第4話…都市カルザンに到着!


 カルザン都市は、ルージアス王国の南方に位置する山上都市である。周辺は同じく巨大な山々と囲むようにして流れる大川があり、城壁は無いものの強固な結界と都市に入る為の一本の大橋からなっている為、攻めにくく落ちにくい都市として知られている。


 これが五百年前の知識なのだが、どうやら大きくは変わっていないらしく、ゲーム時代よりも街並みと景観が良くなった程度だ。

 あとは結界の強度が底上げされている。これは魔導具によるものであろうな。

 それにしてもこう改めて目にすると、ここらの山は通常とは比べ物にならない程に大きい。正に圧巻そのものだ。


「さて、取り上げえず別荘に行って馬車を置いたら領主の所に行かないとね」


「ふむ、今は昼過ぎ…領主との話が長引けば買い物をしている時間はないのでは無いか?」


「会うって言っても、顔を出す程度よ。なんたって今回は旅行も兼ねてるんだから」


 そう言いながらモルデリカ嬢は鼻をフフンと鳴らした。


「であれば後ろの荷馬車は…」


「そうよ。ぜーんぶ、私の買った物が積んであるわ。まぁ買いすぎた所為で途中で荷馬車を三台も買う嵌めになったけれどね」


「それはそれは…」


 モルデリカ嬢は仕方なくと軽く言うが、あの荷馬車には数種の防御魔法と保存魔法が掛けられている。

 その為に非常に高価であり、物によっては白金貨五枚はする。今回モルデリカ嬢の率いている荷馬車は一台あたり白金貨三枚程、それが五台となれば大豪邸が二つは建つ。

 それを買い物袋のように買うところは流石大商会の会長と言ったところか…。


 確かにこれ程であれば世界的に有名なのも頷ける。この都市に入る際に門守や一般人、冒険者などが好奇の目を向けてくるのも納得がいく。


「…てかそもそも守護竜の奴が結界さえ張らなきゃ、荷馬車を買うことはなっかたのだけれどね」


「ふむ、確か四年前に結界を張ったと言ったな」


「そうよ。それさえなければ今頃飛空船で来てたのに」


 先程この五百年間に起きた出来事を聞いた際、話の中でルージアス王国全土に守護竜が複雑な結界を張ったという。

 その理由は依然として分からず、国王である“カルメン・ルージアス”にすら知り得ないと言う。だが国民は守護竜がそうしたのならば正しい事だと考え、あまり深くは考えていないようだ。


「私的には、間違いなく魔王の影響でしょうね」


「魔王が現れたのは百年前、なぜ今更結界を張るのであろうな」


「…実は最近、隣国の“ドルスガル王国”に魔王の手先が現れたらしいのよ。それで守護竜も警戒したんでしょうね」


「ほう…」


――ドルスガル王国。別名“夜の国”とも呼ばれ、吸血鬼や夜行性の魔族が暮らす国である。

 国王である“ルシウス・カルマロエ”は“古き吸血鬼”であり、その実力故に夜の王と畏怖されている。


「でもその手先もカルマエロに掛かれば赤子同然だったらしいわよ」


「なるほど中々に面白そうだ」


 その国王にも魔王という存在にも非常に興味がある。過去と比べて強さの底が上がっているのか下がっているのかはたまた変動せずなのか、心の底から気になるな。

 出来れば上がっていて欲しいものだが――


「…ふふふ、ドルスガル王国に行きたい?」


「…そうだな」


 モルデリカ嬢は怪しげに微笑み何かを企んでいるであろう目…商人としての目で俺を見つめてくる。


「なら取引しない?」


「…俺に可能な範囲であれば応えよう」


「そう来なくっちゃ!」


 モルデリカ嬢は嬉しげな表情でウィンクをした。


「それでモルデリカ嬢の頼みと――」


――コンコンっ


 俺がモルデリカ嬢に対して取引の内容を聞こうとした時、馬車の扉が二回ノックされた。


「モルデリカ様。お屋敷に到着いたしました」


 扉の向こう側から聞こえてきたのは、力強い女の声であった。


「分かったわ。ちょっと待っててちょうだい」


 モルデリカ嬢はそう返すと、馬車の中に散らかしていた魔導具や本や資料を鞄へと詰めていく。

 まるで底が無いのかと思う程に物が吸い込まれていくのを見る辺り、希少な“魔法の鞄”であろうな。ゲーム時代に於いても亜空間ボックスには限度があった為に、よく持ち歩いていた。

