第12話


「ではジェイド殿、ばいばいでござる~!」


「おーう」



 ぷんすか怒っていたシロクサだが、ヒヨコを撫でさせてやったらニチョニチョ笑顔になった。

 アイツちいさくて可愛いもの好きなんだよなぁ。



「また和食を共に作ろうぞ~」


「わかったよ。次にお前んち行くまでにエロ本どうにかしておけよー?」


「うぬ~!?」



 奇声をあげながら街に帰るシロクサ。


 さて。

 俺のほうは引き続き『チャージボア』討伐任務といきますか。



「おーーーい出てこいクソ猪ー!」


『プギャァーッ!』


「うわマジで出てきたチャージボア!?」



 今回の獲物登場だ。

 しかも三匹セットでやってきた。


 呼んだら来るってそんなに森中に繁殖してるのかよ?



「理由はなんだろ? とにかくスキル発動≪鑑定アナライズ≫っと」




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 対象名:『突猪チャージボア』


 種族能力:【頑強】(頭部限定。耐久力に強力な補正))


 個体能力:【なし】



 ホモサピエンスを優先して害する魔物の一種。

 大型の猪に似た姿をしている。

 硬く巨大な頭蓋骨に短距離疾走を極めた筋肉の質を併せ持ち、とにかく『正面突破』に特化した生態が特徴。

 ただし正面以外からの攻撃には弱いため、『冒険者ギルド』より危険度判定Cとされている。


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「あーなるほどなるほど。上位冒険者でも突進喰らうとやばいって噂なんだよなぁ」



 そんな相手が目の前に三匹だ。

 こいつらはあんまりつるむ生態はしてなかったはずだが、それくらい大量発生してるってことか。

 その理由は知らんが、俺たち冒険者のやることは一つだろ。



「駆除してやる。街の連中に迷惑がかかる前にな」



 よしやるか

 指を鳴らしてスキル発動、≪収納空間アイテムボックス≫解放。


 俺は手元に骸骨製の巨大ハンマーを呼び出した。



『プガッ!?』


「わかるか? お前らの頭蓋骨から作ったハンマーだよ」



 チャージボアのハンマーだから、名称は『チャーハン』だ。

 ちなみにステータスはこんなところ。



 

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・『チャーハン』 レア度:2 種別:ハンマー 重量:40キロ 製作者:ジェイド



 物理攻撃力:500

 属性攻撃力:0

 耐久度:100%

 特殊能力【頑強】



 突撃獣『チャージボア』の異様発達した頭蓋からなる巨大ハンマー。

 ひたすらに硬く欠けもしないその骨密度は、武器と化してもなお健在である。

 なお使用には重量相応の筋力が問われる。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



『プギュガァアアアーーーッ!』


「さぁこいこい」



 怒りの突進をかます猪たち。

 その対処法は簡単だ。



「まずはホイッと」



 衝突寸前、そいつらを飛び越すくらいジャンプして、



「ほんでドーンッと!」



 手にしたハンマーを叩きつける!



