第14話
「ふっふっふっふ……!」
お天道様のもと、俺は元気に『開拓都市トリステイン』を歩いていた。
この街もすっかり綺麗に以下略。
十年前なんて当たり前に糞尿が以下略。
リアル中世並みの以下略。
「日本人ソウルを持つ俺には耐えられない以下略だったぜ。さてヒヨコくん、そんな俺が今向かってる以下略はどこでしょう?」
『ピヨ』
そう正解!(問答無用)
「答えは、共同工作施設だ!」
はいこの前来たばっかのところになりますー。
お金を払えば誰でも木材加工から鍛冶作業までさせてくれるステキな以下略でございますね。
今回はちゃちゃっと入場します。
受付さんにお金を払って右に行けば工作室だけど、今日は行き先が左側です。
てくてく行くぞー。
「脳みそ1グラムのヒヨコくんは知らないだろうが、ここには調理場もあるんだよ」
『ピヨ?』
といっても明るいキッチンとかじゃないぞ。
食品工場的な締め切った感じのところだ。
「肉の解体とか漬け込みを行う人が利用するとこだな」
つーわけで扉の近くの水道でよーく手をウォッシュ。
ついでにスキル≪
失礼しまーす。
「あ、ニワトリ解体してる人がいる」
『ピギャーッ!?』
すんごい鳴き声を上げるヒヨコくん。
そのまま髪の毛の中に引っ込んでしまった。
「あぁうんそのまま大人しくしとけ」
前世の日本ほど衛生ルール決まってないが、消毒したとはいえ生きた動物を調理場で歩き回らせるのはアレだからな。
「さて、じゃあスキル≪
これで大声出さない限り注目されないな。
じゃ、割り当てられた台で作業開始していくぞー。
「今日作っていくのはずばり『酒』だ。それもめっちゃ強いヤツな」
実は邪龍に転生してから一つ悩みがある。
それは身体が強すぎて全然酔えないことだ。
「市販の酒なんてほぼ水に近いんだよなぁ。何杯か飲んでりゃ多少は気分よくなってくるが、それでもすぐに覚めちまう」
強すぎるのも困りものだ。
たまにはガッツリ酔ってイイ気分になりたい時があるからな~。
「というわけで、ちょっと前から『オリジナル酒造り』を始めたわけだ。ハイつーわけで酒樽ドーン」
スキル≪
メガネくんには『持てる限りのアイテムしか詰めれないクソスキル』と言われたが、邪龍パワーで力持ちな俺ならほぼ無制限で使えるんだよなぁ。
「よーしヒヨコくん見てるがいい。ジェイド流酒造りテクニックをな」
『ピヨピヨピェ~……!』
「まだおびえてんのかーい」
まぁいいや。
はいじゃあ酒造り開始。
念のため教本を見ながらいきますか。
「ベル・フロイライン著書『トロールでも出来る酒造り』って教本によると~」
①まずは酒樽に水を入れます。
はいわかりました。
じゃあまたまた≪
ちなみにこの水、『魔の森』の奥地にある滝の水だったりします。
「酒の美味さは水によるっていうからな。井戸水じゃ満足しないのがこの俺だ」
はいはい次。
②水の中に酒の味となる素材を入れます。
またまたまた≪
用意してきた果実をボドボドボドッとね。
「俺フルーティーな酒が好きだから今回は桃を大量にブチ込むぜ」
次。
③入れ終わったら素材が潰れて水とよく馴染むようにかき混ぜます。
「はいめんどくさい。というわけで邪龍デコピンどーん」
水面に軽くデコピンを放つ。
すると酒樽の中が爆発したようにゴボッッと震え、大量の桃は粉微塵となって水に溶け込んだ。
「はい果実水の出来上がり。時短したい人はぜひ邪龍に転生してくださいね~」
はい次。
④発酵してアルコール成分が満ちるまで数週間放置します。
「ってそんな待てるかーい」
そう思った俺はね、これまでの何度かの酒造りで『答え』を見つけたわけですよ。
かなり難しいがやってやるぜ。
「いくぞ、『暗 黒 破 壊 龍 ジ ェ ノ サ イ ド ・ ド ラ ゴ ン』ファイヤーふっ!」
水面に向かい、俺は口から闇色の炎を噴きだした。
