第57話

「……これで、俺が今日ここで話せることは本当に全部話し終わった」

 剣谷くんはそう言うと、真っ直ぐに私の目を見た。それだけで、彼が何を待っているのかがわかった。

「さっきはああ言ったけど、俺は積極的に潮見さんとどうにかなりたいと思って気持ちを打ち明けたんじゃない。ただ、潮見さんの気持ちを聞いてみたいんだ。今が無理なら潮見さんの都合の良い時で構わない。俺はいつまでも待つし、潮見さんが望むなら、今後一切会わなくたって良い。……いや、自分で言っておいてなんだけど、それは嫌だな。でも、それは俺の事情だ。潮見さんの気持ちとは関係ない。だから……聞いてもいいかな」

 私は剣谷くんをどう思っているだろう。中学までの印象で言うなら、きっとクラスメイトか知り合いだった。文化祭を一緒に楽しんだ後なら、友達と言って良い関係だったと思う。なら、今は? ……今、私はどうしたって剣谷くんをただの友達として見ることはできない。私の剣谷くんへの印象は最早ニュートラルなものではなくなっている。それは正と負のどちらと言えそうだろうか。

 僅かに空いた蔦の隙間から外の様子を窺うと、辺りはすっかり暗くなっているようだった。どのくらいここにいるのかわからない。だけど、これ以上長居はできない。

 長い沈黙の時間が流れた。

 やがて、私はゆっくりと口を開いた。

「私は──」

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