第2話



「わかんねーだろから聞かなくていいけど、この世界は昔やばかったらしいぞ」



 豆をポリポリやりながら。


 そいつを同行者にも投げつつ俺は語る。



「最初は当たり前に人間がぬくぬく中世してたとさ」



 いや中世って呼ぶか知らんが、ヴァイキングの時代くらいまでは地球と同じような歴史辿ってたんだと。

 ウチの国名も『ブリタニア』だしな。

 旧英国だ。



「でも」



 急に『魔物』って存在が出現。


 そいつらはやたらデカくて攻撃機能が多くて、人をめちゃ襲う特性を持っていた。



「んで」



 あっちゅーまに人類は絶滅寸前になったんだと。

 ファンタジーだよなぁ。



 そんな人類がファイナルしかけたファンタジー的状況。

 しかし、だからこそ救いは現れた。



「なんか『女神ソフィア』って存在が降臨したんだと」



 いよいよファンタジー極まれりである。


 ともかくその女は仕事を開始。

 魔物が立ち入ることができない『神聖領域』ってのを作成してくれたんだ。

 これで人類は安全圏を得たわけだな。




「で、そのままどっかに消えたんだと。って魔物狩らないんかーい!」




 保護活動するだけかーい! 根本の解決しないんかーい!

 


 ……と突っ込んでもまぁしゃあないか。


 意味わからん行動するのは神話のカミサマのあるある現象だからな。



「ともかく『神聖領域』ってのは役に立った」



 そこで数を回復させはじめた人類。


 さらに例の女神様、こっそりと人類を遺伝子組み換えしていたのか、新生児たちが『スキル』なんて力を一つから三つほど持って生まれるようになっていたのだ。


 すまんな女神さん、仕事してないなんて言って悪かった。



 と思ったら、



「なお人類さん。説明を受けてなかったせいで、混乱して『まさか魔物の手先か!?』と子殺ししたり、逆にスキルを暴走させた子供に殺される事件が多発した模様」



 いややっぱ女神なにしてくれとんねーん。


 そこサプライズにする意味ある?



「まぁそんなこんなで色々あったが、ともかく人類は『神聖領域』という名の“砦”と、『スキル』という名の“矛”を獲得。魔物への対抗を始めたわけだ」



 そうして今に至るまで数百年。

 人類は『神聖領域』を中心に輪を描くように住める領域を拡大。

 今やそこそこの土地を人の手に取り戻したんだと。


 すごいや。



「良い話だよなぁ感動的だ。人の力を無礼ナメるなって感じだろ?」



 でも、



「違うんだよ。実際はな、みんな土地を取り戻すために魔物と戦うとかイヤだったんだよ」



 当たり前だよなぁ。

 不思議パワーがあっても不死じゃないんだ。

 だったら誰が好んでバケモノと戦うかよってな。



「だが『神聖領域』内で人が増えすぎた結果、嫌われ者とかが追い出されるようになったんだと。ンでそいつらが仕方なく魔物を狩って村とか作って、結果的に今に至る感じらしいぜ?」



 なんというか“人間らしい”動き方である。

 この世界でもヒトは変わらないって納得しちゃったよ。


 異国でハンバーガー食った気分だ。



「ちなみに今語った歴史は、ダークエルフさんに聞いた裏話な? 世間じゃ普通に“みんな勇敢に戦いました”って話になってるみたいだから、変なこと言わないほうがいいぞ? 特に真相を知るお貴族様の前ではな」



