第11話



「いやぁ、大自然は清々しいな~」



 はいやってきました『魔の森』。

 開拓都市の近くにある森で、まだまだ魔物がウジャウジャいるため危険地帯とされている場所です。



 しかし、そこを仕事場にするのが冒険者という生き物。

 ビビッてちゃぁ仕事なんて出来ませんわ。



「はい。というわけで今日受けた依頼は『大量発生したチャージボアの無制限狩猟』。とにかく狩りまくってこいという依頼で、俺は自然を楽しみながら清々しくやるつもりだったのですが」



 ちら、と脇の茂みを見る。

 そこからははかまに包まれた丸いケツが飛び出していた。



 近づいてみると……、



「――うぅ、すまぬでござるなぁビェル先生著『女装ショタっ子☆魔物凌辱孕ませシリーズ』……! 厳格なる男で通している拙者がこんな春本しゅんぽんを持ってると知れたら街の笑い者になってしまうのだ。ゆえにおぬしたちはここに置いておくぞッ、さらば!」


「って変なもん置いてくんじゃねえ」



 不審者のケツに邪龍キック。

 男は「ぐえーーーッ!?」と鳴きながらどっかそのへんに転がっていった。

 南無。



「よし、じゃあこのおぞましい本の束には火をつけてと」


「ってやめろぉー!?」



 お、ローリング不審者が猛ダッシュで戻ってきた。

 流石の身体能力と言うべきだな。



「よぉシロクサ、なんかすごい場面に出くわせちゃったな」


「クッ……恥辱でござる恥辱でござる!」



 涙目でこちらを睨む不審者。


 この男の名はシロクサ。

 俺やルアの冒険者仲間で、基本的には真面目でイイやつだ。


 またある事情から俺はコイツに親近感を覚えてたりもする。



「ジェイド殿……まさか春本を捨てているところを友のおぬしに見られるとはな。この恥辱、もはや腹を切るしかあるまいッ!」


「いや死因が“エロ本捨ててるとこ見られて切腹”とかやめろよ。流れる侍の血が泣くぞ?」



 そう。

 この男はかつて存在した極東の血を引く者だったりする。

 腰にもわかりやすく刀を提げてるしな。



「てかエロ本にしても女装ショタ孕ませ凌辱とかエグすぎるだろ。燃やせよこんなの。拾ったやつが泡ふくぞ」


「うぅむ……拙者もそう思ったのだがな。されどこの本にお世話になった日々を思えば、灰にするのも忍びないというか」


「忍べよ。これ完全に特級呪物だろ」



 マジでやめろよ。

 この森には新米のエイジくんたちとか妹分のニーシャとクーシャみたいな若い冒険者も来るんだからよぉ。

 万が一性癖が壊れたらどうするんだよ。



「つーわけでほい、この罪の象徴は持ち帰りなさい。原罪背負って生きていけ?」


「フッ……成る程。“えにし”というものは早々断ち切れないというわけか」


「いや女装凌辱本かかえて何キメ顔してんだよお前は……」



 この通り、基本的に真面目だがちょっと残念な面もあるのがシロクサという男だ。



「ところでなんで頭にヒヨコ飼ってるでござるか? か、可愛いから、撫でても?」


『ピヨピヨピヨピヨピーヨピヨッ!』


「ひぁ!? めっちゃ拒否られたでござるぅ……」



 なおコイツもコイツで容姿ツラは整っている模様。

 

 極東の血が色濃く出ており、涼しい眼差しにポニテ姿はまさに『若侍』という感じだ。

 あるいは高校剣道部のモテモテ主将だな。

 残念なやつほどツラはいいのか?



「……とてもじゃないけどお前、三十歳を童貞彼女ナシで迎えたオッサンには見えないよなぁ」


「むッ、それを言うな。これでも拙者、おなごをげっとするべく頑張ってきたでござるぞ……!?」


「知ってるよ」



 ルアと同じく、この男とも十年近い付き合いになる仲だ。

 その苦労の道のりは知っていた。

 


「まずツラはいいからなぁお前。モテないどころか女の子のほうから声がかかってくるくらいだけど……でも、異性を前にすると固まっちゃうんだよなぁ?」


「う、うむ……!」


「それで俺が仲介して色んな女の子と会話の練習してみたけど、結局プルプルしたまま終わっちゃったんだよなぁ?」


「うむむむむ……!」



 ……とにかくシロクサはこんなヤツだ。

 侍らしく普段はクールで男らしいのだが、女性を相手にすると極度の上がり症になってしまうのだ。



「色々あったよなぁ。ルア提案『娼館で自信をつけよう作戦』では顔はガチガチ下半身ふにゃふにゃで終わったり」


「うぅ……!?」


「顔を合わさない文通でもガチガチ、女の子の人形相手でもプルプル」


「うぅーうぅー!?」


「それで先日、ついにお前は女性と一切会話をしないまま三十歳の誕生日を迎えて」




 そこで事件は起きた。




「お前ってば、ネタで女装してきたルア相手に下半身が抜刀しちゃったんだよなぁ?」


「うがあああああああッ!? やめろそれを言うなこの野郎めッ! 拙者だってこの新しい性癖と向き合いきれてないのでござるぞ!?」



 顔を真っ赤にするシロクサさん。


 いやでもお前すっかりその手のエロ本そろえてるじゃん。

 完全に性癖の扉開き切ってるじゃん。

 女装孕ませ抜刀斎じゃん。もう終わりだよ。



「まぁ頑張れよ、生物学上ラストサムライ」


「ってジェイド貴様好き勝手言ってくれるでござるなぁ!? よし決めた。拙者、ジェイド殿にはずかしめを受けたと遺書に書いて散るでござるッ!」



 は、はぁあああーーー!?



「おまっ、自爆テロやめろぉ!?」


「うるせー! ではこれにて御免ッ!」


「おい待て御免すんじゃねぇ!」


 

 やめろやめろマジで遺書を書くな刀抜いて腹を切ろうとするな!


 お前ほんとツラだけはいいんだから、街の腐ったご婦人方がハッスルするような散り方やめろぉーーー!?



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【今回の登場人物】


俺:本名が恥ずかしい人。ある日森を歩いてたらホモショタ本捨ててる友人に遭遇。この日はちょっと悪夢を見た。


ヒヨコ:↓のやべーヤツを本能で警戒。正解。


シロクサ: 女 装 孕 ま せ 抜 刀 斎 。30歳の誕生日、友人の悪ふざけで脳みそ壊れたアレな人。まだ真面目な性格は残ってるが、時間の問題かもしれない。その時は死なせてやろうとジェイドは思ってる。

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