『プガッ……!?』



 ほい、これでいっちょ上がりだな。

 スキル≪鑑定アナライズ≫にある通り、こいつらは真正面の頭蓋骨以外弱い。

 ゆえに背中にハンマー叩き付ければ背骨ぼっきりで戦闘不能ってわけだ。



「ヒヨコくん、お前もカラスとかにいじめられた時には目とか弱点突くんだぞ?」


『ピヨピヨピヨピヨピ~ヨピヨ!』


「なんて?」



 よくわからんし戦闘に戻るか。

 さて、あと二体もサクッと片付けよう。

 としたところで、



「「消えろッ!」」



 瞬間、茂みから放たれた水弾と炎弾がボア二体を吹き飛ばした。


 って、この攻撃は……。




「こんにちはだよー。お兄さん」


「こんなところで奇遇ですね~」




 もぞもぞと動く茂み。

 あっ、そこから野生のニーシャとクーシャが飛び出してきた。

 どうする? →挨拶。



「よぉニーシャにクーシャ。なんでこんなところにいるんだよ? まさか俺についてきてくれたとか?」


「「は、はぁ~~~~~~~?」」



 声をそろえる銀髪ロリ姉妹。

 相変わらず仲がよさそうだなぁ。



「勘違いしないでよねお兄さん? 私たちもたまたまチャージボアの狩猟依頼を受けただけなんだから」


「そうですよ。それともまさかお兄さん、二級冒険者の私たちがわざわざアナタなんかについてきたと思ってるんですか?」



 「「自意識過剰~」」とニヤニヤクスクス笑うお二人。

 うーんそうだよなぁ。

 やっぱりたまたまだよなぁ。



「ごめんごめん。この手の任務受けると三回に一回は二人と一緒になるから、まさかなと思っちまったよ。俺ってば恥ずかしいヤツだなぁ」


「「ほ、ほんとにねー!」」



 ははは、二人の言う通り自意識過剰だな。



「ごめんごめん……って、あれ?」



 とそこで。

 ふと、懐が軽くなっていることに気づいた。


 たしか服の下にはすぐ飲めるように水筒を入れてて……あ!?



「なんだこりゃ!? なんか水筒の中身がカラになってるんだけど!?」



 あ、穴も開いてないのにどういうことだぁ?

 たしかに宿を出るとき、たっぷりと水を入れてきたはずなんだが……。



「あれあれぇ、どうしたのお兄さん?」


「まさかお水を入れ忘れたんですぅ?」


 

 妹同然の二人にニヤニヤクスクスと笑われてしまう。


 とほほ……また保護者として情けないところを見せちまったぜ。



「おっちょこちょいなお兄さんだなぁ。――仕方ないから、私たちの飲み物を分けてあげるよ」


「戦闘任務に水分不足は致命的ですからね。――アイスティーですけど、いいですか?」



 おー助かる助かる。

 カラの水筒にさっそく入れてもらい、一杯ぐびりと飲ませてもらう。



「んぐっ……おぉ美味しいなぁこれ! んぐっ、んぐ……!」



「「じーーーー……!」」



 ん、なんか二人の視線が鋭いような?


 ああ、もしかしてこれ、二人が作った自家製か?

 ニーシャもクーシャも年頃の女の子だからなぁ。

 料理の腕前とかそういうのが気になるお年頃だろ。


 ここは期待に応えて褒めておくぜ。



「ありがとう二人とも、すごく美味しいよ」


「いや既製品だし味はどうでもいいんだけど」「それよりお兄さん、眠気とかは?」



 は? 眠気?



「そんなの別にないが……」


「「チッッッ!」」



 ってすごいデカい舌打ちされた!?

 え、俺ってばなんか対応ミスった!?



「な、なんかごめんねー……?」


「まったくだよ。お兄さんってば万年三級のくせに身体だけは強くてさぁ!」「そうですよ、おかげで毎回私たちがどれだけ苦労しているか!」



 な、なんだか身体が丈夫なことを咎められてしまった。


 うーん年頃の女の子の気持ちはわからん。

 ヘボい兄貴分はそれらしく、しなっとしてろってことか?


 無駄にハイスペックな邪龍ボディじゃ無理っぽい気がするけどなぁ。



「ご、ごめんな二人とも。今度頑張って風邪とか引いてみるよ」


「「それは駄目」」



 ってなんだよ!? わけわかんねーよ!?



「一体俺にどうしろと……」



 そうして姉妹に振り回されていた時だ。

 ドドドドドッと地面が揺れるや、周囲の茂みから肉塊どもが飛び出してきた。



『プガァアアアアアアーーーーーーッ!』


「うおっ、チャージボアの大群だ!?」



 その数たるや十匹以上。

 どいつも怒り狂ってる様子から、仲間がやられたのを感じ取って集まった感じか。



「正面戦闘は避けたほうがよさそうだな。というわけで、よっと」


「「うわっ!?」」



 ハンマーを異空間にしまうと、空いた両手で姉妹を抱えて大木にダッシュ。

 大きく跳ねて木の中腹まで飛びかかると、さらに木を蹴って斜め上に跳躍。

 三角飛びで太枝の上に着地した。

 


「うわぁ……流石は『無駄に力持ちのジェイド』と呼ばれるお兄さん。私たち二人抱えてその動きとか、やっぱり三級クラスじゃないよねぇ?」


「ボアも軽く捻ってましたしねぇ」



 って戦ってる時から見てたんかい。



「ぶっちゃけ二級くらいにはなれるよね?」「昇級試験受けないんです?」


「まぁおいおいな」



 テキトーにはぐらかしておく。


 これは……あくまで俺の答えだけどな。

 世の中、能力を全力アピールすりゃいいってもんじゃないんだよ。


 “自分は『コレ』くらい出来る人間です”って立場やら仕事ぶりで表わすとな、世間はその『コレ』っていうのを求めてくるんだよ。



 んで、その『コレ』ってのが自分の限界パワーだった場合はもう最悪だ。



 常に全力を尽くしたら当然疲れ果てる。

 その果てに待つのは挫折か過労死だ(1敗)。


 かといって、全力を見せてから手を抜いたら、“アイツは真面目にやってない”という評価を受けてしまうわけだ。

 


