第20話



「さぁみなさん~~~! 春も終わりということで~~~冒険者たちの~~~新たな『異名付け大会』を始めたいと思いますぅ~~~~~!」


『うぇぇ~~~~~~~~い!』




 ギルド脇の料亭兼酒場にて。


 吟遊詩人ギュンターの弾き語りに、冒険者たちがクソ適当な声を上げた。



「ではぁ~~~ひとりめぇぇぇ~~~。先日ギルドで騒いだ眼鏡の新人は~~~~?」


『陰険クソ眼鏡ーーーーーー!』


「はい決定~~~!」



 お、すげーやメガネくん。

 満場一致で決まっちゃったよ。



「――あの、ジェイドさん。『異名』ってのはなんスかね……?」



 と。

 『舌切り雀の塩焼き』食ってヒヨコくんに恐怖されてる俺に、たまたま同席した新人冒険者『剣使いエイジ』くんが聞いてきた。


 ちなみにエイジくんガールズの『槍使いヴィータ』ちゃんに『弓使いシーラ』ちゃんも同席だ。


 聞いた話によると、女の子二人はエイジくんに付いて村から出てきたとか。

 モテるね~~~~。



「ああ。異名ってのはあれだよ。俺の『万年三級ソロ冒険者ジェイド』とか、そういう冒険者としての呼び名だよ」


「ほほうっ」


「今回みたいにみんなで適当に決めていくんだよ。ま、『特級』連中みたいに国が決める場合もあるけどな」



 やれやれ。

 誰がトンチキ女のアネモネなんかに『聖女』って名付けたんだか。



「特級連中は一人以外みんな頭が終わってやがる。特にアイツらの『EXスキル』には気をつけろ? 巻き込まれたら、死ぬより悲惨な目に合うからな」


「「「死ぬより悲惨な……!?」」」



 マジでやばいよ。

 邪龍の俺もちょっとまずいかもしれない。



「っと、話を異名に戻すか」



 トンチキどもの話題してもしょうがないからな。



「特級連中と違って、俺ら一般冒険者の異名は周囲から雑につけられる。でもこれが結構大事なんだよ」


「どういうことっスか?」


「臨時でパーティを組む時に役立つんだ。人柄や戦法から『異名』は付けられるから、そいつがどんなヤツかぱっとわかるわけだ」



 と言うと、エイジくんは「なるほどっス……!」と頷いた。


 なんかキミ、前は俺のこと内心舐めた感じだったのにかしこまってるね?



「ジェイド先輩、他にも『お人よしのジェイド』とか『年中健康体のジェイド』とか『マルチウェポンのジェイド』とか呼ばれてるっスよね?」



 そうそうそういうやつだよエイジくん。



「十年も活動してると異名が増えるんだわ。ヴィータとシーラもなんか聞いたことあるか、俺の異名?」



「『実は腹黒鬼畜ドSのジェイド』とか」「『受付嬢ミスティカさんの元カレ疑惑のジェイド』とか……」


「おいそれ誰から聞いた」



 あることないこと言いやがって殺すぞ!



「あ、それはどっちも嘘なんスね先輩」


「あーまぁな」


「じゃあ最近聞いた『女騎士のお腹膨らませたり全部飲ませたジェイド』っていうのも?」



 あん? アイリスにメシ奢って魔酒飲ませた話出回ってるのか。



「それは本当だが」


「「「!?!?!?!?!?」」」



 って、なんでエイジくん、女の子二人を庇うんだ?

 そしてヴィータとシーラはなんで顔を赤らめて目を輝かせるんだ?



「おい」


「ひッ!? ど、どうかヴィータとシーラにそんな真似はッ! 二人はまだ15歳なんスよッ!?」



 は? なんでいきなり年齢を……ああ。

 15歳だから酒は飲ませないでって話か。



「安心しろよ。無理やり誘う真似はしねーよ」


「ほっ……」



 ただまぁこの世界に飲酒制限とかはないからな。

 それに15歳となれば、



「身体はほぼ出来上がってるんだ。そっちから声をかけてくれたら、俺も応えるぜ?」


「「「!!?!?!?!?!?」」」



 酒の一杯くらい喜んで奢ってやるよ。

 若いヤツがグイグイ飲んでる姿を見るのは気持ちいいからな!

 


「どうだヴィータにシーラ? 大人の階段上ってみるか?」


「ぉっ、オトナの階段……ごくり……!」「み、導いて、くださるなら……っ」



 おお、二人はかなり乗る気なようだ。


 エイジくんの側をふらふらと離れ、俺の隣席にやってきた。



「ふゅ、ふたりともぉ~!?」


「「ジェイド先輩……♡」」



 お~どうしたヴィータにシーラ。

 初めての飲酒にオススメの酒でも聞きたいのか?



「じゃあエイジくんもそこで聞いておいてくれよ。さて――二人に教える『初めての味』は、何がいいかな?」


「「ハジメテの味っ……!」」



 と華やぐ二人と、




「んぎゃあああああああああ脳が壊れるぅうううううーーーーーーーッ!?」




 いきなり頭を押さえてぶっ倒れるエイジくん。


 ってどうした!?



「は、話は中止だ! おいエイジくんどうした!?」


「はぁ……こんな時に倒れるとか……」「空気ってものが……いえ、とりあえず介抱しましょう」



 とガールズはなぜか冷たげだ。



「お前たち……?」


「前にも叫んで倒れたんだよなぁ。でも特に病気じゃないとか。困るよ」「ひ弱だったんですねぇこの人。逆にジェイドさんは常に壮健だそうですのに……」



 ヴィータとシーラは残念そうに肩を落とし、



「「じゃあ、またいつか……♡」」



 などと、俺に可愛らしい笑みを向けて、エイジくんを引きずりながら去っていくのだった。



「……これは……」



 好きなはずのエイジくんに対し、妙に辛辣な態度。

 逆に職場の先輩なだけの俺には愛想を振りまくとは……。



「なるほど、そういうことか」



 俺は異世界転生者だからな。

 女の子たちの不可解な様子にも納得する。



「二人は亭主を甘やかすのではなく、尻を叩くような『女房系ヒロイン』ってやつだったか!」



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 ・寝取られヒロインである。

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