第6話
純はおもむろに胸ポケットをまさぐると、ボイスレコーダーを取り出した。ちまちまとボタンを押し、耳元に当てる。
「よし、撮れてる」
「録音していたのか!?」
「正式な研究のインタビューなら許可が必要だろう。でもこれは僕の趣味だ。環境音から記憶を呼び起こすためにも、毎回レコーダーをまわして動いているよ」
ぎょっとして声を上げる僕に対し特に悪びれもせず、純はレコーダーを再開してポケットにしまった。時々、この明るく誰とでも仲良くできる友人の興味関心に対しての恐ろしく合理的なところに背筋が寒くなってしまう。
「神社の写真ってとってもいいかな」
「写真ぐらいならいいんじゃないか?」
そもそも観光地ではないただの田舎の神社に写真がだめという規定なんてないだろうし、僕がだめといっても純はどうにかして写真を撮りに来ただろう。その時村人に会ってトラブルになり、祖父母が気まずくなるよりは今誰もいないタイミングでさっさと撮らせて退散したかった。
純は神社の周りを小走りで回って、何枚か写真を撮っている。改めて神社を見ていると、思い出の中の神社との違いにため息が出た。長年の雨風であせた瓦に、苔の這う緑の壁。子供の遊び場になっていて、僕もよく追いかけっこをしていたっけ。光り輝く2色の瓦を眺めていると、スマホが震え始めた。
「もしもし、おじいちゃん?」
『洋太郎、約束をすっぽかしてすまなかった。暑くなる前に一旦家に帰ってこい』
「わかった」
純が気分を害していないか心配する祖父に、純はそんなことで怒ったりしないと伝えて電話を切る。いつの間にか日が高くなり、頭皮をじりじり焼いてくる。振り向くといつの間にか純の姿が見えなくなっていた。
「おーい、純?」
呼んでみると、純が石垣からひょいと顔を出した。また境内に入っていたようだ。
「あのマントラみたいなの、聞こえなくなってる」
「集会でもしていたのかな。ここに祀られているのは土着の神様だから、お坊さんも神主さんもいない。村のみんなでお世話しているから」
周りの畑を見回すと、車も農具もなく誰もいる気配がない。やはりさっきのマントラもどきは村の人たちが唱えていたのだろうか。
「そうなんだ。いいねぇ昔からの大切にされている神様がいる風景」
純は額の汗をぬぐい、満足そうに笑う。祖父が帰ったことを伝え、僕たちは帰路に就いた。
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