第12話
「とりあえず今は話半分でいい。君のおじいさんであるデイビッドさんは神仏の融合を研究していたろ?その集大成が双恩慈産霊神なんだよ。デイビッドさんはどうにかして神の片割れ、ラテン語を話す女神を村まで連れてきた。そしてその村で祀られていた神と融合させ、それを新たな神として信仰の対象にしたんだ」
「君はもう日本の神の名前を学んだかい?それなら双恩慈産霊神という名前にどこか違和感を抱くと思うんだ」
「土着の神様なら、だいたいその地でわかりやすい二つ名があるんだよ。お狐様、おしらさまとかね。でも、ずいぶん長くそして信者も多いはずの双恩慈産霊神はそれがない。二つの面を持つ、恵みを与える土地の神。そんな正式な名前しかないんだ」
「あとなんか……ちょっとかじった人間が頑張って考えてつけた名前のような印象があるよね」
「あの録音した音声は、その縛り付けられた神々の恨みつらみだと思うんだ。それと、こんな資料を見つけたんだ」
大木先輩は、資料の中から大きな本を取り出す。図書館で貸し出し不可になっている辞典のような大きさだ。表紙には、村のある地方の郷土・民族史と書いてある。発行は明治のようだ。ほこりを舞い上がらせながらページを開き、ある部分を指さす。
「ここみてよ。所在地的にも同じ村だと思うんだ」
確かに、同じ名前の村の記事だ。そこには、『ヤマガミサマ』という神様が信仰されていて、数年に一度男の子の人身御供が行われているという記事だった。
「こんな神様しらない……人身御供なんて聞いたこともないよ」
「この時代なら人身御供はまだあることだ。もしこの神様と外国の女神が融合させられていたら、これらの事件もつじつまが合うと思うんだよな」
向けられたパソコンの画面には、4つの切り取られた新聞記事があった。画面越しにもわかる黄ばみがそれらの古さを物語っている。3つは村周辺で起きた失踪事件に関する新聞記事だ。どれも小さく、男の子が村の近くにある山へ入り行方不明になったと書かれている。子供の失踪事件にしてはずいぶんと小さな記事だ。そして1つは古い日記帳からの抜粋のようだった。ヒステリックに書きなぐったような文字で、『村のために佑馬を育てたわけじゃない』と書かれている。
「最後の日記は、自殺した女性の手記だ。佑馬君はおそらく、君と同世代だと思う」
佑馬という名前には聞き覚えがあった。いつか遊んだ、村の子供の一人にそんな名前の男の子がいたような。思えば、村で遊んだ子供たちは男の子の方が多かった気がする。それなのに、今回の帰省で光香以外に会うことはなかった。ほかの村人は、皆両親より年上のようだった。若い世代は光香以外に一切会わなかった。
「市町村のサイトでは、転出率が乗っているんだ。みてくれ」
開かれたサイトには、ある年から毎年2、3世帯ずつ転出が続き、そして近年の転出はゼロになっている表が掲示されていた。
「いけにえにしようと思っていた男の子たち、逃げちゃったんだろうね。何でご両親が村に帰省しなくなったのかちゃんと聞いてみるといいよ。村に帰ったのも会わせて報告してね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます