砂漠にペンギン

末人

第1話 選ばれたのは砂糖水でした。

 今、我は砂漠にいる。文字通り砂漠にいる。そして我はペンギンである。読者用に三段論法を使って要約しよう。砂漠に一匹のペンギンがいる。

 まだ少々我の言っている意味が分からない者の為に倒置法を用い、もう一度言おう。砂漠にいる。ペンギンが。


 どうしてこんな悲劇が起きたのか。さかのぼること三日前。

 南極ペンギン連邦議会討論会にて。我は野党・甘党から大統領選に出馬していた。これは対立候補のペンの助氏(与党・辛党)との口論の回想である。


ペンの助「クアッ、クアア!(今、南極は地球温暖化の影響をもろにくらっている!このままでは環境破壊によりとれる餌が足りなくなる!そんな時だからこそ私たち辛党が政権を担うことのできた暁には、皆様に毎月1kgの韓国キムチを配給いたします!) 」


我「クガッ、クア、クアアア! (皆さん!ペンの助氏は昨年のオキアミ賄賂問題に関し国民に何の説明責任も果たさず、おまけにイカ税の増税をした大悪党です!第一、キムチで腹いっぱいになるわけない!お腹を壊すだけだ!ありえない!) 」


ペンの助「クア、クアクア?(であれば甘党は何を配給するというのか?) 」


我「クア…クアクア! (んー…我々は…あっそうだ!砂糖水を配給いたします!) 」


ペンの助「ククックw(そんなもので腹が満たされるわけなかろう。仮にサハラ砂漠          にでも行ってみろ、三日で死ぬぞ!)」


我「クア!(三日どころか永住できるわ!お前こそキムチじゃ二日で餓死だ!)」


ペンの助「クッア!(言ったな?やれるものならやってみろ!)」


我「クアッ…!!!(望むところだ!!!) 」


 といったところで我とペンの助はサハラ砂漠のそれぞれ別地点で、己の信ずるもの(砂糖水と韓国キムチ)だけを携え、サバイバルゲ―ムが始まった。生きていた方が大統領、死んだらあの世だ。

 なお先の討論を見ていた国民は政治に絶望し、ぐったりしていた。また、先ほどのペンギンの声のイメージがつかなかった人間諸君!「ペンギン 声」と検索してみよう。


 というわけで我は先ほどから右フリッパー(翼)に一本の砂糖水を持ち、一人(一匹)でただ唖然としている。周囲を見渡しても誰一人としておらず、快晴の空のもとただひたすらに砂。ただただ砂しかない。いやあ、いとをかしである。仮に清少納言がここにいれば春は砂。夏は砂。秋は砂。冬も砂であろう。ところで先ほどから暑すぎて絶賛死にそうである。ゆえに早速、持参の南極産砂糖水を飲んでみることにした。嘴にペットボトルを器用に加えごくごく飲んでいく。砂糖水に入れていた氷は既に溶けていた。

 十分後。おかしい。我は先ほど砂糖水を十分に飲んだはずなのに喉が渇いた。しかもさっきよりもより乾いたように感じる。(説明しよう!糖分を過剰に摂取すると体が薄めようとして水分をより欲すようになるのだ!)

 もう砂糖水はペットボトルの半分もない。この残りの分の砂糖水が自分の残りHPを示しているようで怖い。とにかく、この炎天下のなかだ。もっと水を探さなくては。砂漠にはオアシスという水の宝庫があると聞く。それを探し黙々と一匹歩きさまよっていく。

 五分ほど歩いたところに大木があった。よく見るとその下には水がある!数メートルほどの大きさではあるが十分である!我は砂糖水ではなく真水に浮気することにした。浜辺で美女を追いかけるようにるんるんと木の元へ行く。だがしかし、オアシスの大きさが大きくなるごとに水の色が変化していく。何やらグレーだ。というかどす黒い。加えて臭い。よく見るとフンや尿でオアシスは汚染されていた。

「グアッ!(くそ!!!)」。最悪である。こんなの飲めるわけない。飲めば腸内の善玉菌が全滅することは火を見るより明らかだ。この屈辱から自分も糞をここに置き、上書きすることにした。

 オアシスに己の存在を上書きし、上機嫌にはなったものの、すでに脱水症状と暑さにより無事に死にそうである。我はその場に倒れこんだ。もう無理である。死ぬ。せめて死ぬ時ぐらいは糞尿ではなく、美しい花々に囲まれったかったものである。大木の枝が風により揺れ、「天国においで」と言っている気がする。さっきから右耳のもとではグモオオオ!と幻聴も聞こえ始めた。もう、駄目である…。


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