第1話…第二の世界への転生
超大型オープンワールドMMORPG、世界的に桁違いの人気を誇るそのゲームの名前は――
全知のAIが過去現在に至るまで存在した人間たちの人格・思想・人生・歴史そして神話などの架空的物語までもを記憶し、NPCや魔物に完全な生物としての意識・感情を作り出した。
その為本物の人間とNPCが見分けられない程までのモノとなった。
そうして何時しか全世界総勢約二十億人あまりがプレイする事となったゲームは、二十年という長い間圧倒的人気を誇り頂点に君臨してきたが、2140年の夏を持ってその幕を下ろした。
そしてArkNOVAにて最強を誇ったプレイヤー――“グレイプニル・ガリア・グランディス”は、たった一人国を築き上げ、ほかのプレイヤー達からは覇皇と呼ばれていた。
そんな男は今、病により死の淵にたっていた。
嗚呼、これはもう死んでしまうな…いや、俺の人生は
産まれたその日より病に侵され死ぬまその時まで機械に生かされ続ける日々…生きる意味が見いだせずにいた中で出会った第二の世界。自身が本来生きるべき世界は此処なのだと理解し、その世界で死ぬ時まで生きる事を心に決め国を築いた。
それから二十年、その世界は消え今この時俺の命もまた、消えようとしている。
…真に願わくばという物があるのならばもう一度、ArkNOVAの世界で自由に生きてみたいものだ――
「その願い!叶えてあげましょう!」
「…は?」
どこからともなく聞こえてきた女の声、雰囲気からしてかなり若い子供のような声が急に夢を叶えましょうと叫ぶのがはっきりと聞こえた。
何事か分からずに辺りを見渡せば、何処とも知らない星の広がる空間にいた。
「この度はご愁傷さまです!なんて言っても、ミスって貴方を病気にしたのは私こと女神様なんですけどね!」
「…なんだと?」
「手な訳で早速願いをなんでも叶えてあげましょう!マジめんご的な謝罪の意を込めて!」
俺の言葉を気にも止めずつらつらと言葉を並べていく。
自称女神が俺を病に侵した?何を言っている?いやそれよりも、そんな事よりも今この女はなんと言った?願いを叶えるだと?
それが本当だと言うのならば俺は――
「ArkNOVAの世界へ行きたい…俺自身のプレイヤーデータを持って」
そうだ、死んだ事など最早どうでもいい。自分が死んだ事よりも、何でも願いが叶うというこの瞬間、俺はArkNOVAに行ける可能性…それが僅かでもあると言うのならばこの命程度捨てても惜しくはない。俺が生きるべきはこの世界ではなく、あちらの世界だ。
「その程度の願い!容易に叶えてあげましょう!んじゃ行ってらー!五百年後のArkNOVAの世界へ!」
そう叫ぶや否や、視界が真っ白になる。
そして次に目を覚ませば俺は――
▼
深い森の中に居た。暖かな空気と太陽が輝く中で吹く風が、とても心地よく懐かしく感じた。
俺は身体を起こして身体を軽く動かす。なんと軽い事か、今までは常に寝たきり状態…現実で動くなどという事は出来なかった。
「…なんと…俺は本当に生まれ変わったのか…そうだ魔法だ、姿や能力がプレイヤーデータのままならば――」
――第九界域魔法:水鏡
頭で魔法を思い浮かべれば目の前に楕円形の水鏡が現れる。
今俺は詠唱も無く口に魔法の名を呟く事もしなかった。これは間違いなく、“無口頭スキル”による効果だ。
魔法も問題無く発動した。ゲームであった時とは違い、魔力総量を数字として見る事は出来ないが、身体で解る。大海の如き魔力が俺の身体に循環しているのが…。
そして水鏡に写る姿も正しく“グレイプニル”そのものだ。ふわふわとした紺色の髪に深緑のメッシュ…間違いはない。服装とてあの頃と変わらぬ和装だ。
「はは…彼女は本当に女神だったか…ならば感謝しなければいけないな。俺を殺して、この世界に甦らせてくれた事に」
――第七界域魔法:大建築
俺は魔法を行使して周りの木々や土を使い社を作り上げる。
この魔法は非戦闘魔法でありながら取得条件と魔力消費が割に合わず殆どのプレイヤーが見向きもしなかったが、国を造ると言う俺の目的に於いては計り知れないほどの貢献をしてくれた。
その甲斐あってか建築の腕は中々、それなりに立派な社を作り先程出会った女神の姿をもした像を飾る。
「はてさて、目指すは何処がいいか…いや一先ずは森を抜けなければか…」
見渡す限りの森、自然は嫌いでは無いがこうも代わり映えしないと頭がおかしくなる。とは言え森だ、木の実や動物がいるだろうから餓死することは無いだろう。
