第42話



「ほいっ、邪龍ダッシュでやってきました。トリステインと国の対極にある、『開拓都市コンスタンティーノ』でーす」


『ピヨヨ~……!』



 酔ってるヒヨコくんを撫でつつ、俺はさっそく雑踏に踏み入れた。


 ここの都市名はコンスタンティーノ。俺が『個別依頼』を受けるために選んだ場所だ。



「本拠地であるトリステインで個別依頼とっちゃ、あそこの冒険者ギルド支部に悪いしな」



 冒険者ギルドの支部は各都市に存在している。


 それぞれが他の支部と売り上げを競い、年に数回、聖都の本部に集まってマウント合戦をするそうだ。あほだねぇ。


 ゆえに個別依頼やってばっかで仲介費を発生させない冒険者は嫌われそうなので、こんな離れた街に来たわけだな。



「にしても……」



 すっげぇ~~寂れた都市だなぁ。


 建物はあちこちボロボロの上、昼間だってのに人通りが少ないし、数少ない通行人は視線を落としてるし。


 ウチのトリステインの活気を一割でも分けたらショック死しそうな静寂ぶりだな。



「なんかあったのか? ヒヨコくんわかるか?」


『ピヨピヨピーヨピーヨピヨ!』


「なるほどな」



 何言ってるのかわかんねぇや。

 まぁともかく、



「さっそく個別依頼を探しますかぁ。すみませーん、冒険者のジェイドといいまーす。どこかに困ってる人いませんかー?」



 正当な報酬くれたらなんでもしまーす。

 くれなかったら邪龍パワーでころしまーす。



「誰かいませんか~? 今ならヒヨコあげますんで」


『ピギョォ!?』



 とサービス精神旺盛に売り込みをかけていた時だ。

 不意に裏路地のほうから「きゃっ!?」という悲鳴が響いた。なんだなんだ?

 邪龍ダッシュ。



「――へへっ、知ってるぜぇ? アンタ、領主のガキんとこのメイドだろぉ? なぁ今どういう気分だよ、お貴族様なのに街を好き勝手にされちまってさぁぁ……!」


「はっ、離してくださいですだっ!」


「ギャハッ、ですだってなんだよ!? もしかしてオメェさん、顔に似合わず田舎モンかぁ?」



 まぁそーーだわなぁ! 今あのガキのところで働こうと思うヤツなんざ、食い詰めの田舎モノしかいねーわなーー!


 ……と笑うチンピラAと、取り巻きのチンピラBCDEたち。



「なんか知らんが、メイドさん相手に楽しそうだなお前ら」


「アァッ!? って、なんだオメェ!?」


「冒険者のジェイドです」


「いや知らねえよ! てかいつの間にそこにっ!?」



 まぁ驚くのも無理ないか。俺、チンピラたちに壁際に押し詰められていたメイドさんの、横に現れたしな。



「邪龍ダッシュで来たからな。『滅びの焔』を薄く纏って空間をちょっとグズグズにしながら接近する半次元渡航走法だから、鍛錬不足の人間の視力じゃ捉えきれないだろうよ」


「は、はぁああッ!? 何言ってるか知らねぇがッ、邪魔すんじゃねぇーーッ!」



 殴りかかってくるチンピラAさん。

 格闘スキル持ちなのかちょっと速い拳だけど、まぁ無駄っすね。



「邪龍デコピン」


「ッ、ぐぎゃぁああああああああああーーーーーーーッ!? オレの腕がぁああああああぁああああッ!?」



 軽く弾いただけで肘から先が消し飛んで行った。


 ま、肩が残っただけよかったな。



「悪いな。のんびり暮らしの本拠地トリステインじゃないから、俺あんま加減するつもりはないんだわ」


「なっ、なんだよぉオメェは……!?」


「ジェイドだと言っただろ。記憶力悪いな」



 さて、品性も金もなさそうなチンピラと話してもしょーがねえや。

 それよりも、



「メイドのお嬢さん、怪我はないか?」


「はっ、はひっ!」



 そりゃあよかった。

 まぁ怪我の一つでもあったら邪龍アイですぐさまわかったし、その時には男どもを皆殺しにしてたがな。



「さて商談だ。アンタ、この都市の領主の使用人なんだってな。じゃあ領主の名代みょうだいとして俺を雇ってくれないか?」


「えっ、名代……ですだか?」


「そうだ」



 邪龍ノーズですぐわかる。


 メイドから香る他者の匂いは一つだけ。まだ幼い子供のもののみだ。


 つまり領主とやらはその子供で、他に家族もなく、使用人も彼女一人って状況らしい。終わってんな。


 それならこのメイドが保護者みたいなもんだろ。名代名乗っても怒られねーよ、たぶん。



「さぁ、雇うと決めたら指示をくれ。あんまり悩む時間はないぞ?」


「えッ!?」



 指で前を差してやると、そこには武器を構えて完全に殺る気モードなチンピラーズが。おーこわ。

 人間風情が。



「テメェ……よくも『ドントラークファミリー』のオレたちに手を上げたなぁ……!?」

「ぶっ殺してやるッ! もうオメェは終わりだァッ!」

「メイドごと八つ裂きにして埋めてやらァッ!」



 ふぅん、こいつら闇結社マフィアかよ。

 この貴族絶対社会でよくもまぁ派手に名乗り上げてるもんだ。他の領地なら石裏の虫みたいにおとなしくしてるか、そもそも存在すらしてないんだがな。



「で、どうするよメイドさん? 俺を雇って、命令を出すか?」


「あっあっ、私はアウラと申しますだ! えとっ、えーとーっ」



 はいあと三秒だぞアウラさん。

 チンピラが武器を振り上げた。そのまま俺たちにむかって飛び掛かる。

 はい、あと一秒~。



「さぁ、答えは?」


「あッ、うぅッ――お願いしますだジェイドさんッ! こいつらを、ぶっ飛ばしてほしいですだッ!」


「よく言った」



 瞬間、俺はゼロ速度から一気に音速の拳を連打。

 その加速度により空気破裂を伴う衝撃をチンピラどもへと存分に見舞い、文字通り空にまでぶっ飛ばしたのだった。



「女襲ったその時点で、容赦してもらえると思うなよ?」



 

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