第14話

 ベッドの上で横になった俺は何とはなしにスマホの画面を眺めていた。画面上部に表示された時刻はもうすっかり今が夜であることを示している。部屋に据えられ閉め切ったカーテンの間を見ても、外からの光は差していない。

 今日は本当に色々なことがあったなと俺は一日を振り返る。午前中は終業式があった。そういえば、正門前で茅ヶ崎が一人だけ教師に捕まっていたっけか。あの後、彼女は無事に帰れたのだろうか。

 そして、俺は机の上に置かれたブランドロゴの入ったショッパーを見る。午後からは繁華街までプレゼントを買いにいった。剣谷と出会い、案内されてあいつの叔父さんがやっている喫茶店で食事をした。そこであいつの推理を聞いたんだった。

 そして、帰り道に先輩と再会した。

 俺はスマホの画面をロックし、ベッドの上で上体を起こす。そして、目の前に据えられたラックを見るとはなしに眺める。

 今の自分の気持ちに全く整理がついていないことはわかっていた。自分が去年、先輩の代わりとして潮見と付き合い始めたとは思えない。ただ、先輩のことを想う気持ちが全くないかと言われれば、自分でもどうにもわからなかった。今日の終わり、先輩に会った時に抱いた感情は本当に友達に対するそれだけだっただろうか。

 俺はベッドから立ち上がり、ラックに収められたCDケースを取り出した。中のCDを取り出し、プレーヤーにセットする。椅子に座ってヘッドホンを付け、そうして流れてきた曲は、いつか誰かに夏にリリースされたものだと教えてもらった気がする。

 そういえば、夏休みには潮見と茅ヶ崎と花火大会に行くことになっていたんだった。あれの日付はいつだっただろう。そう思い、俺はスマホのロックを解除してブラウザを開こうとした。

 ポキポキという通知音とともに、画面上部にポップアップが出る。ドキリとした。そこには「すず」と表示されていた。

 『今日はありがとね』という文章とともに、どこかで見たことのあるデフォルメされたキャラクターがお辞儀をしているスタンプが送られてきた。俺もそれに無難なスタンプで返す。送られてきた『また会おうね』という先輩のメッセージに、俺は『はい』と返す。俺たちはしばらく、そうして何でもないやり取りをした。

 卓上時計を見ると徐々に夜も深まってきている。いつもならもう少し起きている時間だったが、今日は色々とあったせいで思ったよりも身体が疲れていた。俺はそろそろ話を切り上げようと、ノロノロとした手つきで文章を入力する。けれど、俺が文章を入力し終わる前に、先輩の方から先にメッセージが届く。

『そうだ 今度の花火大会の日、空いてたら一緒に行かない?』

 この時になって、ようやく俺はヘッドホンから流れてくるその曲が汐帆の薦めてくれたバンドのものだということを思い出したのだった。

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