第33話


「で、だ」



 ギルドから出た俺たちは、一瞬で街の時計塔の上に移動していた。


 異能力とかじゃない。

 単純に一足で跳んだだけだ。



「ヴァンだったな。お前、知性がある上に細胞の人化変異まで出来るとあったら、相当上位の魔物だろ」


「オォよ」



 誇らしげに頷くヴァンくんさん。

 いや褒めてる場面じゃないからね。注意しようとしてんだからね?



「聞いて恐れろや! オレの魔物名は“ 灼 熱 破 壊 龍 ヴ ァ ー ミ リ オ ン ・ ド ラ ゴ ン ”! 龍種の中でもさらに上位の存在だぜ!」


「あいたたたたたたたっ」



 やっ、やっぱり俺のお仲間だったぁーーーーーーっ!


 その恥ずかしいネーミングまで一緒だよ。

 魔物の創造主がつけてるっぽいが、マジで現代人の感性だとアレすぎるからやめてくれ……!



「アァん? あいたたたってなんだテメェ? テメェもニンゲンにやられて、療養ついでに奴らの調査をしようとしてんのか?」


「なんだって?」



 テメェも、ってことは、つまりコイツはそういう感じで人里に潜り込んだわけか。



「あぁ思い出しただけでイラつくぜ。おい見ろよこの全身の傷」



 そう言ってヴァンは褐色肌をちらつかせる。

 よく見るまでもなく、野郎の身体は傷だらけだった。



「どしたんそれ?」


「どうしたもこうしたもねェよ。ニンゲンの街やら村に向かおうとするたび、なんかスゲェェェーーーーーー威力の攻撃が飛んでくるんだよ!」



 へー……って、ん?



「ヴァーミリオン・ドラゴン……ヴァーミリオンってたしか、赤系の色のことだったよな?」



 つまりこいつは普段、『赤い龍』の姿ってことだ。


 それで、街のほうに向かうたびに、龍をボロカスにするような攻撃が飛んできて……って、



「あっ」



 それ、 や っ て た の 俺 じ ゃ ね ?



「アァ? なんだよどうした?」


「いっ、いやなんでもないぞヴァンくんよ! まぁ経験通り人間は恐ろしい生き物だから、下手に手を出すなってことだな! ははは!」



 うっわー、こいつ事あるごとに俺が誤射とかかましてた赤龍だったのかよ。


 そんときはあんま悪いと思ってなかったが、いざボロボロの姿で話し合うことになるとちょっと罪悪感湧いてきたな……。



「クソ。ムカつく生き物だぜニンゲン。しかも今のオレぁ、傷はいてぇし人間体の操り方もおぼつかねぇしで、ろくに戦えない始末だ」


「あぁ。だからギルドの連中が死んでなかったのか」



 まぁ冒険者たちがスキル持ってたり鍛えてるのもあるだろうけどな。



「そりゃ紙一重だったなヴァン。人間社会じゃ殺しはマジで重罪だ。一人でもやったら追われまくるぞ? 一億人くらいに」


「げっ、マジかよ」



 嘘である。

 重罪なのは確かだが、一億人はかなり盛った。



「マジマジ。魔物仲間の俺を信じろ(ま、こうして脅しておけばヘタな真似はしなくなるだろ)」



 もしもだ。

 コイツが街に潜む魔物だってバレたら、“他にもいるんじゃ”ってなって俺まで危うくなるからな。

 面倒だがあれこれ教えて生活に溶け込ませるとするか。



「お前はまだアウトラインをギリ超えてないからな。悪意ありゃダメだったが、無知と知ったらまぁしゃーない」


「アン? 何の話だよ?」


「いやこっちの話だ。そんじゃ人間社会のルールについて教えてやっから、メモの準備をしなされ」


「オレ文字わかんねぇよ」


「……ソレ含めて簡単に教えてやっから」



 こうして半日、俺は赤龍に色々と教えてやることになった。


 しばらくの路銀も持たせてな(俺の貯金が~……!)。




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