第23話



貴方アナタ、いい加減に出世してください」


「奥さんみたいに言うなよミスティカさん……」




 夕方のギルドにて。

 換金を終えた俺に受付のミスティカさんが言ってきた。



「ジェイド氏のギルド『信用度』は既に三級トップです。昇級試験も面接不要で受けられますよ?」


「そりゃどうも」



 冒険者には『信用度』ってもんが存在する。


 精神的なヤツじゃない。


 各等級内における依頼達成度。

 依頼達成数。

 依頼達成速度。

 依頼時の怪我の頻度。

 そこから算出される戦闘力。

 ついでに人柄……。


 それらよりギルドが統計して出した数値が『信用度』だ。



 要は、各等級における冒険者としての成績だな。



「わかっておりますでしょうが、同じ等級の冒険者の中にも格差は存在します」


「ああ……同じ三級でも、三級『下位』『中位』『上位』と呼び分けたりな」


「ええ。中でも上位5%圏内に位置する『最上位』に達するのは至難の業。氏はその地位に達しています」


「お、おう。そりゃ光栄だ」



 ……なんか今日はすごく喋るなミスティカさん。


 オフの日以外でこんなに喋る彼女、初めて見たぞ?



「なぁミスティカさん、俺があんまり出世したくないのは知ってるだろ? 二級以上の冒険者ともなれば、貴族と絡むような仕事も多くなる。俺はそれがすこぶる嫌でな……」



 偉そうなヤツに指図されるのはこりごりなんだよ。


 俺、強く言われたら“ハァイ!”とか言ってとりあえずやっちゃうタチだったしな。

 それで前世は上司様のイヌになって死にました(1敗)。


 今は知らんけどな。

 人間性、ほんのちょっとは変わったかもだし。



「これはトロールにも語ったことだが、メシを美味く食べるには“ほどほどの忙しさで楽しく生きる”のが一番でな……」


「ジェイド氏の枯れた人生論は知りませんが」


「枯れた人生論!?」



 ま……まぁたしかに?

 ギラギラした生き方とは程遠い自覚はあるけどさぁ~?


 でもこうずばっと言われるとですねぇ……!



「ちょっと本気出したくなるんだが……!? 出世したくなるんだが!?」


「はいしてください。では昇級試験を受けましょうか」


「ハァイ! ……って、待て待て待て待て!? だから受けないっつの!」



 ふぅ~危なかった。


 ミスティカの話術に嵌められるところだった。



「罠を仕掛けるとは姑息な手を……」


「貴方が勝手に流されただけでしょう。貴方、気を許している相手にほど、やられっぱなしになるところがありますからね」



 ぐぬぬぬ……!?



「では昇級を」


「いやしないっつの。……で、今日はマジでどうしたんだよ? 事務対応を極めたお前が」


「極めてますか?」


「極めてるよ。変なファンが湧くほどに」



 そこらのにこやかな受付嬢よりなぜか人気がある始末だ。

 愛想ゼロで相手にされることの何がいいんだろうか……?



「人の昇級に口出しなんて業務外のことだろ。……なのにしてきたとなると……?」


「察しましたか。はいそうです、先日就任したこの地の新たなギルド長が『冒険者たちに昇級を奨励せよ』と命じたからです」


「やっぱ仕事か」



 ああうん。

 どうせそんなもんだろうと思ったよ。

 

 コイツ仕事中はマジで仕事のことしかしないからな。



「俺を枯れてるとか言えた口か……?」


「“ジェイド氏、ギルドの若き女性職員に『枯れてる』と暴言。評価マイナス”と……」


「って待て待て待て!? 俺の記録表に最低なこと書くな!」


「冗談です」



 って真顔で言うな! わかりづれーよ!



「はぁ……ともかく、悪いけどもうしばらくは三級でいさせてもらうわ」


「そうですか。若き才能がくすぶったままとは、新たなギルド長も悲しむでしょう」



 そ、そうなのか?

 それは申し訳ないというか……!



「ええ、ギルド長の彼女はこう仰っていました。『上位冒険者をウチで保有しまくって、他のギルド長をざまぁしてやりたいのじゃ~!』と」


「ってマウント取りたいだけじゃねえか!?」

 

 


 そんな目的のために誰が出世してやるかボケェーーーーーッ!




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