第28話

 思えば、あの日先輩と水族園にさえ来なければ、関係の解消を持ち掛けられることもなく、すべては元のまま進んだのだろうか。

 カタンカタンと揺れる列車のなか、汐帆と一緒にシートに座る俺は窓の中から焼けた空を覗き見る。

 あの時も何百回と考え、そして答えの出なかった問いを今更考え直してみたところで、どうにかなるわけでもなかった。

「……八月も終わりだね。並木くんは今年の夏休みはどうだった?」

 横に座る汐帆がそう言う。

「ああ……」

 俺はこれまでの出来事を振り返ってみる。汐帆と茅ヶ崎の二人と夏祭りに行った。今日みたいに汐帆とも何回か出掛けた。一度、茅ヶ崎のバイト先のカフェに行ってみたこともあった。あとは、厳密には夏休みに含まれるのかどうかわからないが、終業式の日には剣谷と会った。そして……涼風先輩ともまた会うことができた。それらを思い返して、俺は今年の夏休みに何を思うだろうか。

「楽しかったよ」

 本心だった。汐帆と茅ヶ崎と出掛けたこともそうだが、剣谷や先輩と昔みたいに話せたことが自分でも驚くほどに心に残っていた。ただ、それだけに剣谷とあれで終わってしまうのが、先輩の誘いを断ってしまったことが心残りだった。

「あ、でも千夏も言ってたけど、私たちの学校って夏休みが明けてもすぐに文化祭だから、まだしばらく楽しい期間は続くね」

 だから、汐帆にそう言われて初めて、俺はすっかり頭から失念していたその存在を思い出す。

 アナウンスが流れ、かつて俺と涼風先輩が水族園の帰りに降りた駅に電車が停まる。ドアが開いて乗客の何人かが降りていく。やがてドアは閉まり、電車はゆっくりと動き出した。降りて行った人たちを眺めながら、俺は電車の揺れにただ身を任せていた。

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