 だからこそ……ほどほどくらいが一番なんだと思う。

 仕事が楽しいと感じられて、なおかつ終わった後に遊ぶ体力が残るくらいがな。



「どうにも枯れちまっててなぁ。あんまり出世欲ってモンが湧かないんだよ。まぁでも」


「「でも?」」



 枯れてる俺だが、全力を出す時は決めている。



「顔見知りとか、何より妹分なお前たちとかさ。そういう『大事なヤツ』が危ない時は、俺も本気で暴れるからな?」 


「「大事なヤツ!?」」



 と、その時だ。

 足場にしていた木が激しく揺れた。



「おっと」



 下を見れば、チャージボアたちが次々と突進をかましていた。



『プギギャアアアアアアーーーーーッ!』


「こりゃいつまでも喋ってられないな。上から手早く仕留めてやろう」



 よぉし、妹分たちに俺特製のカッコいい武器を見せてやるぜ。



「ふっふっふ、見てろよ二人とも。先日作った『トトロの魔弓』に加え、ローパーの触手から作ったゴムでジャンボラットの大前歯を打ち出すパチンコ『ロパジャンボ』で猪どもをバシバシとだなぁ」


「いこうクーシャ!」「やりましょうニーシャ!」


「って二人ともぉ!?」



 俺が武器を出すのも待たずに飛び降りてしまう二人。

 ってなんかすごくハイテンションじゃん!

 なんかイイことあったー!?



「「一撃で仕留めてやるッ!」」



 彼女たちは短杖を取り出すと、空中で同時にスキルを発動させた。



魔術マギアスキル≪火炎術式レッド・スペル≫発動! ファイアーロアッ!」


魔術マギアスキル≪流水術式ブルー・スペル≫発動! スプラッシュロアッ!」



 ボアたちに降り注ぐ火炎と激流。

 相反する二つの属性魔術だが、しかして打ち消しあうようなことにはならない。


 勢いと温度が完璧に調整されたそれらは、地上で激しく激突すると、



「「弾けろバーストッ!」」



 瞬間、『水蒸気爆発』が巻き起こる!



『プガァアアアアアアアアーーーッ!?』



 結果、無数のボアたちは一気に爆散。

 一瞬で片を付けるのだった。



「ふふーん。どうよお兄さん、二級冒険者な私たちの実力は?」


「お兄さんがちょっと強かったりしても、もう私たちには敵わないですよねー?」



 ――「「だから、いつまでも子供扱いしないでよねっ!」」とウィンクを飛ばしてくる双子姫様。



「はぁ、すっかり大きくなりやがって……」



 ああまったく。

 二人とも本当に立派になったもんだよ。

 こりゃ過保護に扱いすぎるのもいい加減に失礼かもなぁ。



「あ」



 とそこで。

 俺の邪龍アイは超遠方の空から迫る赤い影を捉えた。


 デカい赤龍だな。

 成体の龍種な時点で脅威度A以上ってとこか。



「「お兄さんどうしたの~?」」


「いや別にー」



 もしニーシャとクーシャがかち合ったら死ぬ相手だな。

 よし。



「『ロパジャンボ』ずばーん」



 姉妹がまばたきした一瞬の隙に、邪龍パワーでネズミの前歯を音速狙撃。

 龍のどてっ腹に穴を空けて抹殺したのだった。


 うーん過保護が抜けない。



「すまん二人とも、やっぱしばらくは保護者でいさせてくれるか?」


「「えぇ~?」」



 二人ともすごく嫌そうな模様。

 ごめんねー?



————————————



【今回の登場人物】


俺:本名がアレな邪龍。基本的に鈍感。


シロクサ:ヒヨコ撫でれて満足! 基本的にパー。


ヒヨコ:撫でられて恐怖!!!! 基本的に豆くってる。


猪:今回の被害者。基本的に泥浴びが好き。


銀髪姉妹: 犯 罪 者 。基本的にお兄さん大好き大好き大好き大好き!

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