第35話



 ……今、俺は『開拓都市トリステイン』の繁華街を歩いていた。


 ここ数年は人の流入が盛んで、通り一帯に多くの店舗が軒を連ね、住人や観光客たちが所狭しと散策している。

 そんな中、



「しょッ、しょれでッスねぇ! あそこの菓子が美味いらしいので、あとでサラ様に買いますわ! ぁほら女の子って甘いモノ好きっしょ!?」


「そ、そうだな(童貞丸出しの固定観念やめろ)」



 ……俺は悪友のルアに街の紹介を受けていた。


 一体何が悲しくて男二人で歩かにゃならんのか。

 しかも十年住んでる街だから今さら紹介されるまでもない。



「そうだ、お前サラ呼びはやめろ。何のためにフードを被ったと思っている」


「あっあっそっすね!? もしサラ様とデートしてるなんてバレたら街中の人間に嫉妬されちゃいますわ!」



 今の俺はサラフォーム&フード装備である。

 無駄に人気出ちまったのは知ってるから配慮して変装中だ。

 いやそもそもサラの姿自体が変装なんだが……それと、



「ルアよ。何度も言うが、デートじゃないからな? いい歳した大人おまえが街中でひんひん泣いて『街の全女子に嫌われてるんです頼むからサラ様だけでも相手してくださぁい!』と叫ぶから、仕方なく付き合ってやってるだけだからな?」


「付き合ってやってるッ!? えッ、恋人になってくれたってことすか!?」


「んなわけあるか殺すぞ」



 本当に調子のいいやつだなこの野郎……! 



「ま、とりあえずサラ様呼びはしないの了解ッス。サッちゃんと呼ばせてもらいますわ!」


「馴れ馴れしいなぁ。まぁ好きにしろ」


「うぇーッス! あっ、あそこの新しい串焼き屋オススメっすよ!? なんか安くしてくれるし!」


「マジか(知らんかったわ)」



 そんなこんなで悪友と買い食いしつつ街を歩く(※ちなみに例の串焼き屋は、ルアを子供だと思って割引してくれてるようだ。今のロリっぽい俺もされた)。




「へ、へへへ。憧れの人と街歩きなんて心臓飛び出るかと思ったけど、なんか不思議と落ち着いてきたなぁ……!」


「ふん、そうか(そりゃ俺が友人ジェイドだからだっつの)」

 


 とはいえ、この野郎と街をブラブラするのも久々だ。


 十年前、駆け出しの時に出会った頃は、見慣れぬ街を共に散策したりもしたんだけどな。

 しかし時が経って住み慣れたりコイツが多忙な二級冒険者になったりする内に、そういうのもなくなっていった。

 今じゃ互いに仕事帰りのギルド酒場で顔を合わせるくらいだな。



「いやぁ、気まぐれとはいえ連れ添ってくれてマジ感謝すわ! サラ様……じゃなくてサッちゃんも、かなり忙しいっぽいでしょうに」


「そうでもないぞ? 詳しくは言わんが、ここの領主に技術を齎す時以外はプラプラしているよ。酒作ったり、飼ってるヒヨコが遊ぶための迷路作ったり」


「そーなんすか!? い、意外とスローライフ送ってるんすね。なんかオレ様のダチ公みてぇだ……」



 そりゃそのダチ公だからなこの野郎。


 あ、あそこの氷術師がやってるアイス屋美味そうだな。それに喉も乾いてきたな。



「あぁちょいお待ちを! アイス買ってくるんでここにいてくださいっす! ついでに飲み物も買ってくるんで」


「むっ、なぜ」


「いやぁなんとなく欲しそうな顔してたんで。例のダチ公に言われたんすよ、『お前暴走気味なんだよ。モテたいなら女の子の気持ち考えてみろ』って」



 あー……飲み会の場で言ったことあるなぁそんなこと。

 まぁ俺も別にモテるほうじゃないし、てかコイツそんとき酔っ払ってたから覚えてないと思ったんだが。



「ふん、偉そうなことを言う友人だな」


「まっ、妙に達観してるとこはあるっすねぇ。お互いに十五そこらの時に会った仲なんすけど、最初は好きじゃなかったっすわ。街の兵士から八百屋のおばちゃんまで、年上相手にゃやたら丁寧な口使ってよ。それが当時のオレ様にゃイイ子ちゃんぶってるように見えて、ハラ立って喧嘩売ってやったっすわ」



 あーあったなーそんなこと。



「最悪の出会いだな。で、結果は?」


「そ、それはまぁ……実質『相打ち』ッすね! 客観的に見ればオレが殴り倒されたように見える感じでしたが自分は紳士なんでヒョロヒョロノッポ野郎を全力で殴るのは悪いと思ってチカラをセーブしてたっていうかぁ!?」



 嘘つけお前負けてただろうが。

 そんでビービー泣いて『覚えてろよコンチクショウッ!』て逃げてっただろうが。

 俺の邪龍脳細胞はきっちり覚えてるぞこの野郎。



「そんなこんなで今じゃあの野郎もオレ様の舎弟に……」


「ぶっ殺すぞ」


「えッ、なんでキレたの!?」


「あ、すまんなんでもない」



 っといけないいけない。ついついいつものノリで話してしまった。



「と、特に理由なく腹が立ってしまっただけだ。許せ」


「えっ、特に理由なく女の子が腹立つって…………あっ」



 っておいなんだその『そういうことかぁ』って顔は!?

 お前どんな答えに至った!?



「へへへ、ならしゃーないっすね! じゃ、自分アイス買ってきますわ。あぁでもお腹冷やすとよくないんで、ドリンクは温かいココアとかにしてきますね!」


「おい絶対に勘違いしてるぞ!?」


「自分、気遣いが出来るオトコなんで! ほいじゃっ!」



 って気遣いが出来るオトコはそーいうこと自分で言わねーよボケ!



「うおおおおいくぜ~!」


「おい人だかりの中を走るな転ぶぞっ!」



 駆けていくアホの背中に、俺は盛大な溜息を吐いた。


 本当にやれやれだ。



「変わらんなぁアイツは。昔から」



 十年も冒険者やってれば、それなりに周囲も変わっていく。


 尖がってたやつが大人になったり、逆に大人しかったやつが思わぬ一面を出し始めたり、三十の誕生日にホモショタに目覚めたりな。


 その中じゃあの野郎はノリのいいアホなまんまだ。

 見た目こそ『暗黒令嬢サラ』に惚れるなんて事故起こして整えるようになったが、腹の中はガキのまんまだよ。



「いい加減に落ち着きってもんを覚えろっての……」



 雑踏の片隅にて、そうして友人を待っていた時だ。

 大股で俺に近づいてくる気配があった。



「あぁ戻ったかルア」



 早かったな、と顔を上げる。

 だが、俺の目の前にいたのはヤツでなく、



「よォ、オンナァッ……!」



 傷跡まみれの赤髪の男、ヴァンだった……!




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