第60話
ついさっきまでは纏わりつくような暑さだと思っていたけど、今はそれほど気にならなかった。夜が更けてきたからと言うよりも……、そこまで考えて私は止めておいた。別に、強いて言葉にする必要もない。
思えば、こうして千夏と夜に歩くことなんて今まではなかった。もっとも私の場合、夜に出歩くこと自体が少ないから、それも当然だった。家には一応連絡を入れたとはいえ、きっと怒られるだろうなあ。さっきから通知音が何回も鳴っている。
「聞いても良い?」
私が帰ってからの心配をしていると、横を歩く千夏がそう尋ねてきた。
「何?」
私は千夏の顔を見ると、そう返す。
「その、どうして私を……」
千夏は適切な言葉を探しているようだった。だけど、私はその言葉の続きがわかったから、千夏が言い終わる前に答える。
「私もきっと、千夏と一緒だよ。多分、何でもないこと」
そう、何でもないこと。千夏も並木くんも剣谷くんも自分勝手だ。だから、私も自分勝手に、我儘になろうと思った。私の歩く隣には、千夏がいてほしいと思った。本当にそれだけのこと。だけど、それを今この場で口にしてしまうのは流石に気恥ずかしくて、私は少しだけ誤魔化す。いつか、言える日が来るのだろうかと思いつつ。
「ただ、明日からも千夏とお昼が食べたかっただけだよ」
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