それから二時間ほどが経っただろうか、一応村を見つける事が出来た。できたのだが…
「ぐギャッ、ぐギャグギャッ!」
言葉を発していない時点でご察しの通り、魔物の村だ。それもよくある小鬼の村。規模はそこそこ、数は三百と少しと言ったところだな…どうやら古い村を改造して砦のようにしているらしい。
「ん"ん"」
――第三界域精神魔法:
『諸君、俺の声が聞こえていれば――』
「ぐぎゃァァァッ!」
「ぐぎゃッ!グギャグギグキャッ」
「ギャギャ!」
「…」
今俺は魔物とすら会話が可能となる魔法を使い会話を試みたのだが、どうやら効果は今ひとつ…寧ろ怒らせてしまったようだ。
そして何やら小鬼達は自身のボスを呼びに行ったのか、ヘンテコな建物に子鬼が数匹入り込んでいく。
すると建物から現れたのは体長2m半はある巨大な小鬼だ。
「…これはこれは、小鬼の王ではないか」
ArkNOVAで強さの表は下から十二段階あり、小鬼の王は下から三番目。言ってしまえば初心者用のボス。
だが小鬼の強みは数とその繁殖速度。確か記憶では中堅ギルドが一万近い小鬼の軍隊に蹂躙されていたのを覚えている。
「お前は話が通じるか?」
「キサマノヨウナニンゲントハナスコトナドナイ」
カタコトだが翻訳が上手く機能したな…ゲームと違って声も肉質も匂いもリアルだ。心底気持ちの悪い生き物だな。
俺の築いた国は他種族国家だが小鬼だけはダメだった。どうにも欲というモノのタガが外れている。
都市内での痴漢や強姦に窃盗や殺人未遂etc…故に国の騎士団の総力を持って徹底的に国から排除、周辺に竦んでいた小鬼も一匹残らず駆逐した。
はっきり言ってそのレベルでコレらは害悪だ。
「ニンゲン、オマエタチハスグコロシニクル。ダカラオデタチモコロス」
「そうか、その思考嫌いでは無いぞ。俺も容赦はしない」
物は試しだ、辺りに人の気配はない。強めの魔法を試すには打って付けだ。
――第一界域魔法:銀世界
「ッ!」
刹那の瞬間、小鬼の王のみならずその子達、村、森そのものまでもが凍りつく。そこは正しく銀色に染った世界だ。
俺の吐く息もこの銀世界に相応しいほどに真っ白なものだ。
この身体でなければ自爆もいいところではあったがな。
だが無事、目の前の小鬼達は全滅。上域魔法の使用も問題は無い。あと千発は打てそうだ。
余談だが、ArkNOVAに於いて魔法は特殊なモノを除き“第十界域”から“第一界域”まで存在している。
「嗚呼そうだ、小鬼の村ならばお宝がある筈だ」
小鬼は“種族能力”として“盗人(素人)”と言うものを持っている。これは低確率で相手に気付かれずに物を盗む能力だ。
小鬼はこれを利用して自分より強い冒険者や商人から隙を見て物を盗んでいる。
その為時たまレアなアイテムや大量の金品が見つかった事がある。
宝箱が置いてあるのは大抵ボスの居た場所、今回は中心の建物だ。何せ今回は弱い部類とは言え小鬼の王だ。
金の無い今の俺からすればなんでも有難い。
建物に入ればそこには大きな宝箱と周りには素朴な武器がちらほら立てかけられている。武器や防具は一般的。
これらはハズレだが、お目当ては宝箱だ。氷を溶かし鍵を魔法で解除して、宝箱の蓋を開ける。
するとその隙間からキラキラと黄金の光が溢れ出る。完全に開くとそこには大量の金銀と宝石、他にも魔法のスクロールが二個ほどと魔導具が幾つか。
現実としては始めてみる実物に心が高鳴る。
「ふむスクロールは低級品か。女神は五百年後と言っていたが、金の価値は変わらないのだろうな?」
ArkNOVAに於いて通貨は上から白金貨・大金貨・金貨・銀貨・銅貨の五種類に分けられている。
銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚、金貨十枚で大金貨一枚、そして大金貨五十枚で白金貨一枚。
白金貨一枚有れば大豪邸が立つ程だ。
まぁ取り敢えず全て頂いておこう。元よりプレイヤー全員が持っている亜空間ボックスは問題なく使用可能。
適当に全てその中に入れておく。因みにだが、ボックスの中には現在装備と回復アイテム以外何も無い。
金は全て国に置いているし、素材やスクロール系統や魔導具なども同じように保管している。
装備があると言っても、お遊び用が幾つかと戦闘用が一式のみ。他は国にある。
「…これは本格的に俺の国を見つけなければな…ろくに生きていける気がしない…」
そう思い俺は森の中を歩き続ける。
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