第21話


「では~~~先ほど倒れたエイジ少年の異名は~~~~?」


『病弱夫!』『気弱な彼くん!』『幼馴染を都会に送り出したヤツ!』


「ん~~~~~接戦~~~~~ッ!」



 エイジくんが去った後も『異名付け大会』は続いていた。



「みんな好きだなぁこういうの」



 冒険者ってのは騒ぐのが好きだ。

 危険が多い職業だからかな。

 事あるごとに酒を片手に集まってドンチャン騒ぎだ。


 この『異名付け大会』ってのも割とちょくちょく開かれるし、要は盛り上がる口実が欲しいだけかもしれない。



「ま、俺も楽しいのは好きだからいいけどな。……さて、このジェイドも異名付けに参戦しますか!」


『ネーミングセンスカスのジェイドは引っ込んでろ~~~~~!』


「ってなんだとテメェら!?」



 俺のネーミングセンスのどこがカスだこの野郎!?


 作った魔導兵装たちだって食人樹トレント豚鬼トロールで『トトロ』とか突猪チャージボアのハンマーで『チャーハン』とか武器怨霊リビングウェポンのブーメランで『ポメラ』とか、シャレが効いたやつばっかじゃねえかよ!



「では~~~彼の新たな異名は『ネーミングセンスカスのジェイド』で決定~~~~~!」


『意義なーし!』



 ってうるせえよ!



「また変なの増やすなーーーッ!」


『うぇへへへへへへっ』


「なんだその笑い方!?」



 そうしてイジられたりしつつ、騒がしい時間を過ごしていた時だ。



「ふふ、楽しそうだな」



 綺麗な声を響かせて、女騎士アイリスが俺のもとにやってきた。



「おっ、アイリス。先日ぶりだな、調子はどうだ?」


「万全だ。右腕もすっかり動くようになって、冒険者登録も出来たよ」



 そう言って首元から『Tr№3847.IRIS:Ⅴ』と書かれたネームタグを取り出した。



「五級冒険者の証だな、おめでとうアイリス」


「ありがとう、全ては貴殿のおかげだ。……そういうわけで、何か礼をしたいわけだが……」


「?」



 申し訳なさそうにモジモジするアイリス。

 どうしたどうした?



