第36話

「そういえば、もうお昼休憩の時間だね」

 手芸部の展示を見終えた俺たちは、次の行き先をどこにしようかと、とりあえず特別教室棟三階の廊下に集まっていたところだった。汐帆の言葉に俺もスマホを取り出し時刻を確認したところ、確かに十二時を少し過ぎたところだった。この学校の文化祭では十二時から一時までの一時間の間、昼休憩の時間が設けられている。とはいえ全員が全員休憩をしなければいけないと定められているわけでもなく、午後からも仕事のある人はこの時間でその準備をしたり、飲食系の模擬店をしているクラスなどは昼食目的の客のために通常通り営業していたりと時間の使い方は様々だ。

「あー、でも私あんまりお腹は減ってないんだよね」

「千夏も? 実は私もあんまり。午前中だけでそこそこ食べたもんね」

 汐帆が茅ヶ崎の発言に同意を示す。見ると、同様に昼休憩だからと昼食を取りたいという人はいないようだった。それもそのはずで、俺たちはこの特別教室棟に来るまでに本館でそこそこの量を食べていたのだ。汐帆と茅ヶ崎のクラスでは各々小さなお好み焼きを一枚ずつ、また他のクラスではチュロスを一本ずつ。それに加えて校内を巡りながら各自が気になるものを適宜食べていたような記憶もある。そのため、ここにいる全員、満腹というわけではないが直ちに昼食を取りたいという腹具合でもなかった。

「うーん、じゃあどうしよっか。朝一番に来ちゃったから本館の方と今いる特別棟だっけ、の気になる場所はもう周っちゃったし」

 昼休憩のため、お化け屋敷や演劇などの飲食以外の出し物をしているクラスは恐らくそのほとんどが昼食や準備の時間に入っているだろうし、そうでないクラスにしても先輩が言ったように概ね周ったように思う。

「あ、じゃあ私、軽音部のライブ見に行こうかな。確か、軽音部の友達が昼休憩の間にライブするって言ってたから。みんなもどう?」

 悩んでいた四人に汐帆がそう言った。俺は手持ちのリーフレットを広げて軽音部のライブスケジュールを確認する。確かに十二時から一時の欄には「軽音部:ライブ」と書かれており、その次のライブまでは一時間ほどの休憩を挟むようだった。

「潮見さんバンドに興味あるの? なんか、ちょっとだけ意外かも。あ、ごめんね、悪い意味じゃなくて」

 先輩が胸の前で手を振りながらそう言う。汐帆も気を悪くした様子はなかった。

「よく言われます。ただ今回は私の趣味って言うよりは、その軽音部の友達に誘われてって方が大きいですけど」

「ああ、そっか。昨日は委員会の仕事で行く機会なかったもんな」

「うん、そうなの。だから、良かったら並木くんも一緒に行かない?」

 思えば、俺は中学の頃に体育館で聴いた吹奏楽部の演奏を除けば、バンドの演奏というものを生で聴いたことがなかった。有名なバンドのライブにも一度は行ってみたいと思いつつ、やはり高校生の財布には厳しいものがあり、なかなか行くことができないでいたのだ。そのため、なるほど今度の軽音部のライブは良い機会かもしれない。

「ああ、俺も行こうかな」

 俺は汐帆にそう答えた。

「良かった。えっと、他の人はどうしますか?」

「折角だから私も行こうかな。私の学校、軽音部ってなかったから興味あるし」

 先輩がそう言う。汐帆は先輩に頷くと、他のメンバー、茅ヶ崎と剣谷の方を向いて反応を窺った。

「ごめん汐帆、私パスで」

 茅ヶ崎は両手を合わせて申し訳なさそうにそう言った。当然、茅ヶ崎は来るものだと思っていた俺は少し驚いた。

「軽音部のライブって確か講堂だったよね。体育館みたいに広い場所なら大丈夫なんだけど」

「そっか、千夏は暗いとこ駄目だもんね。うん、わかった。私は暗いところは大丈夫だけど、千夏の気持ち、わかるから」

 汐帆にそう言われて俺はようやく合点がいった。そういえば茅ヶ崎は恐怖症とまではいかないまでも、暗所が苦手なのだった。確か幼少のころに自分で押し入れに入って出られなくなったとかで、それ以来苦手になったのだと話していたことを思い出す。

