、マニアックな娼館で使われていそうな丈短すぎ乳おっぴろげすぎなメイド服を着こんでるものだから、もう大変なことになっていた。



「なんだあのとんでもないロリ爆乳!?」

「見たことない子だぞっ!?」

「だ、誰か探してるようだけど、声かけようかな……!?」



 そわそわとする通りすがりの男たち。


 ――そんな彼らの様子も気にせず、ピンク少女は前に駆け出し、



「陛下ぁっ! 会いたかったでしゅ~~~!」



 と言って、俺にガバッと抱き着いてきたのだった。



 はぁああああ!?



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転生したら【暗黒破壊龍ジェノサイド・ドラゴン】だった件 ~ほどほどに暮らしたいので、気ままに冒険者やってます~【書籍化コミカライズ決定!】 馬路まんじゟ@マンガ色々配信中検索! @mazomanzi

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