第8話…軍機王イリアス・オルタネイティヴ
「でですね陛下、あの馬鹿こんな政策を」
「それはお前が始まりだろう!」
「陛下!本日は建国記念日故城下で露店が」
「馬鹿者ッ陛下は戻られたばかりだぞ!」
時間も経てば先程のような悲しげで重たい雰囲気は無くなり、今は場所も広く作られた娯楽部屋へと移り和気藹々とした和やかなものへと変わっていた。
なんとも懐かしく感じる。実際には五百年も会っていない訳でさないと言うのにな…
「陛下、随分と嬉しそうですね。珍しく笑顔に不気味さを感じませんよ?」
そのような光景を眺めていれば、横から“聖鏡王”を冠する“シエルエット”が声を掛けてくる。
――“聖鏡王シエルエット・シャルエルマ”。
種族も分からなければ何れ程の年月を生きているのかも分からない存在。
古き時代より生き続けている“魔術王”や“龍王”ですら知りえない存在ではあるが、その総合的強さと
その外見は美しい純白のドレスにベールを合わせたもので着飾り、顔は鏡であり全身は聖銀で出来ている。
何やら彼女からみた俺は、珍しく優しげな笑顔をしているらしい。元より優しく微笑みを保っているとは思うのだが、どうやらソレは不気味に見えていたようだな。
だがまぁ――
「こうして再びお前たちと再開で来た事が嬉しいからであろうな」
「ふふ。陛下がそうお想いになっているのと同じく、ワタクシ共も心が埋めつくされるほどに幸せで嬉しいですわ」
彼女の顔は宝石のように美しい鏡で出来ているが、その所為と言って良いのか表情がどのように変化しているのかが分からない。
だが声色からして彼女は間違いなく、綺麗な笑みを浮かべているのだろう。
「…ふむ」
それにしても、龍王は兎も角とし“軍機王”と“起源王”の姿が無いな。あの者たちが体調を崩すとも考えられぬ。
もしや起源王は龍王が暴走した件を自身が全て悪いとでも考えてしまって居るのであろうか?元より生真面目であったが故、可能性はあるか…。
されど軍機王に関しては何が原因で――
「皇帝陛下。少々オレから頼みがございます」
俺が起源王と軍機王に関して色々と考えていれば、“三公”の一人“雷公”を冠するドレイクと言う名の男が頼みがあると声を掛けてくる。
その表情は何処か難しそうなものが含まれていた。
「どうした?俺に出来る事であれば何でも言うと良い」
「ハッ!実はお嬢…軍機王“イリアス・オルタネイティヴ”様に関して」
「ふむ。それは是非とも聞きたいな」
ドレイクは事の経緯を語り始めた。
彼が語るには今現在、イリアスは自主都市の城に深く籠ってしまっているらしい。これの原因は言わずもがな俺自身だ。
どうやら俺が消えてから百年程が経過した頃にはもう、何処か可笑しくなり始めていたと言う。
何時もは元気であった姿も日に日に無くなっていき、その瞳から光が消え何時しか一言も喋らなくなってしまったようだ。
彼女は古代の“
であれば人と大しては変わらず、心に傷を負いそれが深くなっていくのも当然…俺にとって親という存在がどれ程に大きなモノかは分からない。
だが彼女は俺の事を親と慕っていた…本での知識でしかないが子にとって親とは居なくてはならない存在。
そんな存在が突如何も告げずに消えてしまえば、心に何らかの傷を負う事もあるか…。
「…彼女には俺が帰還した事を伝えていないのか?」
「伝えようにも何も、あの子は今“タルタロス”を発動して外部との接触を完全にたってしまっているのですわ」
「それ程までにか…」
イリアスは魔力を持たず魔法・魔術・神聖術・精霊術などが使えないが、代わりとして“固有能力”である“機械仕掛けの神”を所有している。
その能力は魔力等を消費せずに無尽蔵に機械系統の物を生み出す事が出来、中には理より逸脱したものも想像出来る。