 そう注意してみたが……まぁ必要ないか。




「だってお前、ヒヨコだしな」


『ピヨ~?』




 足元のヒヨコさんは首をかしげたのでした。

 全然わかってない様子である。



「まぁわかるわけないか。脳みそ1グラムのお前に、この領域レベルの話は」


『ピヨヨ~?』



 さらに首をひねるヒヨコさん。

 首もげるぞお前。


 ちなみにコイツはペットとかじゃない。

 なんかトロールを破裂させたら胃袋から消化寸前で出てきた子である。


 出会ってから3分くらいの絆だ。



「健康状態はもう大丈夫そうだな」



 放置するのも可哀そうだったからな。

 スキル≪消毒デトックス≫で胃液を飛ばして、さらにスキル≪回復ヒール≫で癒してやったらなんか懐かれたのかついてくるようになったわけだ。


 あとスキル≪消臭デオドラ≫とスキル≪芳香フローラル≫も使っておいた。

 俺は綺麗好きなのだ。



『ピヨピヨピヨピヨピ~ヨピヨ?』


「なんて?」



 ……よくわからんがヒヨコの一匹くらい飼うのもいいか。


 ちっこい足でついてくるヒヨコを拾い上げて肩に乗せてやる。

 なんかすごく相棒っぽいぜ。


 黄色いし。



「よし、これからよろしくなピヨチュー」


『ピヨ!』

 


 やる気いっぱいに返事するヒヨコさん。


 ……そのままなぜか猛ダッシュで、俺の無駄に逆立っててボサボサな黒髪の中に突っ込んでいくのだった。



『ピヨ~』



 どうやらソコを定住地に決めたらしい。

 なんで?



「まぁいいけどさぁ……お前頼むからそこでウンコしないでくれよ?」


『ピヨ?』


「うわ駄目そうだ……」



 そんなやり取りをしつつテクテク歩くこと数分。

 やがて街に入るための検問が見えてきた。

 門番役の兵士さんたちが数人で駄弁っているな。



「どうもですみなさん、お疲れ様です」



 頭を下げて丁寧に挨拶。

 すると向こうも「よぉジェイド、よく帰ったな」「おかえり」と笑顔で返してくれた。

 ま、もう十年近い付き合いになるからな。


 あぁちなみにヒヨコくん、俺の名前はジェイドだからな?

 ジェーイード。

 覚えたかな?



『ピーヨーヨ?』



 お、気のせいか音は合ってたぞ? お前ヒヨコなのに頭いいのか?



「今回も怪我無く帰ってきたようだな。流石は『年中健康体のジェイド』……と言いたいが、その前になんでお前、頭にヒヨコ飼ってるんだ? しかも話してるし……」


「あぁ、実はトロールを倒したら腹から出てきまして。それからかくかくしかじかで頭に」


「かくかくしかじかじゃわからないんだが……まぁいいか。お前の友人のルアなんて、この前ゴブリンを街に連れ込もうとしてたからな。“ダッチワイフの中に組み込んで、動くワイフにしてやるぜ!”って」


「馬鹿じゃねえのアイツ?」



 倫理観とビルドファイトしてんじゃねえよあの野郎。


 年中エロいことを考えてるアイツだが、ついに脳みそまで精液漬けになったかぁ。

 これもう逆に進化だな。



「よし友達やめるか」


「そうしとけジェイド。……あぁそういえばお前、さらっと言ってたがトロールを倒したそうだな? これは名声も実績も上がって、『万年三級ソロ冒険者ジェイド』の二つ名を返上か?」


