第9話
「げっへっへっへ。よォ聞いたぜジェイド。最近オメェ、妙に稼いでるんだってなァ」
「げ」
ギルド脇の料亭で飲んでいた時のこと。
馴れ馴れしく肩を回してくる金髪男が現れた。
「ぜひともルア様に一杯おごってくれよ~。ダチだろ~?」
――俺の友人がうざすぎる。
このバチクソうざい男の名はルアといい、主に酒場に生息している二足歩行生物です。
「んぁ、ジェイド?」
身長140センチ程度と背丈はかなり小柄ですが、態度だけは無駄にデカくてアホみたいに変態です。
街の兵士さん曰く、ダッチワイフにゴブリンを詰め込んで動くワイフにしようとしていた汚い作ってワクワク野郎がコイツです。
「おいジェイドー?」
クズでスケベでろくでなしですが、脳の容量がそこのヒヨコと同じなのかその自覚がまったくありません。
そのアホっぷりはみなさんご存じ、IQ3の『トロール』に匹敵するでしょう。
「なぁって!」
きっと俺に払わせた酒のツケ代も一切覚えていないでしょう。
飼っててもサイフが痛まないヒヨコのほうがまだマシです。
「え、なんでお前ヒヨコ頭に飼ってるの? それを見上げて、今度はオレ様を見て……あ、なんで溜め息ついたんだよ!? なんだその諦め顔は!?」
見た目は……ある事情からかなり整えていて、元々色白で若作りなことから『貴族の美少年』と紹介されても頷けそうな感じですが、中身がアレすぎてまったくモテません。
バカでノリだけはいいから野郎連中の知り合いは多いようですが、女性陣からは総スカンです。
「おーい!?」
また下半身がよく暴走して娼館でも無茶なプレイを要求するようなクソ客であり、結果そこらじゅうの娼館からどつき出されて出禁を食らってるアホのカスの極みでクチャラーで――、
「じぇ、ジェイドくーん? なんかキミ、さっきから頭の中でめっちゃオレのこと馬鹿にしてない?」
「それが人生の終わってる生物、ルアです」
「って終わってねーよ!? なに勝手にヒトのことを締めくくってんだよ!?」
ぎゃーぎゃーと喚かれながら肩をゆすられる。
おいおいやめてくれよ。
ゴブリン詰まったワイフに腰振るヤツが友達とかマジで恥ずかしいんだからさぁ……。
「すみませんがルアさん、自分は用事がありますので」
「他人行儀な態度やめろぉ! なぁ寂しいから構えよ親友~!? そして出来ればメシでもおごれ~!」
ってやだよ。
俺は今マイホームを買うために貯金中なんだよ。
「ベタベタすんな。なんでお前なんかに奢らないといけないんだよ」
「いや聞いてくれよォ。実はさぁ、『シャロン』に見合うドレスを買ってやったら今月厳しくなっちまってさぁ……」
ちなみにシャロンとはこの男のダッチワイフの名前である。
覚えるだけ脳細胞の無駄だよな。
忘れたい。
「ルア……街の女性たちから嫌われ無双してるからって、人形に貢ぐのはマジでさぁ……」
「うるせーバーカッ! オメェにオレ様の気持ちはわかんねーよアホーーーー!」
涙目でポカポカ叩かれるが痛くない。
俺が邪龍ボディな上、こいつはパワーがないからなぁ。
クソザコパンチやめてくださいよ。
「妙に女が寄ってくるオメェと違って、オレ様は初対面の子にも避けられるんだよォ! この前だって、オドオドしてる新人っぽい子に話しかけたら『ぴぃーーー!』って叫ばれて逃げられてよぉ~~!?」
あーコモリちゃんか。
「そりゃ仕方ないだろ。だってお前、女の子と話す時の顔がいやらしいんだよ」
「いやらしいッ!? オ、オレ様、流石にそんときは親切心から話しかけただけだぞッ!?」
「それでもだよ。たぶん細胞レベルで変態なんじゃないか? それで女を前にしたら勝手に顔がいやらしくなるんだよ」
「細胞レベルで変態ッッッ!? ンだよそれどーしようもねぇじゃねえかッ!?」
俺は変態じゃなくて紳士だーーーーーーッ! と叫ぶルアくん。
いやそりゃないっすね。
「けっ、クソジェイドがよぉ。ちなみに言っとくが、別にシャロンに報酬全ツッパしてるわけじゃねーからな? モテる匂いがしそうな香水とか色々買ってんだよォ」