「そういうことなら、俺も茅ヶ崎さんと一緒にいようかな。待ってる間、茅ヶ崎さん一人っていうのも何だか悪いしね」

 剣谷が茅ヶ崎の方を向いてそう言った。

「え、そんなのこっちこそ悪いよ。私別に一人でも適当に時間潰すから、剣谷くんはみんなと行ってきなよ」

「ああ、えっと、実を言うと茅ヶ崎さんのためっていうよりは、俺が茅ヶ崎さんと話してみたいなと思って。ほら、他の人とは何だかんだ話したことあるのに茅ヶ崎さんとはなかったから。折角だからこの機会に仲良くなりたいなと思って。もちろん、嫌だったら全然大丈夫だけど」

 こいつ……まさか朝、校門前で言ってたこと本気だったんじゃないだろうな。剣谷はたまにこういう冗談とわかりにくいことを言う。

「そういうことなら……うん、わかった。じゃあさ、並木の中学時代の話でも聞かせてよ」

 茅ヶ崎はそう言うとにやりと笑った。

「あはは、良いね。そういうのならいっぱいあるよ」

「あの、本人のいないところでそういうことを話すのは良くないと思うのですが」

「でもどこ行こっか。ここで立ち話ってのもなんだし……」

 完璧なまでの無視だった。

「俺はこの学校には詳しくないから任せるよ」

「うーん……あ、そうだ。中庭は? 外だけどベンチなら建物の陰になっててそんなに暑くないと思うし。ほら、どうかな?」

 茅ヶ崎はそう言って、校舎内側に面した窓から中庭の方を指す。俺たちも一緒にそちらを窺う。茅ヶ崎に言われて初めて知ったが、確かに中庭には木製らしいテーブルとベンチが置かれていた。建物や幾つかの木立の陰になっており、それほど陽も強くない今日であれば十分に快適と言えそうであった。中庭には他にも最近になって設置されたプラスチック製のベンチが二つほどあったが、そちらはすでに誰かが座っていた。見た目に年季の入った木製のベンチにわざわざ座ろうというもの好きは普段からいなかったが、それはどうやら今日という日にあっても同様らしい。

「けど、何か今日人多くないか? 文化祭とはいえ、別に中庭でイベントがあるわけでもないよな。あそこなんて木と池くらいしかないだろうに」

 普段ならお昼時に昼食目的でようやく何人か集まるくらいの中庭が、今では敷地の半分くらいが人で埋まっていた。見ると、文化祭実行委員らしい人が二人で、今日のプログラムの最後に予定されているキャンプファイヤーで使うのだろう道具類や薪などを運んでいた。しかし、あの様子で予定されている時間までに間に合うのだろうか、などといらぬ心配をしてしまう。とはいえ、それを加味してもやはり人の数は多い。

「あれ? 並木知らないの? その『木』らしいよ」

 茅ヶ崎は少し驚いた顔をする。

「何が」

 俺はそんな表情をされる心当たりもなかった。木? 木がどうしたって?

「並木のクラスの子が言ってたよ。何でも担任の先生があるジンクスについて知ってることがあったんだって。それで、ジンクスに出てくる木はどこにあるんだってみんな探し始めて、校内で木が植わってるところなら中庭なんじゃないかって思った人が、今ああやって集まってるらしいよ」

 茅ヶ崎にそう言われ、ようやく俺は合点がいく。そういえば今朝のHRで担任がジンクスについて尋ねられて答えていた。なるほど、それなら茅ヶ崎が驚いた顔をしたことにも納得がいく。他クラスである自分が知っているのに、噂の元のクラスである俺が知らなかったのだから。俺もすっかり頭から抜けてしまっていた。いや、しかしあの時担任は自分の名前は出さないように行っていたはずだ。それでも現にこうして他クラスである茅ヶ崎が知っているくらい噂の元として広まっているのなら、きっと誰かが明かしたのだろう。

