第39話



 そんなこんなで数日後。

 俺はいつも通りギルドの酒場で、だら~っと酒を飲んでいた。



「ンでよぉっ、サラ様っ――じゃなくてッ、デート相手のサッちゃんって子を守れなかったのが、オレ悔しくてよぉ~!」


「そーかいそーかい」



 ちなみに酒の相方はルアである。

 早くも復活したこの男は、先日のヴァンの件がよほど気になっているようだ。



「まぁいいじゃねえかよ。結局その子に怪我はなかったんだろ? じゃあ守りきれたってことじゃねーか」


「そ、そうかぁ?」


「おう。ルアにしちゃ恰好いい真似したと思うぜ?」


「ってオレにしちゃってどーいうことだよ!?」



 ぷんすか怒る悪友に微笑みながら酒を啜る。

 日常が帰ってきたって感じだな。

 ヴァンにやられた冒険者連中も復帰し、周囲でゲラゲラやってるしよ。



「はぁぁ、強くなりてぇなぁ……」


「そればっかだなお前。相手への悪口とかはないのか?」


「おん? そりゃクズ野郎だとは思うが、正々堂々殴り合って負けたんだ。陰でグチグチなんかしねーよ」



 ルアは拳を打ち合わせると、激しく拳を打ち合わせた。



「腕っぷしで負けた借りは、腕っぷしで返すのみだ。むしろ『もっと修行してやる!』って気持ちにさせられたぜっ」


「ははっ」



 その快活さをまぶしく思う。

 

 お前のそういうカラッとしたところ、まったくもって嫌いじゃないぜ。



「そんなお前だ。俺の知り合いの『新入りくん』とも仲良くできるかもな?」


「新入りくん?」



 悪友を首を傾げた時だ。

 ギルドの扉がギィッと遠慮がちに開かれ、赤髪の男が入ってきた。



「ぬあっ!?」



 ヤツを見て眼を開くルア。

 なぜならそいつは、先日トラブルになった張本人・ヴァンだったのだから。

 どこかそわそわとしたそいつに、俺は笑顔で歩み寄る。



「よぉ、来たか新入りくん。扉も静かに開けれて偉いぞ?」


「うぐぅ!? そ、そりゃテメェがそうしろって……!」


「はいはい話はあとにしよう」



 というわけで俺はヴァンを――調整した概念死の焔により極限まで弱体化させた『赤龍』の肩を掴み、耳元で一言。



「教えたよな? 悪いことをしたら、どうするべきか。もしそれが出来なかったら今度こそお前を……」


「っっ、わ、わかってらぁッ! うぅぅ……!」



 かくして堂々と酒場に近寄るヴァン。

 そんな彼にボコられた冒険者たちやルアが警戒の目を向ける中、ヴァンは顔を真っ赤にさせて震えながら、



「ぁッ――暴れて迷惑かけてッ、マジすんませんでしたチクショォオオーーーーーッ!」



 と、ヤケクソ気味に頭を下げるのだった。


 その様にぽかんとする酒場の面々。

 それから数秒、一斉に明るい声が上がった。



「ってなんだお前っ、謝りに来るとか律儀かよー!」

「オラついたクソ野郎かと思いきや、意外といいとこあるじゃねーかっ!」

「テメェ前回で勝ったと思うなよー! また決闘させろ~!」



 途端に騒ぐ冒険者たち。

 酒が入っていることもあり、中にはさっそくヴァンをテーブルに引き込もうとする者もいた。てかルアだ。



「うぉっ、この前のチビじゃねえか!? 離しやがれーっ!」


「うるせぇチンカスイケメン野郎! 今から酒飲み合戦で勝負だこのやろー!」



 うざそうにするヴァンだが、今のやつの能力はほぼ人間並み。

 抵抗なんて出来るわけもなく、オラオラ~と押し寄せてくる冒険者たちに肩パンされながら、飲みの席へと連れ込まれるのだった。



「罰だぜヴァン。人間たちに囲まれて、楽しく生き恥さらしやがれ」



 それが、最恐の黒龍に畏れず立ち向かってきたオトコに対する、俺の決定だった。

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