故に底無しの機械兵を操る事から軍機王の名を冠している。
そんな彼女が今回発動した“タルタロス”というのは、外部からの破壊は当然ながら内部からの破壊も不可能であり無敵の要塞そのものだ。
欠点としてその場より一定の距離しか動けなくなるが、今の彼女にとっては最高の籠り場だろう。
ではどのようにして彼女へと語りかけるのかと言えば――
「出来るだけ大きな拡声器を持って来てはくれぬか?攻撃系統の声は通さずとも単なる呼びかけであれば通るやもしれん」
タルタロスは魔力等を含む声を自動的に弾くシステムがある為に、一言一言に魔力の籠ってしまうドレイクやシエルエットの言葉では彼女へと届かない。
だが俺の種族であれば問題ない筈だ。
「しかし陛下、それでは貴方様の存在を公にすることになってしまわれますが、宜しいので?」
「ふむ、そうであるな…
「ハッ!」
少しばかり離れた場所でほかの者と話していたヴァレウスをこちらへと呼ぶ。
「今よりイリアスを外に出す為に機械都市へと行く。その際に拡声器を用いて呼び出す故、お前の魔術で俺の姿と声を隠してはくれまいか?」
「陛下の頼みとあらば今すぐにでも」
「そうか。実に助かる」
態々ヴァレウスに認識阻害の魔術を頼むのは、魔力を使用した状態ではイリアスに声が届かぬ可能性があるからだ。
「皆の者。今よりイリアスの元へ行ってくる故、このまま楽しんで待っていてくれ。何かあれば直ぐに知らせてくれ」
「「「ハッ!」」」
「うむ。では行くぞ?ヴァレウス」
「承知いたしました」
そして今度はそこまで距離が離れていない為、ヴァレウスの集団転移魔術を発動し機械都市へと飛ぶ。
俺はあちらへ着いた時に顔が見られぬよう、念の為に真白の面を被っておく。
▼
――機械都市“エクスメナス”。
グランディス帝国首都より西に位置する大都市。その技術は帝国に収まらず世界的に見ても圧倒的なものとされている。
それ程までの都市を管理するは五爵王が五席、軍機王を冠するイリアス・オルタネイティヴである。
ヴァレウスの転移魔術を使用し飛んだ場所は、人目につかない位裏路地。特にこの都市に於いて裏路地に居る者・来る者は悪党か路頭に迷った何者かだけだ。
「ヴァレウス、頼むぞ?」
「お任せを」
――知覚精神干渉魔術:認識阻害
ヴァレウスが魔術を発動すれば、足元に魔術陣が現れ認識阻害の効果が付与される。俺とヴァレウスは同じ魔術且つ発動者が同じ為に互いを認識できている。
傍からは見えはするだろうが様々な姿で見える上に記憶には残らないだろう。
「陛下。魔術を掛けたとは言え何があるかは分かりませぬ。仮面は外さぬように。わしも念の為つけておきます故」
「あいわかった」
因みにではあるが、ここで透明化では無く認識阻害を使うのかと問われれば、それは時間制限があるからだ。
認識阻害などの魔法・魔術には時間制限は無いが、完全な透明化となる魔法・魔術には時間制限が存在している。
その為バレる可能性が高い。故に今回は透明化を使用している。
そうして裏路地から抜け大通りに出れば、腹の底に響く程の盛大な賑わいを見せていた。
ゲーム出会った頃は感じることの出来なかった熱量と屋台などから美味しそうな匂いも漂ってくる。
「いい具合に賑わっているな」
「建国記念日ですからなぁ」
グランディス帝国の建国を祝う一年に一度の盛大な祭り。その規模は帝国の都市から村にまで全てに渡り開かれ、場所によって盛大さは違えど帝国の持つ財産をふんだんに使用して開かれる。
期間は三日。今日から始まり明日が当日、明後日が後夜祭となる。
出来れば俺も回ってみたいものだ。
「さて…」
そんな賑わいを見せる中、都市の中心部へと目を向ければ凝視せずとも分かる程に巨大な黒い長方形の箱のようなものが出来上がっていた。