「あぁ、またか」
そう。
このアホでスケベでクズで実はもう二十代も後半近くて実家から“いい加減に身を固めたらどうだい?”というお手紙をもらっては“出来たらしてるわチクショーッ!”と俺に愚痴りに来るこの男だが、美容にはめっちゃ気を使っているのだ。
というのも、
「オレは絶対、『暗黒令嬢サラ様』をふり向かせて見せるからなぁ……!」
コイツは、ある人物に恋をしているのだ。
何やらその女に一目惚れした瞬間に一念発起。
それからは内面通りに小汚かった風貌も徹底改善し、今もなおモテを追求しているとのこと。
うーん……努力は認めるんだけどさぁ……。
「ルア、その相手はやめておけって。絶対に無理っていうかさぁ……」
「はぁ~~~!? そりゃぁ確かにサラ様はみんなの憧れで別世界の存在だぜ!? 美しいだけでなく英知にも優れ、あの方がこの都市に
だけどなぁっ! と無駄に熱く叫ぶルアくん。
い、いや、俺が言いたいのはサラが遠い存在だからあきらめろとかじゃなくて……。
「オレぁ全力で恋してるんだよ! 男たるものを、想いも何も伝えないまま終わるわけにはいかねぇよ! わかったかー!?」
……うん。
これは説得するのは無理だな。
正直このままだとコイツ未婚で人生終わりそうなんだが、俺も別に結婚したことないけど今を幸せに生きてるしな。
そういうのも全然ありだろう。
「あぁわかった。すまないルア、俺が全面的に間違ってたよ」
「お、理解したようだなオレの愛を!」
「まぁな。そんなお前への謝罪と敬意を示すために、今日は好きな食べ物を頼んでいいぞ」
「ってマジか親友ーっ!?」
ヒャッホーッ男前ー! と叫ぶルアくん。
うーんちょろい。
「ス、ステーキ! ミノタウロスとかじゃなく、ガチの『牛』のステーキ頼んでいいかぁ!?」
「あぁ食え、おかわりもいいぞ」
この世界では『牛・豚・鶏・馬』の肉がかなり貴重だったりする。
なにせ魔物で溢れてるからな。
人類が生活圏として勝ち取った土地だろうが、それは危険が少なくなっただけで魔物が一切いなくなったわけじゃない。
んで、強力な魔物が牧畜地に一匹でも入っちまえばもう終わりってわけだ。
野生のヒヨコも食われてたしな。
「さ、流石にわりぃから半分コしてやるぜ……?」
「いや別にいいさ。俺はむしろ魔物肉のほうが好きだからな」
「あーそんなこと言ってたなぁ。動物肉と比べりゃクソ硬いだろうに、変わりもんがよぉ」
ん、そのへんは全然気にならないな。
なにせ俺は邪龍アゴの持ち主だからな。
魔物肉ほど引き締まってたほうが噛み応えいいし、あと家畜肉は前世でそれなりに味わってきたってのもある。
だから俺にとっては魔物肉のほうが味も新鮮でウマウマなんだよ。
「このお人よしめ、マジで頼んじまうぞ!?」
「はよ頼めって」
……ここで再三確認してくるあたりがコイツとギリギリ友人出来てる点だな。
まぁ令嬢サラの件は諦めてほしいが、お前にはいつか誰かイイヤツが現れるさ。
頑張れよ。
「じゃあお言葉に甘えて。すんませーん、牛ステーキ10枚くださーい!」
「って払えるかそんなに!」
あとお前そんな食えねえだろ調子こくなよ!?
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【今回の登場人物】
俺:マイホームが欲しい人。邪龍アゴの持ち主。変態な友人にはわりと厳しめ。
トロール:強靭な肉体と“IQ3”の頭脳を併せ持つ奇跡のアホ。引き合いに出された。
ルア:トロールと比較されたジェネリックアホ。苦労の末に『貴族街の美少年』と例えられる容姿を手にしたが、内面の汚さが全てを台無しにしている。
シャロン:上の奴のダッチワイフ。忘れていい存在。ゴブリンの詰め込みに成功したかは謎。
@えーぶい(【時間操作】転生村長とかいう作品はじめました)
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