第28話


 モンスターの大量発生地点。


 それは街を出たところにある『墓場』だった。



「厄介だな」



 この世界では墓を都市部に作らない。

 なぜなら、



『ガガガガガガガ――ッ!』

『ア゛ァア゛ァァァア゛ッ――!』



 進軍を続ける『骨人スケルトン』と『死人ゾンビ』ども。


 そう。

 今や人間の死体は、魔物として復活するようになってしまった。


 頻度こそ少ないが一度蘇ると厄介だ。

 コイツらは痛覚ってもんが一切ない。

 マジでぶっ壊れるまで暴れ続けるからな。



「ぉ――お前たちは、『開拓都市トリステイン』からの救援か!?」

「あぁっ、やっときてくれたーーー!」

「頼むッ、もうオレたちは限界だ!」



 死体どもと戦っていた数十人の冒険者たちが叫ぶ。


 状況は見るからに最悪だ。

 まさに戦場がごとく土嚢のラインを引いて戦っているが、誰も彼も傷だらけだった。

 これ以上は彼らが死体になりかねない。



「後は任せてくれ。――全員ッ、いくぞ!」


『オォオオッ!』

 


 土嚢を飛び越え最前線に躍り出る。


 すぐさま俺たちに死体どもが突撃してきた。



「さてやるか。まずはこの武器だ」



 スキル発動、≪収納空間アイテムボックス≫解放。



「いくぞポメ」


『ギシャァアアアッ!』



 異空間から具現したのは武装怨霊リビングウェポンの大ブーメランだ。

 それを剣として死人ゾンビどもの首を斬り落としていく。

 こいつらは頭を撥ねれば倒れ伏す。



「そして」



 さらに≪収納空間アイテムボックス≫解放。


 次に出したのは突猪ボアの頭蓋骨巨大槌だ。



「致命部位のない骨人スケルトンは、微塵に砕けばいいってな」



 ドンッッッ! と鉄槌。


 頭から足元まで一気に砕いてやった。



「まだまだ行くぞ」



 二種の死体は二つの武器で次々抹殺。


 さらに、遠方にて疲労していた『アグラベイン』の冒険者が危なくなれば、弓に切り替え援護射撃だ。



「死なせねえよ。メシが不味くなるからな」



 俺が見てる範囲では、胸糞悪い悲劇はナシだ。





◆ ◇ ◆




「これが、『トリステイン』の冒険者たちか……!」



 『開拓都市アグラベイン』の面々はその戦況を見守っていた。


 当初は共に戦っていた彼ら。

 されど満身創痍の今の身では足を引いてしまうことも多く、自然と後退を余儀なくされていた。



「援軍に任せるばかりで心苦しいと思ったが……」



 土嚢の裏で応急処置を行いながら戦場を見る。


 そこでは、様々な武器を使う青年を始め、多くの実力者たちが激しく暴れ狂っていた。



「万年三級のジェイドに負けるかーっ!」

「オレたちもいくぞ!」

「大活躍して、ヴィータとシーラの愛を取り戻すんだーーーっ!」



 強い。

 駆け出しに見える若者すらもが、自分たちとは動きが違う。



「な、なんでこんなにこっちと違う? 見た目だけなら、『トリステイン』の連中はなまっちろいヤツも多いのに」



 そこで、ハッと気付いた。



 そう。向こうの冒険者たちは妙に身綺麗なのだ。



 武具は清潔。

 傷跡は少なく、あったとしても酷く薄い。



「オレたちが想像している『ベテラン冒険者』の姿とは真逆だ」



 使い古されたボロい武具と、歴戦を語る傷跡の数々。

 そんな擦り切れた姿こそ実力者の証と思ってきた。

 だが。



「……そうか。『トリステイン』はやたら清潔さにこだわった土地と聞く。だから傷の治りも早いんだ」



 そして傷が悪化せずにすぐ治るということは、



「それだけ、『戦闘経験』が積めるんだ!」



 それが彼らの強さの秘訣だった。


 ある邪龍オトコにより普及された現代の衛生知識と衛生観念。

 それは冒険者たちの現場復帰速度を間接的に爆増させた。

 結果、



「スカスカの骨人スケルトンなんて俺の鍛えた拳で一撃だぜ!」

死体系アンデットモンスターの相手は何度かしたことがあるッ! 対処の仕方はもうわかってんだよ!」

「最近目覚めた新スキルで片付けてやる!」



 『トリステイン』の者たちは、異様なほどに強くなった。


 まったく不思議な話ではない。


 人間は鍛錬と経験を重ねるほどに強くなる生き物だ。

 とりわけこの世界では、才覚を伸ばせばスキルに目覚めることもあるのだから。

 


「こりゃ敵わねぇわけだ……」



 もはや呆れて見守るしかない。


 嫉妬の情はなかった。

 なにせ『トリステイン』の者たちは、余所よその冒険者たちが傷を治すまでの時間を次なる戦闘に当て、順当に成長しただけなのだから。


 要は、倍の密度で努力した者たちが倍強くなっただけなのだ。

 


「才能じゃなく、環境で強くなれることもあるのか……」



 自分たちも、『トリステイン』に行ったらこうなれるのだろうか。



 もはや急成長など諦めていた『アグラベイン』の者たちに、期待の炎が密かに宿った。


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