第25話

 それから俺たちは試行錯誤をしながら、どうすれば先輩に告白してきた男に自分たちが付き合っているように見えるかを考え、良さそうな案が思いつけば、それを実行に移した。やはり俺が他校なこともあり少し工夫は必要だったが、放課後、先輩と二人になったタイミングでそれを話し合う時間さえもが俺にとっては至福の時だった。俺の学校が早く終わった時などは先輩の学校まで迎えに行ったり、時にはそのまま手を繋いで帰ってみたこともあった。繋いだ手にばかり意識が取られ、自分が何を話しているのかわからなくなり、先輩に笑われた憶えもある。たまに剣谷が一緒になって帰ることもあり、それはそれで楽しかったが、やはり先輩と二人ならと思ったこともある。流石にフリなだけあってそれ以上のことに及ぶことはなかったが、それでも当時中学二年の俺には十分すぎるほどの贅沢だった。その作戦が功を奏したのか、先輩に告白してきた男も以来鳴りを潜めたという話を聞いた。

 やがて俺と先輩は休日にも二人で出かけることが増えた。初めのうちは休みに付き合っている姿を見せると効果的だろうということで、相手の行動範囲も考えて近場へ出掛けることが多かったが、次第にそれも関係なくなった。

 俺と先輩はその日、少し遠くの水族園へと出掛けていた。ラッコが泳いでいるところを楽しそうに見ている先輩の横顔を見ながら、俺はフリでここまでするものなのかと思いつつ、それを決して口に出すことはなかった。俺に求められているのは彼氏としての並木太陽なのだから、今は深く考える必要などなく、ただこの瞬間を彼氏らしく楽しめば良いのだと思っていた。

 その日は午前中に二人の最寄り駅の丁度真ん中の駅に集合したから、帰りは駅に着き次第解散する流れとなった。日中をほとんど行動していたこともあり、帰りの電車の中では疲れてお互い口数が少なくなっていた。けれど、無理に話さなければとも思わなかった。その時はただ、二人で肩を寄せ合い電車に揺られる時間が心地良かったことを憶えている。

 そうして駅に着いたころ、辺りは夕焼けで赤く染まっていた。

「じゃあ、明日は学校早く終わりそうなんで迎えに行きますね」

 改札を抜けると、俺は後ろの先輩を振り返りそう言った。しかし先輩からは反応がない。少し下を向いてその場に立ち止まる先輩の表情は、夕日が逆光になってよく見えなかった。

「あのね、太陽、もう私たちのこの関係終わりにしない?」

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