第16話

 花火大会自体は市の最南端に位置する砂浜で行われるが、それに伴って縁日や有志によるステージなども催されるらしく、実質的な会場は総合公園も含めた人工島の半分程になる。俺と潮見、茅ヶ崎の三人はその人工島へと渡るための大橋の上にいた。

「市街地に住んでるとこっち側ってあんまり来ることないけど、流石に普段からこれだけの人がいるってこともないよね。今日こんなに大勢の人が集まって、やっぱり住んでる人は迷惑だったりするのかな」

「どうだろうな。意外と年に一度の祭りってだけあって楽しんでるんじゃないか。まあでも、終わった後のゴミとかは流石に迷惑だろうけどな」

 茅ヶ崎の口にした疑問に俺はそう答える。

 そうして三人で話しているうち、次第に人の波が橋を渡り切っていく。そうして俺たちも波が砂浜に寄せるようにして、ようやく人工島に着く。すぐ目の前の道路にはすでに交通規制が行われており、その光景がより自分たちを年に一度の祭りに向かっているのだという感覚にさせてくれた。

 会場以外のどこに行く当てがあるわけでもなかったので、俺たちは相変わらず人の波に流されるままに身を任せた。途中、コンビニが数件あるのが目に入ったが、潮見の言ったようにどこも人で込み合っており、満足に買い物ができる状態ではなさそうだった。これがもし俺と茅ヶ崎の二人だけだったらと思うとぞっとする。あの時コンビニに寄るよう提案してくれた潮見様様だ。

「うわあ、わかってたけどやっぱり人多いね。打ち上げにはちょっと余裕持って来たのになあ」

 茅ヶ崎が会場である総合公園を見て、そう言った。俺たちの目の前にはそこそこの広さを持つであろう総合公園を埋め尽くさんばかりの人の姿があった。

「花火大会はまだでも縁日自体は昼からやってるから、きっとそのせいだろうな」

「だね。じゃあ折角だし私たちも見て回ろうよ。打ち上げまではまだ後一時間ちょっとあるしさ。それに歩いて小腹も空いたことだし」

 茅ヶ崎はそう言って、「たこ焼きたこ焼き」と口にしながら歩いていこうとする。

「あ、待って千夏。ここは人も多いから、多分はぐれちゃったら探すのに時間取られちゃう。一緒になって周ろ?」

「あ、そっか、ごめん。そういや私、今髪暗いんだった」

 茅ヶ崎はそう言って、自分の髪を指で掴んで見た。そろそろ暗くなってくるであろう今の時間を考えると、確かに一度逸れた茅ヶ崎を見つけるのには相当苦労しそうだった。思えば、以前の明るい髪色の時は、それが目印となって茅ヶ崎のことを見つけられたことが何回かあった。

「あの人くらい身長あれば髪色関係なく目印になるのになあ」

 茅ヶ崎はそう言って俺の後方を見る。しかし、俺が振り返った時にはちょうど肩車をした親子が目線を遮り、茅ヶ崎の言う背の高い人物を見ることはできなかった。

「私は千夏くらいの身長、羨ましいけどね」

 潮見がふと、そう零した。潮見の身長は男子としては平均的な俺の身長よりも数センチ上なわけだから、高校二年の女子どころか成人女性、何なら成人男性の平均よりも幾分か高いはずだ。茅ヶ崎にそう言う潮見の声色には、どこか切実な思いが含まれているようにも思った。

「汐帆はスタイル良いから良いの。それにきっとそれも含めて汐帆の良さだよ。だから自信持ちなよ」

 そう言う茅ヶ崎に潮見は少し微笑んで「うん」と返した。それはいつも茅ヶ崎が潮見に掛ける言葉だった。

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