「いやいやそんな」



 ほかの冒険者なら嬉しいことだが俺は困るぞ。

 御免被る。


 なにせ俺は、あえて三級の半端な地位で一人フラフラしてるんだからな。

 テキトー言ってごまかしておくか。



「トロールといっても、『未開領域』のほうから傷だらけで逃げてきたヤツを狩ったまでっスよ。おそらく強力な魔物に襲われたんでしょう」



 魔物同士でも戦うことがある。

 なにせ連中は無駄にデカい身体をしてるからな。

 腹を満たすには同じくデカい魔物を食べるのが一番ってことだ。



「なるほどな。しかし倒したことには違いない。討伐証明部位である耳を持っていけば、サイズによってはそれなりの褒章が得られるぞ」


「えぇ、もちろん取ってあります。運よく結構な大きさでしたので、そのへんも期待してますよ」


「そうか。今夜は豪遊できるな」



 よかったなージェイド、おめでとうジェイドと笑顔で讃えてくれる兵士さんたち。

 最初はみんなそっけなかったが、コミュニケーションは取るもんだな。



「ありがとうございます。よければ夜、みなさんもギルド脇の料亭に来てください。エールの一杯でもおごりますよ」


「ってマジか。……相変わらずだなぁお前は。そんなだから、『お人よしのジェイド』と呼ばれて新入り連中に舐められてるんだぞ?」



 やれやれとみんな呆れ顔だ。

 まぁ馬鹿にしてるというより、心配してるって感じだな。

 ありがたいことだ。



「はは。別に誰彼構わず奢るわけじゃないですよ。兵士のみなさんには世話になってますからね。みなさんが門番や見回りをしてくれるおかげで平和に暮らせてますんで」



 いやホントにね。

 誰もが『スキル』なんてもんを持つこの世界だからこそ、一歩間違えばマジで治安が終わるわけよ。

 どうかこれからも頑張ってほしい。



「くぅ~~っ相変わらずイイやつだなぁジェイド! ほかの冒険者ときたら粗野なヤツも多いのによぉ」


「あぁまぁたしかに」



 仕方ないっちゃ仕方ない話だな。


 誰もがスキルなんていう超能力を使える世界だろうが、そこにはやっぱり個々の適性や強弱がある。


 俺の≪鑑定アナライズ≫みたいに魔物との闘いじゃ役に立たないスキルを持って生まれるヤツは多いしな。

 そういう人たちは街の中で生産や治安維持に努め、逆にバトルしかできない奴は魔物狩りに出ていくわけだ。


 んで、後者のバトルしかできない連中。

 未開の土地を切り開いていく『冒険者』たちは、前者の街に閉じこもっている人たちを馬鹿にする傾向にある。



「そういうの、どうかと思いますけどね。強さを叩き棒にして威張るとか、正直恥ずかしいっていうか」


「……お前さん。本当に冒険者っぽくないヤツだよな。礼儀正しいし謙虚だしよ」



 そりゃまぁ元日本人だからな。

 年上とか見ず知らずの相手にタメ口でグイグイいくとかマジで無理だから。

 そんな無駄な心労抱えるくらいなら、態度だけでも丁寧に接したほうがお互い気持ちよく過ごせるだろ。



「ありがとうございます。ではみなさん、自分はこれにて」


「おうまたな~」



 そうして街へと戻ろうとした時だ。

 兵士さんの一人が、「そういえば」と言ってきた。



「例のトロール、なんかの魔物に傷だらけにされてたんだってな。そいつぁ伝説の『あの方』かもしれないなぁ?」



 少しばかり目をキラキラとさせる兵士さん。

 どこか少年じみた顔付きをする彼とは別に、俺は「うっ」と小さく呻いてしまう。


 おいおいまさか、この人が言いたいのって……、



「魔物でありながら人々を襲わず、逆に他の強力な魔物どもをことごとく殲滅させたという異端なる救世主! 暗黒の鱗を持ちながらも、人々に光をもたらした聖なる邪龍ッ!」



 や、やめろ。その長くて恥ずかしい説明やめろ……!



「“アナタは何者か”と問うた人々に、かの龍は名乗った! 『我が名は――』」

 


 うぇぇぇぇ……!?



「『我が名は、“暗 黒 破 壊 龍 ジ ェ ノ サ イ ド ・ ド ラ ゴ ン”である』とッ!」



 うっわぁぁぁ恥ずかしいぃぃぃ……!



 だってそれ、転生したばかりの俺なんだからよぉ……!



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今回の登場人物


・ヒヨコ:奇跡のアホボールから出てきたピヨチュー。電気の力でチキンになるぞ。


・兵士さんたち:丁寧な主人公に好印象。


・俺:ジェイドって名前。すかしたツラして、昔は“暗 黒 破 壊 龍 ジ ェ ノ サ イ ド ・ ド ラ ゴ ン”の恥ずかしい名前でブイブイやってたヤツ。反省中(※なお異世界だと普通にカッコいい名前と思われてる)


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