「ジンクスって?」

 先輩がそう尋ねる。思えば、先輩と剣谷の二人は他校の生徒であるため、当然知りようがない。

「ああ、いえ別に大したことじゃないんですが、うちの学校にあるらしいジンクスの話です。何でも俺のクラス担任いわく、『恋人になりたい人と木に触って、一緒に振り返る』……みたいな」

 俺は今朝の担任の話を思い出しながら、そう言った。

「へえ、そういうのがあるんだ」

 剣谷が興味深そうにそう言う。

「あれ? でも私が聞いた話だと、『二人でヒノキに触れ、振り返る』みたいなのだった気がするけど」

「ああ、そうだっけか」

「なんでクラスの違う茅ヶ崎さんの方が詳しく憶えてるんだよ」

「……いちいち担任の話なんて憶えてないんだよ」

 何なら最近は既に持っている漫画本を書店で見つけてもう一冊買ってしまうなんてことも多々ある。大丈夫だろうか……。

「まあ何にせよ、そのジンクスに出てくる木、檜が中庭にあるからこうして人が集まってるってことだよね」

 剣谷の言葉に、けれど茅ヶ崎はふるふると首を振る。

「ううん、違うの。今集まってる人たちは多分知らないんだと思うけど、中庭に檜なんて植わってないの。それどころか校内どこを探しても檜は一本もないんだって」

 校内で木の植わっている場所など限られている。今見えている中庭の他には、それほど敷地の広くないグラウンドかその辺りだろう。一応校舎の外まで範囲を広げてみても、周りの街路樹などは確かイチョウだったはずだから候補からは除外して良いはずだ。そう考えると、校内でたった一種類の木を見つけるという作業は字面ほどに難事ではなかったはずだ。それでもなかったというのなら、本当に檜そのものが植わっていないとみて間違いないのだろう。

「へえ、それは妙だね。どこからそのジンクスの噂は出てきたのか。元々は全然別の木だったのかもしれないし、そもそもその教師の思い違いだったのかもしれない。色々考えられるけど……そうだ、たとえば昔は確かに檜はあったけど撤去されてしまってジンクスだけが残った、とかは?」

「剣谷くん以外にもそう考えた人がいたみたいで、結構長くこの学校に勤めてる教師とか用務員さんにも聞いてみたんだって。でも檜が学校に植わってたって事実はないみたい。ジンクスについても、そういうことを話している生徒がいたっていうのは知ってるけど、詳しくはよく知らないんだって」

 俺はもう一度中庭の様子を窺ってみる。彼ら彼女らのうち、何人がそこに目的の木がないと知っているのだろう。俺はそう考え、いやと考えを改める。別にそこに檜が植わっていようがいなかろうが、彼らにはきっと然したる問題でもないのだろう。遠目に見える中庭に集まった人たちの姿には、ジンクスを積極的に信じているようなものはそれほど多くないように思えた。恐らく、今あそこにいる彼らの多くにとって、ジンクスの存在が本当であろうがなかろうが、どうだって良いのだ。以前から気になっていた相手や文化祭で見つけた気になる相手を誘う口実にさえなれば。今日という祭りの只中にあっては、きっと誘う側も誘われる側も大胆に、そして寛容になれる。そんな人たちにとって、ジンクスの存在はまさに願ってもない状況なのだろう。

「へー、けどそのないっていうのが何だか真実味を増してる気がするね」

 先輩がそう言った。確かに、これで学校中に檜が植わっていたなら、そんなジンクスなんてと一笑できたかもしれない。きっと一時の話題になることはあっても、すぐに忘れてしまうようなものだったはずだ。恐らく、学校中を探しても見つからないというこの状況が、こうして多くの生徒らを惹きつけるのだろう。それを先輩の言ったように真実味と称することは、あながち間違いでもないように思えた。