これぞ邪龍に転生した俺の必殺技『暗 黒 破 壊 龍 ジ ェ ノ サ イ ド ・ ド ラ ゴ ン』ファイヤーだ。
その効果は“存在の死滅”。
浴びた対象の生命力自体を滅びの炎で焼き尽くし、灰すら残さず消し去ってしまうゲロヤバ奥義だ。
だがしかし。
「ふっふっふ。かつては滅ぼすことしかできなかった『暗 黒 破 壊 龍 ジ ェ ノ サ イ ド ・ ド ラ ゴ ン』ファイヤーだが、今は違う!」
水面で燃える黒い炎。
通常ならば果実水ごとき一瞬で焼き払い、樽も建物も丸ごと消してしまうだろうが、
「無駄に練習を重ねた結果、火力を調整できるようになったんだよなぁ」
やがて黒い炎が消える。
その後には建物も酒樽はもちろん、果実水もしっかりと残っていた。
さらに滅びの炎を受けた果実水には一つの変化が。
「んっ~アルコールの匂いだー! よぉし発酵成功だぜ~!」
そう。
“存在の死滅”を
つまりは『加齢』ってこったな。
結果として果実水は数か月の時を過ごしたがごとくアルコールを発生。
あっという間に酒が出来たわけだなぁ。
「俺の炎で作ったから『邪龍黒炎酒』とでも名付けておくか。念のためステータス見ておきましょっと」
邪龍ファイヤー(※略称)のせいでヤバくなってる可能性もあるからね~。
はいスキル≪
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
・『邪龍黒炎酒』 レア度:1 種別:果実酒 製作者:ジェイド
糖度:25
アルコール度数:50
容量:10リットル
特殊能力【なし】
桃の酒。
なお正規の方法ではなく『存在の劣化』により超速で発酵させられたため、フルーティーさが残っている。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「ちゃんと飲めれそうだな。どれどれ味はっと……」
コップを取り出し一杯掬い、さっそくグビリ。
すると、
「んんっ!?」
これは、なかなかに効くッ!
「ぷはぁっ~~……流石はアルコール度数50。まだまだ邪龍ボディ的には弱いが、市販の酒よりだいぶイイな」
いいぞいいぞ~。
これまでは火力が強すぎて水が燃え尽きたり、逆に弱めすぎて変化がほとんどなかったりしたが、今回は成功だ。
「よし感覚は覚えたな。これからは酒が量産できそうだ」
小遣い稼ぎに売るのもいいかもな。
他のスキル≪
製造方法や製造者みたいな『付属情報』については、それを知るヤツにしかわからないようになっているからな。
「う~し、まずは冒険者仲間にでも売り歩くか。冒険者はみんな酒好きだしな~」
ちなみにこの世界の商売権的なのはまだまだ適当でガバガバだ。
酒造も罪には問われないし、市場を荒らさない程度なら誰も文句は言わないだろう。
新たな稼ぐ手段ゲットだな。
夢のマイホームに一歩近づいたぜ。
がはは。
「ん~ただなぁ」
俺の元々の目的は『邪龍ボディでも酔える酒』を作ることなんだよなぁ。
「普通に果実や麦での酒造りじゃ限界がありそうだな。そんなのから発生したアルコールなんて、俺の邪龍
さぁてどうしたものか――って。
「んん? デトックス? デトックスといえば……スキル≪
ここに来るときにも使ったスキルだ。
体表面や体内の毒を消し去る便利なスキルで……あ!
「そうだ、『毒』だ! 邪龍
いいこと考えたぜ。
さらに俺は頭のヒヨコくんが怯えることになった原因の、ニワトリの解体作業の光景を思い出した。
「よし決めた」
酒樽をしまって調理場を後にする。
次の行き先は、魔物溢れる『魔の森』だ。
「いくぞヒヨコくん」
『ピヨピヨピ~……?』
「俺はこれから、『魔物の血酒』を作ってやる!」
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