幕間

 ふとコーヒーを飲む手を止め、店内に流れる曲に耳を傾けてみる。どこかで聴いたことのある曲だと思ったが、そうして注意して聴いてみたところで、結局は判然としなかった。店内には心地良い温度で空調が効いてくれている。俺は時間が経ってしまって湯気も立っていないカップをソーサーに置く。

 並木はもう、潮見さんに気持ちを伝えただろうか。

 文化祭が明けて、今日でもう二日が経った。早ければ昨日か一昨日に伝えていてもおかしくはない。けれど何となく、並木が伝えるなら今日だろうなと思った。その場合、文化祭後の二日は考える時間にでも当てているはずだ。

 俺はカップの横に閉じて置かれた文庫本を見る。表紙が気に入って購入した本なのに、どこで買ったのかも思い出せない無地のカバーのせいでそれも見えない。今日の放課後は読書でもしようと思っていたのだが、目は文字をなぞるばかりで結局数ページも進まなかった。

 俺は諦めてその文庫本を鞄の中に仕舞うと、代わりに中からスマホを取り出す。時刻はもう六時を回っていた。ここにいると外の様子が少しわかりにくい。俺はスマホのロックを解除し、慣れた手つきでメッセージアプリを開く。

 こんな時間に送ってしまうと迷惑になるだろうか。何なら明日以降、日を改めてでも……。けれど、俺はいや、と考え直す。できることなら、なるべく早い方が良い。俺はカップに残ったコーヒーを一息に飲み干す。

 ……俺にこなせるだろうか。いや、違う。こなさなければならないんだ。いつか、この場所で並木に披露してみせたように。

 俺は探偵になる必要がある。

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