「けど、ジンクスってどこの学校にもあるもんなんだね」

「あれ、うちにそんなのありましたっけ。聞いたことないな」

 先輩の言葉に剣谷がそう反応する。先ほどジンクスの話を興味深そうに聞いていた剣谷が知らないとは、情報網の違いだろうかと思っていたところ、先輩は笑いながら手を胸の前で振った。

「違う違う。高校じゃなくて中学のころだよ。ほら、図書室で特定の本を借りると、みたいなの、なかった?」

 そう言われて初めに合点がいったのは剣谷ではなかった。

「あ、ありました。あれって涼風さんの代からあったものなんですね」

 汐帆はどこか懐かしむようにそう言った。その汐帆の反応で剣谷も思い出したようであった。

「ああ、うん。あったあった。ありましたね、そういえば。確か、太宰の『走れメロス』を借りると足が早くなる、だっけ。いや、別の作品だったかな……」

「え、私それ知らないかも。私が知ってるのは、何か推理小説を借りると頭が良くなる、だったような……」

「あれ、そうなの? 私の時は、『源氏物語』を借りると恋が成就する、だった気がするけど。……あはは、何か全員違ってたね」

 先輩はあれえ? と首を捻る。

 確かに、一年の学年差、何なら剣谷と汐帆の二人は同じ学年でありながら、こうも伝わっている内容に違いがあるというのも面白い。それに先輩の『源氏物語』は別として、汐帆の推理小説と、短編集だとしても割合早く読めるだろう『走れメロス』に関しては、なるべく本を読みたくないという中学生の心理が反映されているように感じる。わかりやすいと言えばそうなのかもしれないが。というか『走れメロス』を借りると足が早くなるって何だよ。小学生ならいざ知らず、中学生で足が早くなることに魅力を感じるものなのだろうか。

「それで、先輩はそのジンクスはやってみたんですか?」

 俺は何となくそう尋ねてみた。先輩は少し思い出すようにした後、

「……ううん。私、そういうの信じてないから。でも図書室自体にはよく通ってたかな」

 と言った。

「へえ、そうなんですね」

 先輩と本。頭に浮かんだその二つは、決してアンバランスな組み合わせだとは思わなかった。

「本が好きっていうよりは、あのたくさんの紙が集まった匂いが好きでさ。本が好きな人にとってはちょっと不純な動機かな」

 先輩はどこか懐かしむようにして、少し照れたように笑った。

「あ、ちょっとわかるかも。私もあの匂いがすると気が引き締まると言うか、静かにしないとって思っちゃいます」

 茅ヶ崎がそう言った。俺にとっての図書室は試験勉強などをする際に利用する場所で、必ずしも本を借りたり、読んだりする場所ではなかったが、なるほど茅ヶ崎の言ったことは少しだけわかる気がした。

「そういえば、卒業した後に後輩に聞いた話だと、そのジンクスもすぐになくなったらしいですよ」

 剣谷がそう情報を付け足した。俺たち全員に聞かせるというよりは、先輩と汐帆に聞かせようと言ったのだろう。

「そうなの?」

「何でもそいつが知ってた最後のジンクスは、学期中、図書室に一歩でも足を踏み入れると何でも願いが三つだけ叶う、だったそうです」

「何か、ジンクスってよりは願望って感じの噂だね」

 茅ヶ崎が呆れたようにそう言うと、先輩が「確かに」と笑った。

「そっか、なくなっちゃったのかあ。あ、でも、私の時のジンクスの話には続きがあるんだよね」

「続き?」

 俺は先輩にそう尋ねる。

「そう。えっとね、確かこのジンクスが流行りだした時、図書室の貸し出し割合で急に『源氏物語』がトップになったんだよね。茅ヶ崎さんが言ったように、今思うと中学生ってわかりやすいよね。それでその貸し出し割合の話を誰かから聞いたらしい私のクラスの担任が、生徒が古典に目覚めたんだって勘違いしちゃって。それ以来古典の宿題が倍くらいに増えちゃったんだよね。担任も、生徒の誰も古典の成績が上がってないところで気付いても良かったと思うんだけど──」