 残念ながら今はポシェットサイズの少量型だがな。


 それにしても――


「モルデリカ嬢はもしや…」


「黙らっしゃいッ!」


「…済まないな」


「ほら!さっさと降りるわよ!」


 モルデリカ嬢が鞄を手に取り立ち上がると、外で待っていた冒険者が扉を開けた。それと同時に自然の風が身体を包むように吹いた。

 馬車から下車し屋敷の中へ入れば、多くの使用人が出迎えていた。


「取り敢えず着替えてくるけど…貴方はどうする?」


「ふむ…」


 これは着いてきても来なくても良いのだろうが、取引内容が決まっていないとは言え今はモルデリカ嬢と契約状態と言っても良い。

 ここは身なりを整え同行するのが一番であろうな。


「俺も同行する故、着替えるとしよう」


「わかったわ。二階に着替え部屋があるからそこを使うといいわ。誰か私の友達を案内してあげて」


「かしこまりました。御友人様、此方へ」


「…承知した」


 モルデリカ嬢の指示でメイドの一人が着替え部屋まで案内し始める。

 それにしても友人とは可笑しなものだな。つい先程出会ったばかりだと言うのに、そこまで親しくなった覚えは無いのだがな。

 されどもこれも何らかの縁なのだろう。友人として受け入れてくれるのならば嬉しい限りだ。



 メイドに案内され着替え部屋までは来たのだが、何を着て行くべきか…俺が持っているのは殆どが和装であり奇抜か派手なもの。

 一応黒一色の和装があるのだが、これで構わないだろうか?と言うかこれしかないのだからこれで行くしかあるまい。

 葬式に行くのでは無い。と言われたとしても他の服では余計に言われそうだ。





 一先ず着替え終わり部屋を出る。するとそこには、モルデリカ嬢が立って待っていた。


「済まないな。待たせてしまったか?」


「い、いや別に…なんて言うか貴方…ちゃんとした服持ってたのね…」


「…一応はな」


 突然蔑まれて驚いたが、先程まで少々派手で奇抜な和装を纏っていたのだから仕方の無い事であろうな。

 これで先程と変わらぬような服装ででいたのならば、より言葉で責めらていたであろうな。


「…まぁ身嗜み整えればそこそこ…いいんじゃない?」


「はっはっはっ、まるで生娘のようだな」


 うちにも似たような子ガいた故、仲良くなるやもしれんな。国の者たちが俺の事を許してくれたならば是非とも合わせたいものだ。

 しかしこの感情…これが親というものだろうか?生前からよく分からないものだな。


「ッ〜〜〜!貴方ッ!女の子に向かってなんてこと言うのよ!」


 俺の出過ぎた発言にモルデリカ嬢が顔を赤くして怒ってくる。


「あいやすまんな。年寄り故少しばかり言葉が過ぎた」


 つい調子に乗りすぎてしまったな。

 どうも年齢的なものがこの身体に引っ張られ始めている。喋り方もすこし変わり始めたか?まぁ事実、この身体に於いてはじじいなのだがな。


 と怒りの余り物理的に噛み付いて来るモルデリカ嬢に対して、青髪で鎧を纏った女が近ずき耳打ちをするように囁く。


「モルデリカ様。そろそろ」


「…そうだったわね。ほら行くわよ」


「あいわかった」


 そう言われたモルデリカ嬢は大人しく俺から離れ馬車へと向かって歩き始める。俺はその後ろを大人しく着いて行き、馬車へと乗り込む。


「確か領主の館は山頂であったな」


「そうよ。とてもいい人なのよねーあのおじいちゃん。よく商品買ってくれてるって言うし」


「そうかそうか、それは良かったな」


 一瞬子供が近所のお年寄りに抱く優しい人と言う暖かな感想かと思ったが、視点が完全に商人そのものだ。まぁ商人とは元来そういった者達ではあるがな。




 ▼


 馬車に揺られる事数分、この都市と周辺を管理する領主の館へと到着した。屋敷のはモルデリカ嬢の屋敷より少々大きく美しい景観をしている。

 屋敷の扉の前にも使用人が五名ほど待機している。

 そして先程の鎧を着た冒険者が扉を開け、モルデリカ嬢が降りようとする。


 だが、この場合俺が先に下車し手を取るのが作法なのであろうな。誰かからそう聞かされたのを覚えている。


「モルデリカ嬢、俺が先に降りる故待っていたまへ」


「あらそう?」


 そうして俺は先に馬車から降り、馬車から伸びる階段の前に立つモルデリカ嬢に対して手を差し伸べる。


「さぁ、俺の手を取ると良い」


「思ったより気が利くのね。貴方」


 モルデリカ嬢はそっと俺の手を取ると、緩やかに階段を降りる。その姿は正に貴族の令嬢のように美しいものだ。

 流石は十代半ばで大商会を取り纏めるだけはあるな。


「それじゃさっさと終わらせましょ」


「承知した。それとひとつ言っておくと、俺は礼儀作法などは知らない故無礼をするだろうが、許してくれ」


「…え?」


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