あれこそがイリアスの籠っているタルタロスだ。相も変わらず迫力があるが、住民は長年そうであったからか最早気にする素振りを見せてはいない。
所々あれはなんだという声が聞こえるが、きっと外から来た者たちなのであろう。
「取り敢えずは足元まで行かねばな」
「で御座いますな」
そうしてヴァレウスと共に足元まで来たのだが…矢張りなのか警備は居ないか。その代わりに赤いロープでタルタロス全体を囲んでいる。
何故警備兵がいないのかと言えば、それは逆に危険だからである。
このタルタロスには様々な機能があり、その中に自動防衛反撃システムも備わっている。当然ながら性能は凄まじく、触れるどころか一定の距離近付いただけでも攻撃してくる。
そして攻撃の威力もまた脅威的なものであり、“第二戦域”相手であれば容易にほ振ることが出来る。
「…まぁここからでも声は届くか…万が一の時は偽装をすぐさま頼むぞ」
「ハッ」
俺の指示にヴァレウスが返事をし頭を軽く下げる。そして俺の声が周りへと聞こえぬように消音乗った魔術を発動させる。
さて、彼女が俺の言葉を信じるのか…それは分からないが今の彼女に対してしてやれる事は声をかけることのみ。出来るだけの事をするのが親…確かそうあった筈だ。
「すぅ…イリアスッ!お前の父ッ!グレイプニルが今帰ったぞッ!」
拡声器を通して俺の声がタルタロスへと向かう。
――……
矢張り反応はないか…だが声掛け続ければ何れは反応を返す筈だ。
「五百年前ッ!何も抗えぬ状況だったとは言えッ!何も告げずに姿を消しお前に辛く悲しい想いをさせてしまったッ!」
滅多に大声を出す事が無い所為か、自身でも分かる程に力強さを感じられないが、それでも出せるだけの声量を持ってイリアスへと言葉を投げかける。
「謝って許されるなどとは考えていない!だが頼む!今一度お前の姿を俺に見せてはくれないかッ!」
――……
それで持ってしても彼女からの反応は何ひとつとして見受けられなかった。
「陛下、一度喉をお休めに。このまま叫び続ければ喉を痛めて――」
――ガコンッ
「ッ!ヴァレウス!隠蔽魔術だ!」
「ハッ!」
重たい音が鳴ると同時、ヴァレウスへと指示を飛ばし周りからタルタロスに変化が起きていないように見せる隠蔽魔術を掛けさせる。
そして何度も重たな音が続き、至る所から白い煙が吹き荒れそれが都市に広がらぬように風を操り手元へとかきあつめ圧縮していく。
この煙は高熱を持っている為触れただけでも肌が焼け爛れてしまう。
そうしてタルタロスは重低音を響かせながらも変形を続け、残すは人が一人入れる程度の小さな長方形の箱のみとなった。
きっと彼女はこの中へ入っている筈だ。
俺はその箱の目の前まで近づき片膝を着いて、拡声器ではなくそのままの声で語り掛ける。
「お前は俺を父のように慕ってくれていた。だと言うのに俺はお前に悲しい思いをさせてしまった。きっと許せぬ思いもあるだろうがどうだ?一緒に祭りを廻ってはくれぬか?」
――…ガコンッ
少しの間を開けて箱が扉のように開いた。そしてそれと同時に俺に対して飛び込んでくる影が見え、軽いながらも小さな重さが被さってきた。
「ふぐっ…うぇえええッ!ぇぁあああッ!お父様のばかぁあああッ!うぇえええええっ」
イリアスは幼い子供のように抱き着き、喉を痛めてしまうのではと思う程に甲高い声で泣き叫んだ。
俺には親の気持ちがよく分からないが、きっと親と言う存在は子を泣かせてはならず、ただ楽しく幸せな毎日を過ごさせるのが仕事なのであろうな。
「陛下…」
「何構わんさ。もう暫しこのままにしておこう」
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