第10話


 この世界には『開拓都市』ってのがいくつもある。



 世界の中心である『神聖領域』から輪を作るように、人類は外側に向かっていくつかの拠点群を作成し、そこを中心に魔物を掃討。土地を開拓。

 ンで周囲があらかた平和になったら、さらに外側に拠点群を作って魔物を掃討して、土地を開拓……ってのを繰り返してきたわけで、



「で、その拠点群ってのの最外縁が『開拓都市』と呼ばれるわけだな。人類の領域を囲う都市群。魔物の進行を食い止め、逆に領土を奪い取ることが目的の場所だ」



 以上、講義終わり。

 わかったかなヒヨコくん?



『ピヨピヨピヨピヨピ~ヨピヨ?』


「なんて?」



 ……まぁどうせわかってないだろうな。

 でも別にいいんだよ。

 ただ人を待つのに時間潰してるだけだからな~。




「はぁ、遅いなぁ『時代の綺羅星』って連中は」




 今日この都市にやってくる予定の冒険者パーティである。


 ここ『開拓都市トリステイン』はかなり景気のいい土地だからな。

 よその街から移住してくる連中が多いんだよ。


 んでそういう奴らのために近隣の狩場を案内する仕事があったので、受けてみたんだが……。



「こねーなぁ。かれこれ冒険者ギルドの隅で二時間近く待ってるってのに……」


『ピヨォ……』



 ヒヨコさんも暇になったのかおねむのようだ。

 俺もスキル≪休眠スリープ≫で立ち寝しちゃおうかなぁ。



「こりゃなんかトラブルでもあったか?」



 そう思ってた時だ。

 冒険者仲間のルアが「ケッ」と不機嫌そうに建物に入ってきた。



「ん、どうしたんだルア? 機嫌悪そうだな」


「おうジェイドじゃねーか。ッたく聞いてくれよ」




 俺より頭身三つは低い金髪頭をガジガジ掻き、ルアは語りだす。




「実は新しいオナニー道具を探してたんだけどよ」


「すぴぃーすぴぃー」


「って寝るんじゃねェッ!」




 クソザコパンチで起こされた。

 いやすまんくだらなさが開幕ブッパしててな。




「それでなんだよオナック星人」


「なんだよオナック星人って。……おう、そんで露店巡りしてたらよ、いかにも『街に来たばかりですぅ』って感じの三人組冒険者パーティを見かけたんだよ。十代そこらの若い連中で、なんかギルドの場所を探してるっぽかったな」


「ほほう?」



 三人組の若い冒険者パーティかぁ。


 そりゃ奇遇だな。

 俺が待ってる『時代の綺羅星』って連中もたしかそうらしい。



「そんでよぉ、オレって優しいじゃん? 穏やかに見せかけてわりと鬼畜ドSなオメェと違って」


「誰が鬼畜ドSだ」


「ジェイド」



 殺すぞ。



「ひーッ睨んできた。ハイそういうとこだっつの! 論破論破!」



 うぜぇ……。



「ともかく、そんなオメェと違ってルア様ってマジ天使じゃん? 童貞彼女ナシのまま三十歳の誕生日を迎えた冒険者仲間のシロクサに女装でしゃくしてやったくらい天使じゃん?」


「いやお前二度とあんな真似やめろよ」



 下戸のお前は即酔いつぶれてたから知らないだろうが、あれからシロクサの脳みそ壊れちまったからな?

 俺が連れ帰らなかったらお前どうなってたか。



「ッてシロクサの話はどうでもいいんだよ。ともかく優しいルア様は、例の冒険者連中に話しかけてやったわけよ。『どうしたんだいボウヤたち、このルアお兄さんに話してみな』ってな」



 そしたらよォ~~~~~~と、ちっさい拳を震わせるルア。

 おうそれで?



「そしたらあの野郎どもッ、ゲラゲラ笑いながら『フッ、子供が何か言ってますね』『おいおいボクちゃん、年上をからかうんじゃねーよ!』『ひ弱そうなお坊ちゃんが冒険者舐めてんのかぁ?』ってオレを馬鹿にしてきやがったんだよッ!」


「あぁなるほどぉ……」



 それはまぁそうなるわ……。


 冒険者ってのは基本血の気が多くてガラが悪い。

 それに加えてこのルア、こいつ見た目は十代も前半くらいにしか見えないからな。

 だから余所よその冒険者に舐められて絡まれることも多いらしい。



「それでどうしたんだよ?」


「ボコったに決まってンだろ。二級冒険者最上位の『殴り魔術師ルア』様を舐めんなっての」



 虚空より魔導書を中空にあらわすルア。

 彼が「シュシュシュッ」と口で効果音を言いながら拳を連打すると、ズパンッズパンッとシャレにならない空気の破裂の音が響いた。



 この男、魔術系スキルの中でも特異な≪強化術式エンハンス・スペル≫の使い手であるのだ。




「素だとクソザコパンチなのにな。で、見事に例の冒険者たちはお前の見た目と細腕に騙されたわけだ」


「おォよ。おのぼりさんたちに鉄拳教育してやったぜ! 冒険者歴十年のベテラン舐めんなってなァ!」


「そりゃご愁傷さまだな」



 別に咎めたりはしない。

 冒険者同士の揉め事解決は拳が基本だからな。


 前世の平和主義を無理やり押し付けるような真似はしないさ。



「フゥ、なんか愚痴ったら気分晴れたぜ。サンキュー親友」


「いいってことよ」


「んでオメェはギルドの隅で何してたんだよ? オナニーか?」



 するかボケ。



「俺はただ人を待ってたんだよ。『時代の綺羅星』って冒険者パーティで、そいつらへの狩場紹介依頼を受けてだなぁ」



 その時だった。

 ギルド職員のミスティカさんが、「もし」と無機質な声で話しかけてきた。



「ん、どうしたんですミスティカさん?」


「ジェイド氏に緊急のご通達があります。貴方様がお待ちしている『時代の綺羅星』についてですが」



 ん、んん? 例のやつらがどうしたって?



「どうやら彼ら、道中で何者かと喧嘩をしたらしく」


「「え」」


「三人とも治療院送りとなったそうです」


「「……」」



 俺は無言で隣の友人を見た。


 さっと目をそらすルア。

 おいこらコッチ向けや。



「そ、それじゃあ依頼は?」


「当然中止となりますね。本日はお疲れさまでした」


「マジか~……!」



 俺の二時間は結局、無意味な待ちぼうけに終わったのだった。



 マジで寝てりゃよかったよチクショウッ!




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【今回の登場人物】


俺:本名が恥ずかしい人。依頼相手待ちだった。


ヒヨコ:名前がずっとヒヨコな子。眠かった。


ルア:本名が恥ずかしい邪龍の友人。実はけっこう腕っぷしはすごい。新人ボコった。


『時代の綺羅星』:ボコられた。


ミスティカさん:人形のような事務的受付令嬢。なのに絶大な人気がある。



【番外】


シロクサさん:30歳。ジェイドとルアの仲間。童貞で迎えた三十路の夜、脳と性癖がぶっ壊れたらしい。


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