第30話

『大量討伐っ、お疲れ様でしたーーーーっ!』


『かんぱーーーーーーーいっ!』



 その日の夜。

 俺たち冒険者は、街一番の大きな酒場(※徹底洗浄済み)で大宴会を開いていた。


 題して『大量発生した魔物の討伐・お疲れ様会』だ。

 そのまんまだな。



「それでなぁ聞いてるかぁジェイドよ? 詳しくは秘密だが、あの姉妹は変態でなぁ。他の『妖精の悪戯』メンバーも地味にやばいぞ。全員説教してやったわッ!」


「はいはい聞いてるよアイリス」



 で、俺の前にはグデグデに酔ってる女騎士さんが。


 すっかりパーティの者たちとは馴染んだらしい。



「しかもなぁ、よく朝おきると、みんなして私のおっぱいを吸ってたりなぁ……」


「ってお前モテモテになってるじゃねえか」



 何がどうしてそうなったんだよ。



「だからなぁジェイドよ、手を出すなら毒を飲む気で覚悟してだなぁ……」


「出さねーよ。『妖精の悪戯』ってみんなピチピチの十代じゃねえか。それに手を出すのは」


「私はもう二十代だ。ピチピチじゃなくて悪かったな?」


「い、いやそんなつもりは!?」



 ぷー、とアイリスはふてくされてしまった。

 ……コイツちょっと酒癖悪いな。


 

 だが、



「「アイリスさーん! コモリちゃんが酔って吐いて倒れた~!」」


「なにッ!?」



 姉妹の叫びにアイリスは即正気になってダッシュ。

 ぶっ倒れている『妖精の悪戯』メンバーを抱え起こし、その頬をペチペチと叩いた。



「しっかりしろコモリっ。意識は……うん、あるな。ほら、ゆっくりと飲み物を飲んで、それから呼吸に集中するんだ。吐瀉物が喉に詰まると窒息することもあるからな」


「うぅ……ママ……?」


「まだママと呼ばれる歳じゃないっ! それよりもほら、私と一緒にすーはーしよう」



 ……あーなるほど。


 アイリスが好かれた要因がわかったよ。



「思えば、女子供を不幸にする貴族に立ち向かって、ここに追放されてきたのがアイツだからな。色々と複雑な子が多い『妖精の悪戯』メンバーとは相性ピッタリか」



 偶然なのか俺が手が差し伸べた子ばかりだから、自分もちょくちょく様子を見たりしてるんだがな。


 だがアイリスがいるからにはもう安心か。

 優しくて強いあの騎士様なら、子供たちをきっちり守り導いてくれるだろう。



「いざとなれば邪龍おれが動くしな」



 今回・・みたいに、な。



「――よーうジェイド、飲んでるかぁぁぁ~?」

「――で、ごじゃりゅ~!」



 と考え事をしてたところで悪友アホ二人が絡んできた。


 酒に弱いため既に酔い潰れつつあるルアと、同じく酔いつつ五秒に一瞬ルアをチラッッッと見てるシロクサだ。

 色々終わってる組み合わせだな。



「デキあがってんなーお前ら。このまま酔った勢いでデキあがるなよ?」


「なに言ってんだおめぇ~? あ、おつまみ発見」



 机の上でヒヨコくんが食ってたマメを奪うルア。

 相変わらず勝手なヤツである。

 ヒヨコくんに『ピヨピヨピヨピヨピーヨピヨッ!』と猛抗議されるがお構いなしだ。



「……ところでよぉ、アルベドさんだったか?」



 とそこで。

 ふいに正気な様子で俺を見てきた。

 シロクサも同じくだ。



「あのねーちゃん、マジで裁かれるらしいぞ? 『トリステイン』の救援を勝手に呼び込んだ罪でよ」


「うむ、さっそく領主邸に呼び出されたと聞く。しかも教会の本司祭のほうは、領主と根深い関係ゆえ止める気がないそうでござる」



 ああ、始まったか。


 珍しく素面まともな様子の二人は、ひっそりと声を潜めて俺に語る。



「各教会のケツ持ちしてんのはその地の領主だからな。たとえ『女神教』本部にアルベドさんが抗議しようが、司祭に握り潰されるだろ? つかこのまま明日には裁判もあり得る。だからよ、」


「もしアルベドぎみの処刑が確定したら、拙者らで救わんか?」



 要は、罪人アルベドを逃がしてやろうという立派な犯罪計画だ。



「っておいおい……わかってるのか?」



 俺もまた声を潜めて二人に問う。



「名誉ある上級冒険者のお前らが何言ってやがる。立案してるのがバレただけでも罪になるぞ?」



 そんな話を慎重派の俺に持ち掛けてくるとか。



「俺がバラしたらどうする気だよ?」


「「友人ダチを見る目がなかったと悔いて死ぬだけだ」」



 と、揃って断言されてしまった。


 っておいおいおい……。

 これじゃ、裏切るに裏切れねえよ。



「で」


「どうでござる?」



 真剣なまなざしで問う二人。


 そんな彼らに、俺は申し訳なく苦笑する。



「悪いが、お前らの決意は無駄だよ。だってアルベドは裁かれないからな」


「「へっ?」」



 素っ頓狂な声を出す彼ら。



 いや、俺も最初は『暗黒令嬢サラ』として、アルベドを救いに行ったんだよ。



 領主邸に向かう彼女を引き留め、“私が終わらせてくるから安心しろ”ってな。

 だが、



「……少し話したが、あの女はやばいぞ。巨乳で修道服なだけある」


「「ッ!?」」



 後半の言葉に悪友たちの顔色が変わった。


 俺たち『開拓都市トリステイン』の人間にとっちゃ恐怖ワードだ。

 手を出しちゃいけない女の特徴だよ。



「そりゃ大丈夫だな」

「そりゃ大丈夫でござるな」

「そりゃ大丈夫だろ?」



 苦笑しつつ、先ほどの記憶を思い出す。


 月だけが照らす夜闇の中、




『わたくしの運命はわたくしで決めますのでご心配なく。もしアナタに願うなら、一つだけ――』




 と、サラにとある取引を持ち掛けてきた、あの時の彼女の雰囲気を。



“ま、この地の領主はどのみちどうにかするつもりだったんだ。好きにやれよ、アルベドさんよ”



 アンタの未来は、この邪龍おれが祝福してやるよ。



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