「あいにく、今は持ち合わせが少なくてな。だから、雑用とか……身体を使う形でしか、お礼が出来なくて……」


「あぁそれでモジモジと」



 律儀ないいやつだなぁ。

 悪友のルアなんて奢った記憶も即日忘れるのに。



「別に気にしなくていいぞ?」


「いやっそういうワケにはいかないだろうっ! たしか『魔酒』だったか? 石化龍の毒を跳ね除けるようなレアアイテムを使ってくれたんだからなっ!」



 あー、たしかに凄まじい代物だからなアレ。

 そんなもんを使われたら、アイリス的にお礼しないって選択はないか。



「なぁジェイドよ。一介の冒険者の貴殿が、どこであんなものを」



 と彼女が聞いてきた時だ。


 ちょうどよく、「ウヘェーーーーーーーイッ!」というアホみたいな叫びと共に、ギルドの扉が開かれた。



「ンひゃぁああァァしゅごいゾこのしゃけ~!? ボアの【頑強】能力がマジで宿ってるぜ~! おかげでルア様のルア様もビキッビキッだッ!」


 現れたのは愛すべからざる悪友・ルアだった。


 その手には、俺が先日アイリスに振舞ったのと同じ『魔酒』の瓶が。



「むむ!? ジェイドよ、彼もあの酒を持ってるぞ!?」


「ああ、実はな」



 と言って、アイリスに偽装設定を教える。



「街を歩いてたら『サラ様』が急に現れてよ。“今度発売する商品だ。試供品をくれてやる”って渡してきたんだよ。なぁルア?」


「オォ~ヨ! 何人かの冒険者に配り歩いてるみてぇだが、それでもオレ様のところに来てくれたのは愛だぜ愛ッ! きっとオレのことが好きなんだよ!」


「絶対ちげえよ」



 ンなわけあるかボケ。



「て、わけだ。だからアイリス、そんなに気にしなくていいぞ? 貰いものを渡しただけだからな~」



 とヘラヘラ笑う俺。

 だがアイリスさんはそれでも「むむむ」と納得してない様子だ。



「ふむ……事情は分かった。が、それでも貴殿が救ってくれたことには変わりない」


「っておいおい?」


「やはりいつかお礼がしたい。身体で解決できることなら、今からだっていいぞ!」



 おぉう、律儀すぎるだろアイリス。



「わかったよ。それじゃあいつか何か頼むわ」


「どんとこい!」



 恩義に厚いのはいいことだ。

 元女騎士様だけあって頭の固そうなところはあるが、この人柄なら嫌う奴は少ないだろ。

 冒険者として上手くやっていけそうだな。


 それに比べて、



「おいルア、お前もアイリスを見習えよ? お前ってばそこらじゅうの飲み会に突撃しては、勝手に酒奪って飲んで暴れて即酔い潰れるようなアホ野郎で」


「ぐが~~~~~~~~~」


「ってうぉい!?」



 この野郎、いきなり俺の膝にぶっ倒れてきやがった!?



 アホの奇行にアイリスもびっくりだ。



「こ、この少年、完全に酔い潰れて寝ているな」


「あぁ。戦闘中でもないのに『魔酒』飲んでデキあがってやがったからな」



 あとアイリスよ、



「ちなみにコイツは少年じゃない。もう二十代後半のほぼオッサンだ」


「えぇえ!? これで!? ……貴族の若き令息か令嬢にしか見えないんだが……」



 おぉう。

 貴族をよく知る女騎士様が言うんだからもうお墨付きだな。



「それとアイリスよ。似たようなダチがもう一人いてだなぁ」



 と言ったところでちょうどよく、



「――ンひゃぁああァァしゅごいでござるゾこのしゃけ~!? ゴブリンの【狂乱】能力がマジで宿ってるでごじゃる~! おかげで女子おなごとも緊張せず話せるぞッ! あっ受付のミスティカ殿、『ふたなり』と『TS』の差について話さぬか!?」


「シロクサ氏のギルド評価を減点とします」


「たはーッきびしいでごじゃる~!」



 ……最悪の酔い方をして現れたのは、ポニテ侍のシロクサだった。



「あ、ジェイド殿発見! わ~い! ともだちんこ~!」



 3歳児並みのステキ笑顔で駆けてくるシロクサ。


 そんな彼の登場に、アイリスが引きつり気味に俺を見た。



「な、なぁジェイドよ。もしやあの頭がちょっとアレな和風の美人が、貴殿の友人なのか?」


「………………普段はもう少しまともなんだよ。ちなみにアイツも三十歳のオッサンな」


「えぇ?」



 スキップで駆けてきたシロクサ。

 そのままヤツは、「あっはっはっはっッ――すぴぃ~」と、俺の手前で唐突に寝落ちした。

 頭の落下先は俺の片膝だ。



「「すぴい~~~~~~~~~」」


「え~~ん、野郎二人に下半身占領されちゃったよぉ……!」



 不快の絶頂だよぉおおおおーーーーーーーー!



「……でも、保護した頃のニーシャとクーシャを思い出すなぁ。二人もこうして俺の膝に……」


「「――ってうぎゃああああああ!? 私たちとお兄さんの思い出が変態二人に汚辱されてるぅうううーーー!?」」


「ってうわぁ!?」



 ギルドの窓をガシャァアアアアッと突き破って銀髪双子姉妹ニーシャ&クーシャ出現。


 無駄に疾風迅雷の動きで野郎二人を剥がしにかかった。



 が、動かない。



「ひぃ~!? この変態チビの腕、ガチガチにお兄さんの足に絡んでる~!?」


「こっちのポニテ野郎もすごい力で絡んでます~!?」



 あぁ、ルアは特殊能力【頑強】を発現してて、シロクサは【狂乱】を発現してるからな。


 片や身体を硬くして、片や大興奮状態となり筋力のリミッターも外させる異能だ。



「「アイリスさんも引っぺがすのを手伝ってぇ~!」」


「えぇぇ~!?」



 かくして、俺の下半身で「「すぴ~ッ!」」と眠る悪友たちと、「「「うんしょ! うんしょ!」」」と変態を除去せんとする女性陣。



 そんなアホみたいな光景は当然、『異名付け大会』中だった他冒険者たちにも見られていて……、




「……ではぁ~~~、そこの無駄に綺麗どころをはべらせまくってる野郎の異名は~~~~~?」


『残念ハーレム野郎のジェイドーーーーーー!』


「はい決定~~~!」




 ってうるせーよボケッ!



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