第41話
――『開拓都市トリステイン』。
近年もっとも発展著しいとされる、国の最外縁に位置する都市だ。
聖人のごとき領主と〝ある令嬢〟の活躍により、清潔かつ技術と文化性に富んだ理想の地として、多くの者が流入してくるようになったのだが――
『おいテメェうるせぇんだよッ! 壁が薄いんだから静かに生活しろや!? スキル≪
『アァッ!? テメェこそ歩くときドシドシうるせーんだよッ! スキル≪
『喧嘩してる二人うっせーーよッッッ! スキル≪
「……どいつもこいつもうるせーよ」
人口増加により、俺の住む宿屋は地獄のような有様になっていた。
ウチの宿は男性冒険者限定住まいだ。『冒険者ギルド』ってとこから支援金を得て運営されている。
で、冒険者なんざ大概ガサツで大雑把。
近年は衛生知識の普及で臭いヤツこそ減ったが、歩けばドシドシ寝ればゴーゴーするのは変わりない。
「はぁぁ、やっぱそろそろ限界だな~……」
ジェイドくんは常々こう思っているわけですよ。
〝ああ、家が欲しい〟と。
先日の火山に住んでた悪魔みたいに、誰にも邪魔されない場所で優雅な独り身ライフを送りたいってな~~。
あ、だからって火山に住むのはNGな? マジであの悪魔アタマぱーかよ。
「なぁ、ヒヨコくんももっとイイとこ住みたいって思うだろ?」
『ピヨ~?』
……問いかけてみると、ヒヨコくんはテーブルの上の木小屋(※俺お手製)の中でモコモコな棉に包まれながらくつろいでいた。
あっ、はい。お前は別にどこに住んでもよさそうね……。
「所詮はガサツな鳥類か……。でも、このジェイドくんは違うんだよな~~。最上位種の邪龍たるもの、最高の住処を求めてるわけだよ。で、しばらく金を貯めてたんだが……」
貯金箱を掴んで振ってみる。
すると、チャリン……チャリン……という、なんとも儚げな音が響くだけだった。
「……なんでこんなに貯まってないんだぜ?」
俺、特に高い買い物はしてないはずなんだけどなぁ。
せいぜい趣味の魔武器作りのために、細かな素材を仕入れるくらいだ。
他に使い道といったら、せいぜい仲間と飲むことと……、
「新米冒険者のコモリちゃんに装備買ってあげたり、聖都から追い出されてきたアイリスに生活費渡したり、俺と同じくドラゴンから人間になったヴァンにもあげたり……あっ」
はい、原因がわかりました。
俺ここ数日、マイホーム建築用の貯金を配り歩いてるじゃんッ!? そら貯まらねーわチクショーッ!
「くそっ、もっとお金を大切にしなきゃダメだな。ひとまずヒヨコくんのエサ代をカットするか……」
『ピヨォッ!? ピヨピヨピーヨピーヨピヨッ!』
「なんて?」
よくわからんが抗議してることだけはわかった。
わーったわーったって。どうせエサの豆代と寝具の棉代と〝買って買って!〟って感じに鳴かれて買わされる小物代や小型ペット用のおもちゃ代しかかかってねーし、ヒヨコくん費用はそのまんまでいいよ。
「いや、よく考えたら結構かかってるな……」
ちょっと甘やかしすぎたかもしれない。
そう反省しつつも、まぁともかく。
「よし、こうなりゃハラくくったぞヒヨコくん」
『ピヒェ?』
「俺はあえて生き方を改めない。金のために自分を曲げるのは、『前世』の社畜過労死時代でこりごりだからな」
苦い過去を忘れちゃいけない。
二度とあんな苦しい人生を送らないためにも、俺はお気楽冒険者になったんだからな。
「でも金は必要だ。だからここは男らしく、個別依頼を受けることにするぞ」
『ピョピピピョピェ?』
「個別依頼な」
冒険者ギルドを通さず、個人的に誰かから受ける依頼のことだ。
メリットは大きい。
実はギルドが間に立つと、そこそこな量の仲介費を取られてしまうのだ。
だが個別依頼ならそれがない。まるっと自分の懐に入るわけだな。
ただ、
「デメリットはある。それは仲介役がいないために、とんだハズレ依頼を掴まされるかもなことだ」
凄まじく難しい仕事を提示された、だけならいい。
そもそも依頼内容と仕事が全然違っていたり、難癖付けられて依頼達成費を減額されたり、実は
ゆえに個人での依頼受諾は、冒険者ギルドも非推奨としている行為だ。
でも。
「まぁ別にいいさ。もしも相手にハメられたなら、ぶっ殺せばいいだけだしな」
俺はぺーぺーの三級冒険者だ。
が、その正体は『邪龍』だ。
ゆえに決めてるんだよ。もう前世みたいに好き勝手されるだけじゃ終わらない。いざ一線を越えられたら、相手を必ず殺すってな。
「さぁて、それじゃあ仕事探しにいくかー。レッツゴーだぞ、ヒヨコくん!」
『ピヨー!』
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