第25話



 暑い季節がやってきた。


 夏虫セミも少しだけ鳴きだした。


 初夏だな。



「今『ショタ』って考えたでござるか?」




 変態シロクサもなんか鳴きだした。



「考えてねえよ」



 変態侍のゴミテレパシーを否定しつつ、かき氷をしゃぶしゃぶ食べる。



「ん~、美味いな」



 今日はシロクサの屋敷にお邪魔していた。

 なんとこの天然アホ侍、そこそこ大きな武家屋敷住まいだったりする。



「他の者は出払っているでござるからな。存分にくつろぐとよい」


「おうサンキュー」



 彼の率いるパーティ『防人さきもりの刃』の宿泊拠点でもあるのだが、元々はシロクサ一人に実家が与えたモノだ。

 実はコイツはおぼっちゃまなのだ。



「シロクサの家はデカい氷室ひむろがあるからいいな。おかげで真夏でもかき氷が食える」


「ふははそうだろう。ほれ、ヒヨコ殿もかき氷食べるとよい。いちごシロップかかってるぞ?」


『ピヨピヨ……ピャーッ!?』



 興味深そうにつついたが、一口で飛び上がってしまった。



『ピヨピヨピヨピヨピ~ヨピヨッッッ!?』


「ひえっ、めっちゃ怒ってるでござるッ!?」


「そもそもヒヨコにかき氷やるなっての」



 鳥類の食性的によくないんじゃないか?


 ……いや、実はこのヒヨコ、何食っても腹を壊すとかそういう体調不良は一度も起こしたことないんだけどな。


 魔物の森で生きていただけあってタフなんだろうか?



「ヒー坊、いつかシロクサをつっつけるくらい強くなれよ?」


『ピヨー!』


「やめてほしいでござる~!?」



 とアホ会話をしつつ氷菓を味わう。


 夏の屋敷にかき氷。

 まさか転生先で前世より日本っぽい体験ができるなんて思わなかったな。


 これで隣にいるのが黒髪ワンピース美人お姉さんだったら物語になるが、



「ところでジェイド殿よ。アヘ顔Wピースとはアヘ顔Wピース自体がエロいのではなく『元は綺麗な顔してアヘ顔Wピースという下劣なポーズをしている』というシチュエーション自体に興奮するものと気付いてな」



 ……隣にいるのは黒髪Wピース美人おじさんだ。



 こんな物語打ち切りだよ。



「ふふ。真面目でクールな拙者が実はちょっとえっちだと知るのはジェイド殿くらいでござるからな。つい舌が回ってしまう」


「そ、そうか、そりゃよかったな」



 ……先日の『魔酒』飲んで【狂乱】騒動で、結構な人数に秘めたるドン引き成分を見られてるんだけどな、お前。


 まぁ本人は記憶すっ飛んでるし、周囲もあえて触れないようにしてるからいいか。



「ジェイド殿には恩義もあるゆえ、かき氷くらいいつでも食べに来るとよい。おぬしにはかつて、『味噌』を復活させてもらった恩義があるからな」


「懐かしいな」



 コイツと出会ったばかりのことだ。

 最初は日本人の生き残りがいると知って『これで和食が食える!』と思ったのだが、



「和食の命の味噌がなぁ。まさか造れなくなってるとは」


「うむむ……祖先たちも手記で嘆いていたでござる……」



 そう。 

 作り方自体は伝えられていたのだが、味噌作りに肝心な『麹菌こうじきん』が存在しなかったのである。


 なにせ日本にしかいない菌だったりするからな。

 実は味噌ってのは奇跡の調味料なんだよ。



「驚いたでござるな~。ジェイド殿が種麹を持ってきたときには」


「あーまぁな」



 さて、日本人がいるのに味噌がないと知った俺は、爆速で日本列島まで飛んで行った。



 もう終わっていたよ。

 世界中に魔物が発生した影響で、日本人は完全に絶滅していた。


 ちょっと悲しくなったな。

 別にここの日本は俺の生まれた日本じゃない。

 たぶん鎌倉時代だかに魔物が沸いて、そっから歴史が分岐したんだろう。

 が……それでも俺の生国の名を関する国だ。



 だから、我が物顔で闊歩していた魔物の『鬼』どもを絶滅させてやった。



 そっからは状態のいい味噌蔵を探して種麹を生成。



 また爆速でここ旧英国ブリタニアに戻ってきたわけだ。



「マジびっくりしたでござる。たしか、ジェイド殿の生まれた村にて造られていたものだったか。和食もそれゆえ知っていたとか」


「ああ、俺の先祖も日本人だったらしい」



 そういう設定になっている。


 ちょうど俺が黒髪で、前世に近しい東洋風の姿をしているからな。

 シロクサはあっさり信じてくれた。

 ある意味嘘ではないしな。



「……もう故郷は魔物に滅ぼされちまったし、親とは会えない身になっちまったがな」



 それでも故郷の味が楽しめるのは幸せだ。



 そう呟くと、シロクサが「ジェイド殿ッ!」と目をうるうるさせながら手を掴んできた。



「ってなんだよ!?」


「おぬしと拙者は共にルーツを同じくする身! ならば拙者らは家族! 兄弟のようなものでござるッ!」



 って嫌だよお前みたいな兄弟ッ!?



「ゆえに和食くらいいつでも食べに来るといい! ――毎朝、みそ汁を飲ませてやるッ!」


「はぁ!?」




 などとアホ侍がプロポーズの常套句めいた言葉を吐いた、その時。



「「「わ、若……!?」」」



 ふすまがガラッと開けられ、シロクサの従者である武人三兄弟が顔を覗かせた。



 俺が手を取られながら、“毎朝、みそ汁を飲ませてやるッ!”と言われたタイミングで、だ。



「「「あっ……ごっ、ごゆっくりーーーッ!」」」



 そして去っていく武人たち。ってオイオイオイオイッ!?



「お前ら待て待て待てッ! 何か勘違いしているぞッ!? シロクサはあくまで俺を家族にしたいってだけでだな!?」


「「「やはりそういうことだったか!?」」」


「ってあーーーー違うッ!」



 お前らの考えてる家族の方向とは、絶対ちがーーーーーう!!!




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