「……あ」

 俺は思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。その様子を見てみんなが何事かと見てきたが、俺は「いや、何でもない」と首を振る。

 俺は廊下に据えられた窓から中庭の様子をもう一度窺う。新しい方のベンチには先ほど見た時とは違う誰かが座っていたが、古い方のベンチとテーブルには相変わらず人はいなかった。キャンプファイヤーの薪を運んでいた委員会の二人も、なかなかその人数で仕事をこなすのは厳しいようで、脇に置かれた薪はまだまだ残っていた。中庭にいる人たちの数も先ほどとはあまり変わっていない。

 多分、俺の考えが正しければ、この学校のジンクスの真相はわかった。俺は頭の中で何度も考えを反芻する。けれど、真相がわかったところで、ひとつ問題があった。それがこの場では何の意味も、力もないのだ。この状況を変えられるだけの発言力が、俺にはない。

「じゃあ、そろそろ行かない? 千夏も剣谷くんも中庭に行くんなら、一階までは全員一緒だね」

 汐帆が全員にそう声を掛ける。

「そうだね。じゃ、行こうか」

 剣谷の言葉で、全員が階段へと歩き始めた。幸いなことに、話をしながらであったためか、みんなの歩みはそこまで早くない。何とか一階に辿り着いてしまう前に方法を考えなければ。

 俺は頭を精一杯にフル回転させ、妙案を思いつくのを待った。けれど状況というものは、得てして、いくら自分一人で必死になって考えたところで変えられるものではない。そしてそれと同時に、たった一人の闖入者によっていとも簡単に変えられるものでもあるのだ。

「あれ、並木くんとその一行じゃーん」

 突然、背後から如何にも気安い様子で声が掛けられた。いつもなら面倒くさいとすら思うはずの声だったが、この時の俺には彼女の存在ほどありがたいものはなかった。

けれど、状況がこうして整った今、俺にその役割がこなせるだろうか。いつか剣谷があの喫茶店でただのレジ袋を彼女へのプレゼントだと推理したように。夏祭りで汐帆が見知らぬ男が怒る理由を推理したように。俺も彼らのようにできるだろうか。形だけでも良い。この場でだけ、俺は探偵である必要がある。

もう一度、頭の中で考えを見直すと、俺はおもむろに声の主を振り返った。

「あれ、朝見た時よりも人数増えてる? まあいいや。並木くん、どう? 何か良いネタは見つかった?」

 そういう朝日ヶ丘は朝見かけた時と変わらず、いつもの丸眼鏡に首からデジカメを下げた姿でそこに立っていた。見ると、手には何もカバーを付けていないスマホを持っている。

「朝日ヶ丘。……あるぞ、記事のネタ」

 俺はスタスタと近づいてきた朝日ヶ丘にそう言った。

「あれ、そうなの? 正直あんまり期待してなかったんだけど……まあいいや。発刊予定の学内新聞、あとちょっとで完成しそうなんだけど、これがなかなか浮かばなくってさ。ネタくれるってんなら願ったり叶ったりだよ。で、どんなの? あ、一応言っとくと記事の正確性担保のために謝礼とかはないから、そのつもりで……って並木くんは知ってるか」

 俺は相変わらずの朝日ヶ丘の性格と勢いに少し気圧されそうになる。しかし、すぐに思い直す。今は彼女のこの性格と勢いが俺にとって何よりも大事なもののはずだ。

「太陽、急にどうしたの? それに記事のネタなんて……」

 状況を呑み込めない様子で先輩がそう声を掛ける。俺はみんなの方を向く。見ると、先輩だけでなく茅ヶ崎もどこか状況が呑み込めていないような、そんな顔をしていた。けれど、剣谷と汐帆は違った。二人が、これから何が起こるのか興味深そうにしているように見えたのは、俺の気のせいだろうか。

俺は音がしないくらいにゆっくりと、けれども十分に空気を吸うと、後ろにいる朝日ヶ丘にもちゃんと聞こえるくらいのボリュームで話を始めた。

「ジンクスの真相がわかった」

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