第22話

「あ、帰ってきた。千夏がいなかった間にもう花火打ち上ってるよ」

「いやあ、思ったより人多くて迷っちゃった。ごめんね」

 茅ヶ崎はシートに座る前にこちらに目配せをしてきた。その意味は明白で、俺は照れくささから思わず目を逸らす。あいつ……。どうやらまた弄られそうだ。

 その一連のやり取りに潮見は気が付いていないようだった。

「あれ? ていうか雨止んでない?」

 茅ヶ崎はそう言って手庇の間から空を見上げる。

「え? あ、ほんとだ。どうせなら花火の最初から止んでてほしかったね」

「それもそうだな」

俺はそう言う。何にせよ、これでようやく純粋に花火鑑賞だけを楽しむことができるようになった。先ほどから休まることなく打ち上る花火の振動は空気を伝ってこちらまで届いている。

敷かれたレジャーシートの面積は相変わらず三人で座るには少しだけ小さかったが、今はそれほど気にならなかった。

「来年も……」

「え?」

 潮見が声を発した俺の方を向く。俺は打ち上る花火の方を見ながら続けた。

「来年も来られると良いな」

「……うん」

 花火の打ち上げはまだ始まったばかりだった。そして何となく、俺は今年の花火をこの先もずっと思い出しそうだなと、小さなシートの上で潮見の肩に触れながらそう思った。

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